状況把握
ハルさん視点です。
圭君に手を引かれながら、ミオが生み出してくれた時空の歪みの中へと進む事になってしまいました。
そして開けた視界に映ったのは、私達を見つめる純連さんと、私の記憶よりも歳をとっているお父さんとお母さんと涼真兄さんで……
「え……」
「け、圭……?」
「あ、えっと……ただいまです」
「……」
「うん、おかえり。それと、君がハルなんだね?」
急な事に動揺してしまって、顔が上げられません……
誰の顔も見る事が出来なくて、今すぐこの場から離れたいのに、私の手を優しく握る圭君は、それを許してはくれなくて……
「その……会いたかったよ」
「……」
「圭君から話を聞いてね、君に会える事をとても楽しみにしていたんだ」
懐かしい、お父さんの声……
でもこの方を"お父さん"と呼ぶ事が許されなくなってしまった私には、何をどう話せばいいのかも分かりません。
折角話しかけて下さっているのに……
「こんなに可愛らしいお嬢さんだとはね……ん? いや、君……前にも会った事があるね……」
「あぁ、そうね。どうも見覚えがあると思ったのよね」
「俺も覚えてるぜ、あの時の子だろ?」
「ど、して……?」
「印象が強かったんだ。走り去って行く君から、どうしても目が離せなくてね……あの時は、僕達から記憶が消えたかの確認に来ていたんだね?」
「つまり、あの日に消したって事か……」
まさか、あの日の事を覚えていたというのでしょうか?
お父さんも、お母さんも、涼真兄さんも?
あんな、本当に少しだけの遭遇を……?
「ねぇ? もっとよく顔を見せてちょうだい?」
私が俯いているとお母さんが近づいてきて、私の頬に触れて、私の顔を見て、だんだんと瞳に涙を……
「うっ……あ、会えて嬉しいわ!」
「あ、あのっ、えっと……すみません……」
「謝らなくていいから、だから……少しだけ、こうさせていて……」
「っ、…………はい」
私がお母さんを抱きしめ返す事が出来ずに戸惑っていると、
「わわっ!」
ドサッ……
「ちょっと、押さないでよっ!」
「あははー、ごめんごめーん」
と、歪みからミオとメモリアが入って来ました。
楽しそうに2人で少しじゃれ合ってから、私達の方へと近づいてきて、
「お初にお目にかかります。私が皆さんからハル姉さんの記憶を奪った張本人。メモリアです」
という、何ともいえない挨拶をしました。
"記憶を奪った"だなんていう、自分を悪者にした言い方をして……
まだ幼かったメモリアにお願いしたのは私なのに……
「さて、早速お返ししていきましょうか!」
「ま、待って下さい! そんな急に……」
「善は急げ、ですよ? ハル姉さん」
「だからといって……」
来ていきなり記憶を返そうとするメモリアを静止したのですが、聞いてくれそうにはありません。
ミオもメモリアも、私の手を優しく握ってくれている圭君でさえ、私の味方ではないんです。
今この場に、私の味方は1人もいない……
どうして圭君が急にここまでの行動を起こし、ミオやメモリアまでが圭君の味方をするのかが分かりませんでしたが、そういう事ですか。
これは圭君の思いつきによって起こされた事ではなく、ミオとメモリアの方が圭君を巻き込んだ結果だったんですね。
ミオはずっと家族に忘れられている私を心配してくれていましたし、先程のメモリアの発言からしても、メモリアがずっと私の家族から私の記憶を消した事を後悔していたのだと分かりますから。
でも、やっぱり私は……
「ハル……君が僕達を心配してくれるのはありがたい。でも、僕達は早々に君の事を思い出したいんだ」
「そうだぞ、ハル。大体な、俺は怒ってるんだからな?」
「お、怒る……?」
「俺達は家族だろう! それなのに、全部1人で背負い込んで……」
「そ、それは……」
「あぁ、お前にも考えがあったんだろ? でもな、その考えを理解してやる為にも、俺達はまず記憶を返してもらわないといけない」
「えぇ、そうね……少し待っていてね」
お父さんは私に優しく笑いかけてくれています。
その笑顔は、本来私がもう見る事の許されていないものです。
涼真兄さんもお母さんも私に笑顔を見せてから、記憶を返してもらう気満々でメモリアに向き合っています。
記憶が戻ってしまったら、全員その笑顔は失われてしまうというのに……
私は一体どうしたらいいのでしょうか……?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




