在り方
圭君視点です。
「ご、ご迷惑おかけしてしまい……」
「少しは落ち着いたかい?」
「はい、ありがとうございます……」
大地さんに肩を支えられながら大号泣だったメモリアさんは、袖口で涙を拭いながら立ち上がった。
そしてすぐに、
「ちょっと失礼します」
と、手から光の玉のようなものを出して、自分の顔に当てていた。
光が消えたあとに見えたのは、もう泣いてもいないし、泣いたあとすら何もなくなっているメモリアさんだ。
これも復元の力なんだろうか?
「あと、これですね」
メモリアさんはそう言いながらハルさんの部屋の端に手を翳すと、また手から光を出してくれた。
現れたのは色んな小物が入った箱で……
「この部屋以外の場所にあったハル姉さんの痕跡です。ハル姉さん用の食器とか、小物とか……現状同じ箇所には戻せない物が入っています」
「そうか、ありがとう」
「……はい」
「懐かしいわぁ、ほら見てこのマグカップ! 遙花のお気に入りだったのよね!」
陽茉梨さんが箱の中の物を取り出して見せてくれた。
持ち手のところにペンギンが抱きついている、可愛らしいデザインだ。
「素敵なカップですね。ん? ハルさんの物って、ペンギンが多いんですね」
「お、圭知らねぇのか? 遙花はな、ペンギンが1番好きなんだぜ!」
「そうなんですか!? 動物園と水族館……どっちがいいですかね?」
「もうデートの事考えてんのかよ!」
「あ、すみません……」
「いいって。俺は水族館がいいと思うぜ!」
「いや、動物園だろう?」
「そうよね、私も動物園の方がいいと思うわ。お魚よりは色んな動物を見られる方が遙花も好きそうでしょ?」
「それはそうだけど、静かで落ち着いた水族館の方が、雰囲気がいいんだよ」
「そういう考え方もあるね」
僕がハルさんとペンギンを見に行く計画を立てている事に気付いた涼真さんは、水族館をオススメしてくれた。
大地さんと陽茉梨さんは動物園の方がいいって言ってるけど、確かに水族館の方が……って、今はそんな事を考えてる場合じゃないか。
でも、皆さんが僕とハルさんのデートを認めてくれているという事実は、とても嬉しく思う。
「あの、そろそろいいですか? 私も帰らないといけないので、皆さんの疑問を解決しておきたいのですが?」
「あぁ、そうだね」
「場所を変えましょう。散々騒いでしまってアレですが、ハル姉さんにはゆっくり休んでほしいですし……」
「では私がハルちゃんについていますね。皆さんはメモリアちゃんとのお話をどうぞ」
「純連さん、ありがとうございます」
「遙花の事をお願いします」
「はい。圭、あなたも皆さんと一緒に聞いてらっしゃい」
「うん」
母さんにハルさんの事を託して、リビングへと戻ってきた。
まだ少し顔が強張っているみたいだけど、メモリアさんは僕達からの質問に全て応えてくれるつもりみたいだ。
「では、先程の話の続きから……ミオが最強であるにも関わらず、何故ハル姉さんから闇の種を取り除かなかったのかという」
「方法がなかった訳じゃないんだよな?」
「ありましたよ。でもそれは全部、ハル姉さんに『あなたには闇の種が埋め込まれています』って、話さないといけないんです」
「話したらダメなのか?」
「ダメですよ。もし話していれば、間違いなくハル姉さんは自分に負荷のかかる方法で、早急に闇の種を取り除こうとしておられたでしょうから」
ハルさんは自分が心配される事を理解出来ない、自分が傷付いたって回復すればいいと考えているような人だ。
そんな人に闇堕ちの可能性を話していれば……あまり考えたくはないな。
「君達が否定しても、遙花は無茶な方法を選んでしまうのかい?」
「そうですね。私達がどれだけ安全な方法をと言ったところで、それを聞いてくれる人じゃありません。自身よりも皆の安全を優先されますから」
「ハルさんって結構頑固ですもんね」
「だったら闇の種の話を言わずに、何か違う事の為の検査とか、そういう嘘はつけなかったのか?」
「ハル姉さんに嘘を付くのは非常に難しいです。何より、ハル姉さんは嘘を嫌っていますので、出来る限りハル姉さんの前では嘘を付きたくありません」
「確かに遙花は嘘が嫌いだったわね」
如月さんの嘘に全く騙されていなかったし、あの時偽証を暴く仕事をしているとも言っていた。
皆さんのこの反応からしても、ハルさんは幼少期からずっと嘘を嫌っているんだろう。
そんなハルさんには嘘を付けないか。
「ハル姉さんは"真実"のお方ですから、仕方ないんですけどね……」
「真実のお方、というのは?」
「私達が司る……というと大仰ですね。信条にしている事というか、自分の在り方というか……簡単に言えば、自分が大切にしている事柄です。ハル姉さんはそれが"真実"なんですよ」
「それは自分で決めるんですか?」
「勝手に決まりますが、その存在に合ったものになりますね」
メモリアさんは司るを大仰だからと言い変えたけど、多分ハルさん達が大切にしている事柄に対する認識としては、司るが正しんだろう。
つまり、ハルさんは真実の元に生きる人なんだ。
だからあそこまで嘘を嫌ってるんだな。
「あんたは?」
「私は"記憶"です」
「ミオさんは?」
「……」
「あぁ、話してはいけない事だったかな? すまないね、無理に応えなくてもいいからね」
「まぁ、あまり人に話す事ではありませんね。これは弱点を教えているようなものですし……で、す、がっ! 私はミオと仲が悪いので、教えちゃいます!」
「え……」
「ミオは"崇高"ですよ」
「崇高……」
崇高って、気高いとか、尊いって事だったはず……
「おい、冗談だろ? あいつのどの辺が崇高なんだよ。なぁ、圭?」
「え、僕はとてもミオさんらしいなって思いますよ?」
「僕もそう思うよ」
「私も」
「マジかよ……」
人をからかったり、真面目な話を軽い調子で話していたりする様子からはあまり崇高という感じはしないけど、僕を何度も応援してくれた、ハルさんもメモリアさんもとても信頼している人なんだ。
ミオさんが"崇高な人"であるという事には、凄く納得出来ると思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




