価値
ハルさん視点です。
私は世界を管理する側の存在です。
世界が崩壊してしまわないようにバランスを維持し、歪みを打ち消し、闇と戦わなくてはいけません。
それは私にとっては自分が息をしているのと同じ位に当たり前の事で、自分にその使命が課されている事に対して、疑問に思った事もありません。
ですがそんな私の家族達は、私と同じ存在ではありませんでした。
私が自分の使命や特別な力についてを話した時、私の家族達は、
『何故遙花がそんな事をしなければならないの?』
と、皆は口を揃えて言ってきました。
彼等はきっと、幼い私の身を案じて言ってくれたのでしょう。
ですがそれは私にとって、
『何故息をしているの?』
と、聞かれているのと同じです。
だからあの時の私は、自身の存在を否定されているようでとても辛く、悲しかったんです……
自分の家族といえど、彼等は私が管理する世界で暮らしているだけで、世界のバランスなんて気にしませんし、歪みや闇の存在すらも知り得ません。
それが彼等の当たり前なんです。
私とは考え方も、存在理由も、何もかもが違うのだと、幼いながらにも理解出来ました。
そしてそれが分かっていたからこそ、あの事件の折に、私は彼等とは共にいるべきではないと判断しました。
これ以上彼等とは違う私の存在である私が共にいれば、彼等を不幸にしてしまうと思ったんです。
私さえいなければ、彼等はまた楽しく笑い合う、幸せな日常を過ごせるのだと信じて疑いませんでした。
でも彼等は、私と共に生きる事を望んでくれていました。
私との違いを受け入れ、恐怖に立ち向かおうとしていました。
そして何より、こんな私の事をとても大切に思ってくれていたのです。
それなのに、それなのに……
私は彼等から、その大切な家族を奪ってしまって……
私だって、本当は離れたくはなかったんです。
皆に忘れられて辛かったんです。
だからあのお父さんから貰った絵に毎日勇気をもらいながら、涙の日々を乗り越えていたというのに、その全ては無駄で……いえ、ただ無駄なだけではありませんね。
私がこんな選択をしたせいで、私が家族に忘れられた悲しみの果てに闇堕ちしてしまう可能性が高まっていたんですから。
あの頃は、私達には殆ど力が残っていなくて、ミオ達にはかなりの負担をかけました。
そんな時に私の身勝手な行動のせいで、余計な心配までさせていたんです。
本当に、私はなんて迷惑な存在なのでしょう?
私が今までしてきた事はなんだったのでしょうか?
この世界の為に、大切な人達が笑い合う日々の為にとやってきた事は、一体何の役に立ったというのでしょうか?
……なんか、体が冷たくなっていく気がしますね?
私はあまり寒いのは得意ではないのですが、この冷たさはとても心地がよくて……
視界もだんだんと暗くなっていくのですが、眩しいよりはいいですよね。
とても落ち着く気がします。
でも、何故でしょうか? 手だけが冷たくなりません。
全身が心地よい冷たさに馴染み始めているというのに、どうしてこの手は冷たくならないのでしょう?
強い熱をもっていて、その熱さは冷えた私を突き刺すようにズキズキと……
痛いですし、捕まれているようで動かしにくいですし、振り払ってしまいたいのに、それは出来そうになくて……
「ハルさん! ハルさんっ!」
「遙花っ!」
遠くから何かが聞こえる気がします……
静かで落ち着いた空間を壊す、耳障りな音のはずなのに、聞き流してはいけないような……?
「ハルさんっ! ハルさんのこれまでの努力を、ハルさんが否定しないで下さいっ!」
……私の、努力?
「ハルさんの過ごした日々に価値をつけるのは、ハルさん自身なんですよ?」
そ、れは……
「そうです! ハルさんが僕に言ってくれた言葉です!」
私が、言った言葉……
圭君に……
自分の時間に価値をつけるのは、自分自身なのだと。
自分で無駄だと思ってしまえば本当に無駄になってしまうけれど、増えた知識や出会えた人との時間は絶対に無駄ではないと。
私のその言葉に圭君は、"私に会えて良かった"と言って、笑ってくれたんです……
私は、自分のこれまでの時間を無駄なものだったのだと思っているのでしょうか?
勘違いからたくさんの人達に迷惑をかけていた事は事実ですが、だからといって私の全てが無駄だという事ではないはずです。
だって、私は圭君に会えて良かったと思っているんですから!
「……け、いくん……?」
「はい、僕はここにいますよ! 大地さんも、陽茉梨さんも、涼真さんも!」
「「「遙花っ!」」」
「あぁ……」
さっきからズキズキと痛く感じていた熱が、優しい温もりに変わっていく気がします。
これは、圭君の温もりだったんですね。
暗かった視界も晴れて、心配そうに私を見つめる圭君と目が合いました。
圭君だけでなく、お父さん、お母さん、涼真兄さん、純連さん……
自分の中から何かが抜けていくような感覚があり、視界の端でミオが闇を倒してくれているのが見えました。
どうやら私は闇堕ちしかけていたみたいです。
「ありがとう、ございます……」
「ハルさん、良かったです!」
圭君は涙を流しながら笑って、私を強く抱き締めてくれました。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




