闇の種
圭君視点です。
「実を言いますと、ハル姉さんには"闇の種"のようなものが埋め込まれてしまっていたんですよ」
ミオさんの態度の急変にはそれなりに慣れたとはいえ、ハルさんについての深刻な話をされるのには慣れない。
闇に関する話をされると分かっていても、やっぱり恐ろしいものは恐ろしいんだ。
「お、おいっ! "闇の種"って何だよ!」
「単純に言えば、闇の因子ですね。本来闇堕ちなんてしない存在を無理やり闇へと引き込むものです」
「そんなものが、遙花に埋め込まれていたというのかい!?」
「そうですね」
あれだけハルは闇堕ちしないと言っていたミオさんが、それでもハルさんが闇堕ちしてしまう可能性を考えていたのはこの為か……
本来は負の感情を溜めすぎた事で引き起こる闇堕ちが、強引に起こされてしまうだなんて……
「どうして、そんなものがハルさんに埋め込まれていたんですか? しかもハルさんは知らなかったんですよね?」
「まぁ、色々とありまして」
「その色々を話して下さい」
「んー?」
「ミオ、私がやろうか?」
「ううん、いいよ。なんとかなるから」
「そ?」
僕の今の質問はよくなかったようで、ミオさんの少し後ろで控えていたメモリアさんがミオさんに声をかけた。
2人の会話には主語がなかったとはいえ、おそらくその主語は記憶消去で間違いないだろう。
僕達に詳しく話す事が出来ないからこそ、メモリアさんはハルさんが闇堕ちしかけた事実をなかった事にしようとしたんだ。
でもそれをミオさんは止めてくれた。
「ミオさん。無理に聞き出したりはしないので、話せる範囲で話して下さい」
「ありがとうございます。流石ハル姉さんの彼氏ですね! ね? 圭さんはこういう人だから」
「ふーん、そっか。じゃあ私は何も言わなーい」
「おっけー」
軽く話してるけど、多分全然軽い話じゃない。
それを僕達が重く捉えてしまわないように、敢えてこういう雰囲気にしてくれているんだろう。
「まぁそう身構えて頂く必要はないんですよ。先程とある存在の陰謀によって私が闇堕ちした事があると話しましたよね? それと同じ話なだけです」
「ハルさんもその陰謀に巻き込まれて、闇の種を埋め込まれたってことですか?」
「そうです。私やハル姉さんといった力の強い存在を闇堕ちさせ、世界をこう……自分にいい感じにしようとしていた方がいたんですよねー。全く困ったもんですよ」
「そいつはどうなったんだよ?」
「さっきも言いましたが、やっつけました!」
「もう遙花や君達に危害を加える事はないのかい?」
「ありません」
これだけはっきりないと言えているんだから、これ以上襲われる事はないんだろう。
ミオさんも終わった事だと言っていたし。
でもやっぱり、ハルさんはそういう恐ろしい環境に身を置いているんだな……
「心配しなくていいというのは無理があるとは思いますが、本当に大丈夫ですよ。あれ程の脅威はそうそう現れるものではありませんから」
「その脅威が完全に去った証拠は何かあるんですか?」
「今回のこのハル姉さんに埋め込まれていた闇の種。その存在を教えてくれたのがこの脅威です。教えてもらわなければ、私でも気付くのには時間がかかったと思います」
「それって……」
「はい。脅威はもう、脅威ではないんです」
ハルさんに危害を加えた人が、ハルさんに闇の種を埋め込んだ事を教えてくれた。
その人は、ハルさんを闇堕ちさせたかったはずだ。
となれば闇の種を埋め込んだ事実は隠しておいた方が、ミオさん達に対策される事もなかった。
それなのに闇の種の存在を教えてくれているんだから、その事実は確かにその人が脅威ではないという証拠になるか……
「ついでに言っておきますと、本当に解決しましたので、ハル姉さんにこの事実を話してもいいです」
「え? ハルさんに隠さなくていいんですか?」
「はい。もうハル姉さんに皆さんへ記憶を返す事を拒否されはしませんからね」
「あ、なるほど」
先にハルさんには闇の種が埋め込まれているという話を聞いてしまっていたら、ハルさんはもちろんだし、僕も皆さんに記憶を返す事を躊躇っていたかもしれない。
皆さんもそうだろう。
どれだけ闇堕ち対策をしていると言われていようと、闇堕ちをする可能性が高い事をして欲しくはないから。
きっと、記憶を返さないままにハルさんと皆さんが共に過ごす道を探していたはずだ。
となると、ミオさんは僕達がその選択をする事を懸念していたからこそ、先に話してはくれなかったという事になる。
それはつまり、闇の種を取り除いてから皆さんに記憶を返すという選択肢はなかったって事だ。
ハルさんが闇堕ちしてしまう可能性が高い方法を、ミオさんが選択する訳がないんだから。
「ここでハルさんが闇堕ちする可能性を考えたとしても、これが一番安全に闇の種を取り除く方法だったんですね」
「そうなりますね」
「お前、自分を最強だとか言ってなかったか? 最強の癖に遙花から闇の種だけを取り除く事は出来なかったのかよ?」
「出来なくはありませんが……え、それも詳しく話した方がいいですか?」
「話せるんならな」
「……話せなくはありませんが、タイムリミットです。私は暇ではありませんので」
「僕がいきなり呼んじゃいましたもんね……」
「という事で、お暇します。メモリア、あとよろ」
「え……」
ミオさんがメモリアさんに軽く手を振ると、ミオさんの周りの空間が不自然に歪み、ミオさんはその歪みに入って消えていった。
元々僕が急に呼んだんだし、今回の事の説明等も会社の世界にしないといけないんだろう。
忙しいところで申し訳なかったな……と、そんな事を僕が考えていると、
「"おっけー"って言った癖にーっ!」
という、メモリアさんの叫びが聞こえてきた。
歪んでいた空間は既に元に戻っている。
メモリアさんの叫びはミオさんに届いたんだろうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




