警告
大地さん視点です。
僕は遂に、本当にやっと遙花に触れる事が出来た。
自分で情けなくも思うが、今はその情けなさよりも触れられた喜びを噛み締めておくべきだろう。
そして僕が遙花に触れる事が出来たからこそ、遙花が勘違いをしている事にも気付けた。
遙花は、自分が僕達に怖がられていると思ってしまっていたんだ。
自分が心配される事、自分が守られる事を理解していないから。
だから自分が離れる事こそが、僕達を守る事に繋がるのだと信じて疑わなかったんだろう。
遙花がそんな事を考えてしまっている事にもっと早くに気付いて、その考えは間違っているのだと諭さなければいけなかったのに……
「あの時、遙花が何を思っていたのかを、ちゃんと教えてくれないかい?」
「わ、私は……」
「僕が遙花を恐れていると思っていたんだよね?」
「……はい。違ったんですね……?」
「あぁ、全くもって違うよ。だからきっと、他にも違う事があるよ?」
「お、お母さんは……いつも、泣いていました。あれは……あんな恐ろしい事がまた起きたらと怯えていたのですよね?」
「それは、そうね。でも、私が怯えていたのは、そうして遙花や涼真、そしてお父さんを失ってしまうのが怖かったからよ。決して遙花と離れたかった訳じゃないわ!」
「……りょ、涼真兄さんが……暴れていたのは……?」
「そうか、遙花には俺が恐怖に狂って暴れているように見えたのか……ごめんな、あれは今度あんなのが襲ってきたら、俺がやっつけられるようにって鍛えてたんだ。遙花を、父さんと母さんを守る為にな」
「……」
「僕達は誰も、遙花と離れる事なんて望んでいなかったんだよ?」
「そう、だったんですね……本当に、圭君の言う通りでした。誰も私を拒絶したりはしていなくて……」
「そうですよ」
遙花は自分の勘違いを分かってくれたみたいだ。
僕達から恐れられてもいないし、避けられてもいないのだという事を。
でも、どうして遙花はここまで大きな勘違いをしてしまったんだろうか?
僕達が遙花を避けるはずがないと、何故誰も遙花に進言してくれなかったんだ?
遙花は悩みをユズリハ様によく相談していたし、ユズリハ様だって僕達が遙花の事をどれだけ大切に思っているのかを分かってくれていたはずなのに……?
……そういう事か。
「お、父さん?」
「ごめんな、遙花……遙花が本当に辛い時に、何の力にもなってあげられなかった……」
「いえ、それは……」
僕が気付いたのだと察したようで、遙花は少し悲しそうに笑ってきた。
遙花達の時間の流れが僕達とは違う事は分かっている。
だから遙花にとっては相当に昔の事なんだろう。
今でこそこういう顔が出来る程に落ち着けたのだとしても、あれ程に慕っていた大切な方を失ったんだ。
本当なら、その悲しみに寄り添ってあげるべきだったのに……
「君も、あの時の子だったんだね?」
「……まぁ、そうですね」
記憶が戻ってきた今、改めてあの時の状況を考える事が出来た。
このミオという少女があの頃の遙花よりも幼かった少女であり、あの時僕達の事をあまり気にしてはいられないような事を言っていたという事は、彼女達は頼れる人が少ない中で、相当に苦労してきたという事だ。
そして僕達の記憶を消したというメモリアという彼女が、ずっとその事を悔いていた事も間違いない。
僕の弱さは、本当にたくさんの人に迷惑をかけていたんだ……
「あ、あの? お父さんとミオは知り合いだったんですか?」
「ん? あぁ、そうだね。知り合いという程ではないんだが、ミオさんは僕を応援に来てくれたんだ」
「……え?」
「このままだと良くないと教えてくれて、僕に心を強く持つようにと助言してくれた」
「そんな事もしましたね……」
「そ、そうだった、んですか……」
ミオさんは遙花に自分が僕を応援した事を話していなかったようで、遙花はかなり驚いている。
ミオさんからしたら、応援は無駄になってしまった事になるし、態々話すような事でもなかったんだろう。
これはしっかりと謝罪をしておかなければ……
「折角応援してくれたのに、この有様で申し訳ない……これでも一応は頑張ったんだけどね……」
「そんな事はもう、どうでもいいです」
「君の期待に応えられなかった事は本当に申し訳ないと思っているんだ。だから……」
「ですからっ! どうでもいいと言っているんですよっ!」
少し険しい顔で僕達の様子を見ていたミオさんは、急に声を荒らげて僕の発言を静止した。
なんというか、これはミオさんらしくない気がする?
彼女の事を詳しく知っている訳ではないけれど、僕達の重要な話し合いでも飄々と笑っていたというのに、この場でこんな風に声をあげるなんて……?
「あなたは悲劇を繰り返したいのですか?」
「な、何を……?」
「そうでないのなら、しっかりと現状を見なさい! 今の、あなたの愛娘の現状をっ!」
怒った様子で僕の背後を指し示したミオさん……
その手の誘導に従って振り返った先で、遙花は膝をついて泣き崩れていた。
絶望一色に塗り上げられてしまったような、輝きを失った瞳で……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




