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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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外伝 ミオ視点 6

ミオ視点です。

「ただいま戻りましたー」

「早かったの。どうじゃった? あの人の子は」

「それがですね、なんとビックリ! 瑞樹圭にハル姉さんが施した記憶消去は、不完全でした」

「不完全とな?」

「はい。極僅かですが、綻びがあります」


 瑞樹圭の記憶を確認して、土地神様の社まで戻ってきた。

 ハル姉さんの様態に変わりはないようでよかった。


「おそらくハル姉さんが無意識下で力を制限してしまった為に、完全な記憶消去が出来なかったんでしょうね」

「それならあの人の子は、ハルちゃんを忘れとらんのか?」

「いえ、本当に小さ過ぎる綻びです。ハル姉さんご本人も気がつかれないレベルですし、あれでは流石に思い出せないでしょう。何度もハル姉さんに会えるのなら思い出すかもしれませんが、どうもハル姉さんは一度しか会いに行かないつもりみたいですし」

「そうか……」


 "僕は記憶を消されても、思い出してみせます!"

 "だからハルさん、僕から記憶を消しても会いに来て下さい。来てくれたらもう一度、ちゃんと言い直すので、その時は返事を聞かせて下さい"

 "お別れにはさせませんよ"


 瑞樹圭の言葉……なんて愚かなんだろう。

 私達の力の強さも知らないで、本気で打ち勝てるつもりでいるだなんて。


 瑞樹圭の記憶を見た限り、彼自身にはこれといって特出した能力があるようには思わなかった。

 ハル姉さんと過ごした日々も見させてもらったけど、深い信頼関係を築いたようにも感じない。

 それなのに、熊さんの記憶で見たハル姉さんは、痛々しい程に泣かれていた……


「瑞樹圭が綻びに気が付かなければ、自然に塞がってしまうでしょうね」

「どうするのじゃ?」

「このままにしておくのは双方に良くないですからね、正直悩んでいます。私の力で完全な記憶消去を行うか、それとも……」


 リリーの話を聞いていなかったら、ここまで悩んではいなかった。

 私は、ハル姉さんが闇堕ちする可能性はほぼないと思っていたから。

 ハル姉さんが大切な人から忘れられる経験をまたしてしまった事を残念には思っても、それだけだった。


 でも今は、リリーの言っていた通り闇堕ちの危険性もかなり高まっているように思う。

 そしてリリーの話を聞いたからこそ、それがハル姉さんの瑞樹圭への気持ちの重みなのだという事を考えてしまう。


 私は、闇堕ちを未然に防ぐ事が仕事だ。

 となれば現状で行うべき最善の対処法は、ハル姉さんが施し損ねた瑞樹圭への記憶消去を完璧にし、ハル姉さんからも瑞樹圭の存在を消す事、なんだけど……


「ん、うっ……け、い君……」

「ハル姉さん……」


 ハル姉さんが譫言を発している。

 さっきまでは譫言ですら発せられる状態じゃなかったから、それを思えば生命力が回復してきているんだろう。

 でも顔色は悪くなっている上に、泣いているように見える……


「もう、こんな顔をしてほしくはなかったんですけどね……」

「ミオちゃん?」

「土地神様は、私の存在意義って何だと思います?」

「世界の浄化やバランスの維持を自身の存在意義だと思うておるのなら、それは違うぞ? そもそも存在意義なんぞは……」

「ふふっ、ありがとうございます。ですが、そういう話をしたい訳じゃないんです。私には、明確な存在意義があるんですよ」

「明確な存在意義?」


 世界の浄化やバランスの維持、闇堕ちへの対処の為にだったら、私以外のミオで十分だ。

 私という特殊個体は必要ない。

 それなのに本体は態々私を作った……


「私は時として、他のミオとは違う行動をします。それは、自身の感情を優先して動いてほしいという本体の意思です。つまり私の存在意義は、感情任せに動く事にあるわけですね」

「感情任せに……よいのか?」

「まぁ、よくはないですね。ですので、本当に少しだけですよ」


 ハル姉さんから瑞樹圭の記憶を消したくはない。

 瑞樹圭にハル姉さんの事を思い出してほしい。

 そんな感情に任せ、記憶消去を行わないでいれば、最悪ハル姉さんは闇堕ちしてしまう。

 ただその闇堕ちがすぐではないのなら、少しくらい感情任せに動いても問題はない。

 常に闇堕ちを防ぐ最善策をとるミオとしてはあり得ない行動だけど、私はこういう時の為に存在しているんだから!


「少しとは……? さすがにあの人の子に記憶を戻してやる事は出来ぬのだろう?」

「そうですね。私に出来る事は精々、闇堕ちの危険性があると分かっていながら放置する事と、瑞樹圭が綻びに気付きやすくする事だけですよ」

「気付きやすく?」

「応援です!」

「お、応援とな?」

「はい!」


 私に出来るのは応援だけ。

 その応援がどれだけ瑞樹圭の力になるのかは分からないけど、あれだけの啖呵を切ったんだ。

 その覚悟を見せてもらおうと思う。


「その応援で、あの人の子はハルちゃんを思い出せるじゃろうか?」

「それは彼次第ですが、まぁ思い出してもらわないと困りますね。もし思い出せないようなら、消し炭にしますから」

「消し炭に……」

「ふふっ、なにせハル姉さんを泣かせた男ですからね!」

「ほっほっほ、それは楽しみじゃ」


 私が笑いかけると、土地神様も笑って下さった。

 この方はきっと、今の私の発言を冗談だと思い、瑞樹圭がハル姉さんを思い出すのだと信じているんだろう。


 ただ申し訳ないけれど、私はそこまで瑞樹圭を信じる事はできない。

 だからもし思い出さなかったその時は、ハル姉さんと瑞樹圭の記憶はもちろん、土地神様や熊さんの記憶も全て、完全に消し去らないといけない。

 それに加えて、私の記憶にも"鍵"をかけないといけないな……

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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