会話
ハルさん視点です。
「……ん、うん……」
「ハルさん!?」
「遙花!」
少し重たい気がする瞼を開けると、見慣れたようで見慣れない……いえ、本来は見慣れていたはずの天井を背景に私を見ている、圭君と涼真兄さんが見えました。
私は、"私の部屋"で寝ていたみたいですね。
私の部屋と言っても、あのマンションの方ではなく、昔の私の部屋で……
メモリアが復元していってくれたんでしょうね。
また今度、お礼を言っておかないと……
「気分はどうですか? 何かして欲しい事とかありますか?」
「……大丈夫です。ありがとうございます」
「無理してないか? 何でも言ってくれていいんだぞ?」
「本当に大丈夫ですよ」
「そうか……」
体を起こそうとすると、すぐに圭君が支えてくれて、涼真兄さんがスポーツドリンクの入ったコップをくれました。
甘くて、爽やかで、美味しいですね。
どういう言葉を発するのが正解なのかも分からずに、与えられた安穏に甘えていると、涼真兄さんは部屋から出て行って、
「遙花が起きたー!」
と、1階の方に向かって叫んでいました。
そしてすぐに、ドタドタと慌ただしい音が聞こえてきて、
「遙花! 良かった!」
「遙花、おはよう」
と、私に笑いかけてくれるお父さんとお母さん……
「えっと……お、おはよう、ございます……?」
間違っていますよね。
今ここで私が言うべき言葉が朝の挨拶ではない事は、きっと幼子でも分かる事でしょう。
でも、私はどう会話をするのが正解なのか、分からないんです。
自分の家族だというのに……
「遙花、食事は食べられそう?」
「あ……はい」
「流動性の良いものの方がいいわよね?」
「その……何でも大丈夫です。多分ミオが、私の体を回復してくれているので……」
「あぁ、生命力を回復してくれていたよ」
「ですよね。だから本当に大丈夫です」
「それは良かったわ」
何も言えない私を見かねてか、お母さんが話を振ってくれました。
これはきっと、夜ご飯の話をしてくれているんですよね。
窓から差し込む光の加減からして、もう夕方のようですし。
「ハルさん。今日は僕もこちらでお世話になる事になりました」
「そ、そうなんですね。純連さんは……」
「母さんはもう帰りました」
「あ……」
全然お礼も言えていないのに……
「お礼とか、気にしなくていいですよ」
「そういう訳には……」
「じゃあ後で電話しましょう。珠鈴もハルさんと話したがっていますから、丁度いいですね」
「はい……」
「圭君。その電話、私にも代わってもらえる? 珠鈴ちゃんに謝りたくて……」
「謝る? 何をです?」
「あの時の電話の事よ。あんな失礼なきり方をしてしまって、本当にごめんなさいね」
「あれは僕達の方がおかしかったんですし、気にしないで下さい」
「でも、ちゃんとお礼も言いたいわ」
「そうだね僕からも」
「俺も話しときたいな」
「分かりました。じゃあ後で電話しますね」
圭君が凄く普通にお父さん達と話していますね。
本来普通に話せるはずの私が辿々しくなってしまっているというのに……
「遙花」
「あ、はい……?」
「遙花にお願いがあるんだ」
「何ですか?」
「家族の絵……遙花の10歳の誕生日に贈ったあの桜の絵を、リビングに戻してくれないか? 今は遙花が借りている部屋に飾ってあるんだろう?」
お父さんが近づいてきて、私の頭を撫でながらそう言ってきました。
この部屋や小物類は復元の力で戻したのに、あの絵は戻していなかったんですね。
飾ってあるからと遠慮してくれたのでしょう。
「リビングのあの場所は、飾れる状態ですか?」
「ん? あぁ、何も飾っていないよ」
「では移動させますね……」
「ちょっと待って下さい!」
「え、圭君?」
絵を戻しに行こうとベッドから立ち上がろうとすると、圭君に静止されました。
……何故でしょう?
「ハルさん。それは僕が運ぶので、特別な力を使って戻すのは止めて下さい」
「結構大きい絵ですし、無理して運ばなくても……」
「前にも言いましたよね? 何でも力に頼るのはよくないって」
「……」
「大体ハルさん達の特別な力って、使うと疲れるんですよね?」
「疲れると言っても食事や睡眠で回復しますよ。それに、運ぶ方が圭君が疲れてしまうじゃないですか」
「ハルさんが疲れるよりいいです」
「よくないです」
大きな絵を運ぶのは大変ですし、力を使った方が速いのに……?
そこまで力を消費する訳でもありませんし、どう考えても圭君が疲れるよりいいはずなんですが?
「ハルさんの力は、どうしてもその力じゃないと出来ない事をする為に使うべきです。僕にどうにか出来る事なんだったら、ちゃんと頼って下さい」
「それはそうだね」
「遙花は頼らな過ぎるからなー」
「誰にも頼らないで、1人で抱え込んでしまうのは、ハルさんの悪いところですよ。こういう事から直していかないと!」
「わ、分かりました……じゃあ、お願いしますね?」
「はい! お任せ下さいっ!」
いつにも増して饒舌な圭君の圧に、逆らってはいけない感じが……
まぁ圭君が嬉しそうなので良かったと思いますが。
「ふふふっ、素敵な彼氏ね!」
「は、はい……」
お母さんが笑いかけてくれたのですが、気まずい感じがして目を背けてしまいました……
でもこの気まずさは、さっきまで感じていたような何をどう言えばいいのかが分からない気まずさではありません。
単に恥ずかしかっただけなのだと、自分でよく分かります。
どうやら私は、家族と普通に会話が出来るようになってきたみたいですね。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




