復元
圭君視点です。
メモリアさんはミオさんが消えた歪んでいた空間を睨んでいたけど、はっと何かに気付いたように姿勢を正して、
「おほんっ、えっと……では、ミオに代わりまして、私から説明させていただきますね?」
と、僕達の方へと向き直ってくれた。
「あんた、あいつと仲いいのか?」
「ミオとですか? んー? 人並みには?」
「人並み?」
「とても親しい間柄ではありませんが、仲が悪い訳ではありません……でしたが、たった今仲が悪くなりました」
「だろうな、あんな自分勝手な奴……」
「自分勝手ではありませんよ。ミオが今までどれだけ皆さんの為に頑張って来たのかも知らないで、そんな事を言わないで下さい」
「あ、あぁ……悪かった」
涼真さんのミオさんに対する発言に、メモリアさんは顔を顰めて反論した。
僕達に状況説明をしないといけない状態に追い込まれてしまったとはいえ、ミオさんの事を大切に思っている事は変わらないんだろう。
「とりあえず、ハル姉さんをちゃんとしたベッドで寝かせて差し上げましょう」
「そうですね」
「それなら、とりあえず私の部屋に……」
「いえ、ハル姉さんのお部屋にしましょう?」
「遙花の部屋……」
「そうか、あの部屋は遙花の部屋だったんだな……」
「あの部屋? ハルさんの部屋、あるんですか?」
「あるんだ、何もない部屋がな」
「何故かあの部屋には何も置きたくなかったんだ。僕も、陽茉梨も、涼真も……だからずっと空き部屋なんだよ」
「物置部屋は別にあるし、客間もあるから、無理にあの部屋に何かを置く必要はないって思っててな……あれはきっと、俺達は遙花の部屋を失いたくなかったからなんだろうな」
何もない部屋か……
ハルさんの事を覚えていなくても、ハルさんの帰る場所を無くさないようにしていたんだな。
本当に、皆さんがどれだけハルさんを大切に思っていたのかがよく分かる。
「でもなんで遙花の部屋にしたいんだ? あそこにはベッドが……」
「ですから、私が戻しますよ。いえ、戻させて下さい。お願いします」
メモリアさんは深々と頭を下げた。
ハルさんが皆さんの元を去った時、消したのは皆さんの記憶だけじゃないはずだ。
それこそハルさんが使っていたものとか、ハルさんと皆さんの思い出のものとか……
それを担ったのもメモリアさんだったんだろうな。
「メモリアさん、そんなに頭を下げないで? あなたが悪い訳ではないのよ?」
「いえ……あの頃の私は分かっていなかったんです。大切な思い出を奪うという行為の恐ろしさを……」
「さっき遙花にも言ったけれど、君達の行動は間違ってはいなかったんだよ?」
「……ありがとうございます」
「そんな暗い顔すんなって。てかあんた、消したもんが戻せるんだよな?」
「はい」
「じゃあまず、これを戻してくれ」
「これは……失礼しますね」
涼真さんがメモリアさんに渡したのは、可愛らしい額に入った家族写真だった。
写真を受け取ったメモリアさんは、手から淡い光を出して、その写真に光をあてている。
「どうぞ」
「おぉ! そうだよ! やっぱこうでなくちゃな!」
「えぇ! えぇ! ありがとうメモリアさん!」
「お礼を言われる事は……」
「ほら圭君! これが幼い頃の遙花だよ。可愛いだろう?」
「そうですね! 本当にとても可愛らしいですね!」
「あら可愛い! ちょっと圭! こんなに可愛らしいんだから、もっと気の利いた事を言いなさいよ」
「えっと……とりあえずこの写真、焼き増ししてもらってもいいですか?」
「もちろんだよ!」
家族写真が蘇った事で、天沢さん達はもちろん、僕も母さんも盛り上がっていた。
そんな僕達を、メモリアさんは驚いたように目を丸くして見ている。
「あ、あの……?」
「今の力、メモリアさんは疲れたりしないんですか?」
「この程度の"復元の力"を使ったくらいでは疲れませんが……」
「それなら良かったです。そういえば、ハルさんも寝癖直しに復元の力を使ってるとか言ってましたね」
「はい?」
「珠鈴の寝癖直しを使うのは悪いからって、復元の力を使っちゃうそうなんですよ。力に頼りすぎるのもどうかと思いますし、寝癖直しくらい好きに使ってくれていいんですけどね。まぁでも、皆さんが普段から多用する力だったのなら、その方が楽だというのも分かりますが……」
「……いえ、その使い方は私も初めて聞きました。多分復元の力をそんな風に使っているのは、ハル姉さんくらいだと思いますよ」
「そうなんですね。じゃあやっぱり注意しないとですね。何でも力に頼るのは良くないって」
「そうね」
確か石黒さん達に荒らされた部屋を直してもらったのも、その復元の力だったはずだ。
凄い力だし、10年以上も前の状態に戻すんだから、相当に力を消費してしまうんじゃないかと思ったけど、そうでもないようで安心した。
ただ、ハルさんにはちゃんと話しておこうと思う。
僕だけではハルさんを説得出来るか不安だし、大地さん達にも一緒に言ってもらうのがいいだろうな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




