念写
圭君視点です。
「っと、はい。復元完了致しました」
「おぉ! そうだよな!」
「懐かしいわね」
「ありがとう、メモリアさん」
「ですから私は、お礼を言われるような事はしていなくて……」
「ありがとうね、メモリアちゃん!」
「あんがとな!」
「……はい」
メモリアさんがハルさんの部屋の復元をしてくれたので、ハルさんの部屋のベッドにハルさんを寝かせた。
全体的にピンク色の物が多い、可愛らしい部屋だ。
「あの、その……」
「どうかしたのかい?」
「これで私が許されると思っている訳ではないのですが、せめてもの償いとして作りました。どうぞ、お収め下さい……」
「ん?」
メモリアさんは何処かから大量のファイルを取り出すと、それを大地さんに渡した。
多分ちょっとした異空間から取り出したんだろうけど……って、これ!
「遙花の写真……?」
「私達の記憶からハル姉さんを探し、念写によって写真にしました。ですがその……私達の世界の事が写り込んでしまわないようにしなくてはいけなくて、これだけしかないのですが……」
「あ、あぁ……」
メモリアさんが大地さんに渡したのはハルさんの写真が収められたアルバムだった。
幼少期から、現在に至るまでのハルさんの姿……あ、これは中学生くらいの頃かな?
……可愛いな。
でも、ハルさん達が世界に関する仕事をしているという会社の世界は、当然機密事項が多いはずだ。
記憶を念写してるとか言っていたし、自分達の記憶から機密事項が写り込んでしまわない状態のハルさんを探して、こうしてアルバムを作ってくれるだなんて……
ミオさんの話で、たくさんの人達がハルさんに家族との関係を取り戻してほしいと思ってくれている事は分かっていたけど、ここまでとは……
出来れば僕も、お会いして直接感謝を言いたいな。
「ありがとう、ありがとう!」
「本当にありがとう、メモリアちゃん! それに、他の皆にも私達の感謝を伝えておいてね!」
「……」
「メモリアちゃん?」
「……だから、感謝される事じゃないって言ってるじゃないですか」
「いや、これは感謝する事なんだよ。君達のお蔭で、こうして遙花の成長を知る事が出来るのだから」
少し俯いて、苦しそうな顔をしていたメモリアさんは、大地さんの言葉に勢いよく顔を上げて、
「そもそもですねっ! 私が皆さんから記憶を消したりしていなければ、こんな事にはならなかったんですっ! あの時の私達が、ちゃんとハル姉さんを止めていればっ……」
と、泣くのを必死に堪えるように言ってきた。
「止めていたらきっと、僕達も遙花も、こんな笑顔で過ごす事は出来なかったはずだよ?」
「……」
「そうね。この写真の遙花、ずっと笑っているわ。もちろんあなた達がそういう楽しそうな遙花の場面を選んでくれたのでしょうけれど」
「これは、俺達が自分と無関係になって、平和に過ごしているからと安心しているからこそだ。いや、それだけじゃなくて、あんた等が遙花をたくさん笑わせてくれていたんだよな? だからありがとうで間違ってねぇよ」
「……では、お姉様達にそうお伝えしておきます。この写真の殆どは、お姉様達にお願いして用意しましたから」
「お姉様達?」
「幼い頃から遙花と仲が良かった3人の子達の事かな? そうか、この写真はその子達が……」
この写真は、ざっとみただけでもハルさんが同年代の2人と一緒に写っている写真が多く、その2人は組み合わせが少しずつ違って、3人いる事が分かる。
つまり、この3人がハルさんの友人達で、メモリアさんがお姉様と呼んでいる人達なんだろう。
写真とはいえハルさんの友人を知る事が出来たというのは嬉しく思えるけど、今のメモリアさんの発言は看過できないな。
まるでこの3人には感謝をするべきでも、自分は感謝の対象外だと言っているみたいだ。
「メモリアさんはどうしてそんなに自分を悪者にしたがるんですか?」
「別に、悪者にしたがっている訳じゃなくて、私は事実を言ってるんです。皆さんから記憶を消したのは私なんですよ? その私が記憶を返したからといって、それは奪ったものを返したにすぎません。感謝の対象外です。皆さんは窃盗犯が盗んだ物を返してきた時、お礼をするのですか?」
「メモリアさんと窃盗犯は違うじゃないですか」
「違いません」
「いいえ、違います。何よりの違いは、相手を気遣っているという事です。窃盗犯にそんな心はありませんよ」
「……」
「今、"お姉様達にお願いして用意しました"って言いましたよね? つまりこのアルバムは、メモリアさんが皆さんの事を気遣った結果です。そんな方だからこそ、僕も皆さんも感謝しているんですよ?」
僕の言葉に、メモリアさんは段々と瞳が潤んでいき、
「うっ……うぅっ……わ、私は……だって、大切なっ、記憶を消して……ごめんなさい、本当にっ……ごめんなさい……」
と、泣き崩れてしまった……
皆さんから記憶を消してしまった事を、ずっと後悔していたんだろう。
それに、ハルさん達の世界とこの世界では時間の流れも違っていて、ハルさんがユズリハ樣が亡くなられたのは100年以上前だといっていた事から考えても、メモリアさんの後悔していた期間は想像を絶している。
「謝る必要はないよ。メモリアさんは何も悪くないんだから」
「素敵なプレゼントをありがとう」
「気にすんなっていうのは難しいのかもしれねぇけどさ、俺達があんたに感謝してるって事を否定しないでくれよ」
「……うぐっ、ぐすっ……は、はい……みなざんに、よろごんでもらえで……よ、よがっだでず……」
大地さんがメモリアさんの肩に優しく手をおいて、背中を擦ってあげている。
長年抱いていた後悔を全て払拭する事は出来ないだろうけど、これで少しでもメモリアさんの気持ちが軽くなっているといいな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




