外伝 ミオ視点 3
ミオ視点です。
ハル姉さんの近況を土地神様に聞き、ハル姉さんには親しくなった男性がいる事が分かった。
世界の核を守る結界を通しているみたいだし、相当に信用しているんだろう。
しかも単に信用しているだけでなく、かなりの好感も抱いているようで……
「以前ハル姉さんとお会いした時も、その一般人に特別な感情を持っているようでした。ですがまだご自身の気持ちには気が付いておられないようでしたし、おそらくそこまで親密な関係でもなかったでしょう」
「そうじゃろうな」
「だから、少し勿体ない気もしましたが、ハル姉さんの記憶は消すつもりだという判断にお任せしました。それがまさかいつの間に? しかも結構な短期間ですよね?」
恋愛感情というものは、長い年月を経て、より親密になっていくのだと認識していた。
一目惚れや吊り橋効果といった特定条件下においては、振り幅に大きく変動があるものだとは知っていたけど、それがハル姉さんにも該当してしまうなんて……
助けてもらった事が、そんなに嬉しかったのか?
でも、あの時は確実に記憶を消すという意向を示していた。
つまりハル姉さんの考えが変わったのは、ここ数日のはずで……?
考えても全く理解出来ない。
まさか、こんなところで私に恋愛感情がない事の弊害が生じるとは……
「ハルちゃんは確かに、この結界内に招く程度にはあの人の子を信頼しとるようじゃった。じゃが、その感情の正体には気がついておらんぞ」
「そうでしょうね。多分友人とか思っていますよ。ご自身の気持ちには気がつかないままで」
ハル姉さんは私のように恋愛感情がないわけじゃない。
ただ、物凄く鈍い人なんだ。
それは恋愛感情だけに言える事じゃなく、大切に思われている事や、嫌悪されている事といった、自分に向けられる感情全てに鈍い。
嘘に対しては敏感過ぎるといっていい程に敏感だから、その反動で嘘が含まれない感情を捉えなくなっているんだろうけど……困ったもんだ。
「ハル姉さんがご自身の気持ちに気が付いてしまえば、その一般人を巻き込まない為にと、記憶を消そうとされるかもしれませんね」
「それは、あり得るな……」
「大切な人に忘れられる経験なんて、何度もする事じゃないと思いますけどね」
「ハルちゃんの家族の事を気にしておるのか?」
「まぁ……」
あの時ハル姉さんを止める事が出来ていたら、どうなっていたのか……
それは、本体がずっと悩んでいる事の1つだ。
ハル姉さんと、ハル姉さんの家族の気持ちのすれ違いに気付いていながら、本体はそれをハル姉さんには伝えなかった。
記憶消去を終え、悲しそうに笑うハル姉さんには、伝えられなかった……
今回も、あの時と同様だ。
ハル姉さんは相手に対して、ご自身が恋愛感情を抱いている事には気付いていない。
そして何か問題が発生すれば、巻き込まない為にと記憶を消してしまう事は間違いない。
既に親密になってしまっているのなら、記憶を消した時のハル姉さんの悲しみは深くなるというのに。
いや、そもそも……
「その一般人はどう思っているんですかね? ハル姉さんの事を」
「出来ることなら一緒にいたいと、言っておったよ」
「それなら早くハル姉さんに告白してくださいよ……」
「人の子から告白すればよいのか?」
「いいかどうかは分かりませんが、流石にハル姉さんも相手の気持ちを完全に無視するという事はしないでしょう。相手の気持ちを勝手に判断して、誤った認識のままに記憶を消してしまう事はありますが」
ハル姉さんは結構頑固な人ではあるけど、常に自分の考えばかりを押し付けてくる訳じゃない。
ちゃんとこっちの話も聞いてくれる。
だから一般人が先に自分の気持ちを正しく伝えさえすれば……
「気持ちを無視するという事がなかろうとも、結果的に記憶を消すという判断をせんじゃろうか?」
「するでしょうね。ですがハル姉さんは真面目な方ですから、いきなり記憶を消す事はせず、巻き込みたくないのだと説明すると思います。そしてその時、本当にハル姉さんを好きならその一般人だって簡単には引き下がらないはず……そこで上手くハル姉さんを説得できれば、万事解決です!」
今の状況で考えうるベストはこれしかない。
ハル姉さんが自分の気持ちに気がついて、巻き込んでしまうからと記憶を消そうとする前に、その一般人がハル姉さんに巻き込まれたいと宣言する。
でも協力者でもない一般人に、私が関わってこの話をする事は出来ない。
だから私には、様子を見守る事くらいしか……
「ミオちゃん? 何をそんなに悩んどるんじゃ?」
「……土地神様にはお話しておきますね。実は今、ハル姉さんの心には闇の因子が埋め込まれています」
「な、なんとっ! それはまさか、あの時の……?」
「そうです。ですが現状、全くといっていい程に、闇は成長していません。ハル姉さんの強さが窺えますよね」
「それでミオちゃんはそこまで警戒しとるのか」
「はい、下手には動けません。ましてや恋愛事情に私は明るくありませんからね」
「……そうじゃな」
「とりあえず状況は把握しましたので、戻ります。私も常に動ける訳ではありませんが、何かあったら連絡を下さい」
土地神様に連絡用の結晶を渡し、ハル姉さんの世界を後にする。
今の私にはどうする事も出来ないけど、もうハル姉さんがあんな悲しい顔をしない事を願っておこう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




