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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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282/332

懐旧

ハルさん視点です。

メモリアが記憶の光を弾けさせると、


「ん……あ、あぁ……」

「ハ、ハル……ハルカ?」

「はるかっ! 遙花なのね!」


と、お父さんもお母さんも涼真兄さんも、私を見て驚いていました。

そしてお母さんはすぐに私を抱きしめに来てくれて……


そんな中でも、どうして膨大な記憶が返ってきたはずなのに、3人共倒れていないんだろうか? あ、ミオが時間を操作したからか……とか考えていられるあたり、私はまだ冷静でいられているのでしょう。

冷静だからこそ、自分のその行動が現実逃避なのだとは分かっているのですが……


「あぁっ! 遙花! はるかぁぁあ!」

「……こんな私を、まだその名で呼んで下さるのですね……」

「当たり前じゃないっ! 遙花は遙花なんだものっ!」


"遙花"。

とても懐かしい名前です。

私が失ってしまった、大切な……

こんな私に、その名を名乗る資格はないというのに、お母さんは私を遙花と呼んでくれました。

私に抱きついて泣きじゃくるお母さんに、私はどう対応するのが正解なのかが分かりません。


「遙花……父さんと母さんに内緒の話は、全部俺に言うようにって言ってあっただろ?」

「……涼真、兄さん……」

「そうだ。俺はお前の兄ちゃんなんだぞ? 親に内緒はあってもいいが、兄ちゃんに内緒なんてな、ダメなんだから……」

「でも……」

「でもじゃないっ! 全く……勝手に出て行ったりして……」


涼真兄さんが苦しそうに顔を歪めながら、私の頭を撫でてくれました。

涼真兄さんに撫でてもらえる事はよくありましたが、この感覚は初めてですね。

当たり前の事ですが、涼真兄さんの手は私が知るものよりも大きくなりましたから。

でも、撫でてくれる手から伝わる優しさは、とても懐かしく感じます。


そんな私の元に、


「遙花……」


と、お父さんも近づいてきました。

恐る恐る、私を恐がりながら……

闇に取り憑かれた過去を思い出してしまったお父さんにとって、闇という恐ろしい存在を招く私は、恐怖の対象でしかないでしょうに……


「一体いつの間に、こんな不良娘になってしまったんだ? 言ってあったはずだよ? 門限は17時だから、過ぎるのなら先に連絡をするようにって。それなのに、こんなに遅く帰ってきて……」

「……えっと、あの、それは……」

「言い訳は後で聞くから。とりあえずはお説教からだよ?」

「お、お説教……?」

「遙花……」


お父さんは私に笑いかけてくれました。

その優しい笑顔は、もう私に向けられる事がないはずのもので……

しかもお父さんは、私に触れようと手を伸ばしてきたんです。

あれだけ恐れていた私に触れるなんて事、しなくていいのに……


無理をしてまで私に触れようとしているお父さんからは、私から離れるべきなのでしょうが、お母さんが縋り付くように抱き締めてくれているので、身動きが取れません……

このままでは、本当にお父さんがっ!


ふわっ……


「っ……お、おと……さ、ん?」

「あぁ……」


どうするべきかと狼狽えていたせいで、遂にお父さんの手は私に触れてしまいました。

ですがその優しい手は、私が思っていたような恐怖に震えたものではなくて、とても温かいもので……


「だ、大丈夫……なんですか? 私に、触れて……」

「もちろんだ」

「むっ、無理しないで下さい! 私は、その……おと……いえ、大地さんを困らせたい訳じゃなくて……」

「遙花」

「は、はい……?」

「怒るよ?」

「お、怒る?」

「どうして今、"お父さん"を"大地さん"に言い換えたのかな?」

「それは……私に、そう呼ぶ資格なんて……」

「勝手に資格を失わないでくれ」


お父さんがこんな風に私に触れられるだなんて……

私が頑張ってほしいなんてお願いをしたから、無理をしてくれているに決まっています。

だから離れようとしているのに、お母さんと涼真兄さんはそれを許してくれませんし、"お父さん"と呼ぶ事を許してくれているみたいです……?

私は恐怖の対象であるというのに……?


「で、でも……私は、皆さんに恐怖を与える存在なんですよ……?」

「誰が、そんな事を言った?」

「え?」

「いつ、僕達が遙花から恐怖を与えられているなんて言ったんだい?」

「だ、だって……おと、あ……大地さん……」

()()()()

「あ……はい、お父さん……その、お父さんは私を恐れていたじゃないですか。触れる事も出来ない程に震えて……」


あんなに震えていたのに、今私を撫でてくれているお父さんの手は堂々としたものです。

とても懐かしい、いつも私を撫でてくれていたあの温かい手そのものです。

それはまるで、本当に私の事を恐れてなんていないようで……


もし、もし本当にお父さんが私を恐れていないのなら、私はこの温もりに甘えてしまってもいいのでしょうか?

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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