外伝 ミオ視点 2
ミオ視点です。
「あっ! ミオ様! お久しぶりです」
「あなたはハル姉さんの部下の……」
「はいっ! 覚えて頂けて光栄です」
またこの人か。
この人、凄い気楽に話しかけてくるんだけど、私達に対する畏れはないんだろうか?
馴れ馴れしいという訳じゃないし、敬われていない感じもしないけど、なんだろう?
強いて言うなら、人懐っこい……かな?
きっとこれは、ハル姉さんの人柄が影響してるんだろう。
「あの? 最近のハル様が少し変わったと思うのですが、ミオ様は何かご存知ありませんか?」
「変わった? どんな風にですか?」
「うーん? とても楽しそうに仕事をされてます。あ、もちろん落ち込まれている日もあるのですが、総合的には明るくなられたように思います」
治癒の力を教えるついでに施しておいた結界には何の反応もないとはいえ、闇の種の影響が何か出ているのかも……と思ったけど、明るくなったのならそうでもなさそうだ。
「では、良い変化という事ですか?」
「そうですね。あと、お菓子をよく下さるようになりました。あ、今も持ってるんですけど……これです。ハル様の手作りらしくて、すごく美味しいですよ」
「ハル姉さんがお菓子作り?」
「そうなんですよ! それが本当に驚きで、最近は仕事中にもお食事を召し上がるようになられまして!」
私達は基本的に食事を必要としていない。
それは、身体を同じ状態として維持し続けられるようにと、常に力が働いているからだ。
だから力を消費し過ぎない限りは食事は必要ないし、この力は睡眠によっても回復するから、仮に力を消費し過ぎたとしても自動で眠ってしまうだけで解決する。
そんな状態だからこそ、私達の誰もがあまり食事という行為を重んじてはいない。
とりわけハル姉さんは、食事をかなり蔑ろにしている傾向にあった。
そんなハル姉さんが、食事をする上にお菓子作り?
闇の種に生命力を吸収されて、著しく力が減っているのか?
いや、もしそうだったとしても、私達に空腹という概念は存在しないんだから、食事をしようとは思わないはず……?
「情報提供、ありがとうございます。私も気になるので、調べておきますね」
「分かったら教えて下さいね」
「では、失礼します」
「待って下さい! こちらをどうぞ!」
「これは、あなたがハル姉さんからいただいたお菓子でしょう?」
「本当に美味しいので、ミオ様も是非!」
「それはお気持ちだけで十分です。では」
確かにとても美味しそうなお菓子だった。
でも私には必要ない。
分身体である私は、食事をしたところで力を回復出来る訳でもないんだから。
「っと、土地神様ー? 出て来てもらえますかー?」
ハル姉さんの世界の核、その核を守る結界内へと移動してきて、ハル姉さんと親しい土地神様を呼んでみる。
「あ、あなた様は……お、お初にお目にかかります、ミオ様。儂はこの木より……」
「はじめまして、そういう堅い挨拶はいらないです。フランクにお願いします」
「し、しかし……」
あのハル姉さんの部下が珍しいだけで、大概はこういう反応をされる。
私達は例え神と呼ばれる存在であろうと、頭が上がらないくらいには尊い存在なんだから。
でも、私はそういう堅苦しいのは嫌いだ。
敬われるのは、本体だけで十分……
「知ってますよ、土地神様がハル姉さんを"ハルちゃん"って呼んでいるのを。それなのに私を"ミオちゃん"とは呼んで下さらないのですか?」
「し、失礼致しました……」
「だ、か、ら、堅苦しいのは無しで!」
「う……ど、どのようなご用ですかな?」
「もっとフランクに!」
「ミオちゃん、今日は何の用じゃ?」
「うん、OKです」
流石は姉さん達が幼い頃からユズリハ様と共に見守っておられる土地神様だ。
慣れが早くて助かった。
「用件はハル姉さんについてなんですが」
「そうじゃろうな。ハルちゃんに何かあったのか?」
「最近のハル姉さんの様子が変わったので、何かご存知ないかと」
「最近のハルちゃん? そうじゃのぉ……人の子の友人ができたようでな」
「人の子の友人?」
「この間も祭りをここから一緒に観ておったな」
「ここからですか? 結界をハル姉さんが通したんですか?」
「そうじゃ、つい最近も儂のためにと焼きトウモロコシを作ってきてくれたな。とても優しい人の子じゃよ」
ハル姉さんに一般人の友人が出来たというだけでも驚きなのに、まさか結界を通すだなんて……
新しい協力者が増えたなんて話は聞いていないし、ハル姉さんはその人を協力者として報告していないはずだ。
「その人の子、男性ですよね?」
「そうじゃ」
「多分、前にハル姉さんが言ってた、怪我をしたときに助けてくれた一般人です」
「そうなのか?」
「ハル姉さん、記憶を消さなかったんですね……」
「消さねばならんのか?」
「いえ、消さないならそれはそれでもいいんですが、それなら私達の協力者になってもらうべきです。協力者報告がされてないということは、今のその人の子は、ただの一般人です」
いくら信用出来る人だと判断したのだとしても、結界を通すだなんて……
それ程の仲なら協力者にするべきだろうに。
巻き込みたくない、とか思ってるんだろうな。
「ハルちゃんの事情は何も知らん様子じゃった」
「一般人と私達が共にいるのには、限界があります。その状態を良しとしない派閥もありますし、面倒事が起こる前に協力者になってもらう方が……」
「ならばハルちゃんに、あの人の子に協力者になってもらうように話せばよいのではないのか?」
「ハル姉さんはおそらくしませんよ」
「……そうじゃな」
「誰かを巻き込むということを、とても嫌っていますからね」
ご家族との問題もあるし、私から協力者にするようにと無理強いする事も出来ない。
それになにより、下手をすれば闇の種が発芽してしまうかもしれない……
「ミオちゃんは、どうしたいのじゃ?」
「私の個人的な意見としては、ハル姉さんとその一般人には上手くいって欲しいですけどね。でも"ミオ"としては、この現状をあまりいいとは言えませんね」
私達は世界の安定を一番に考えて動く存在。
その中でも私は、そんな存在達の闇堕ちについても担当している。
だからこそ、不確定要素を出来る限り排除しなければいけない。
闇堕ちの危険が高まる可能性が少しでもあるのなら、それを認める事は出来ない。
それが、私以外のミオだ。
でも私は本体と繋がるミオだから、殆ど本体と遜色ない考え方をしている。
その私がハル姉さんの恋を応援したいと思っているのならば、本体もきっと応援するんだろう。
いや、もしかしたら私以上に応援したいと考えるのかもしれない。
自分の恋愛経験と重ねて……
まぁそれは、本体が私に"恋愛感情"を持たせてくれなかったから分からないけど。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




