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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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足りない花

大地さん視点です。

 瑠璃色の髪の少女は、遙花達の敵である闇という存在は、弱った心に付け込んでくるのだという事を教えてくれて、僕に心を強く持つようにと応援してくれた。

 自分で自分の大切な娘を殺そうとしてしまったという、こんな恐ろしい記憶から逃げずに立ち向かえと……


 正直に言って、今の僕にその強さはない。

 だからこうして逃げてきているんだ。

 でもその強さがなければ、僕は遙花の役に立つ事はおろか、家族と共に過ごす事すらも難しくなってしまうんだ。

 だったら、どれだけ恐ろしいのだとしても、立ち向かわなければ!


 そう意気込んで帰ってきたというのに、僕はまだ遙花に触れられていない……

 帰ってきて一番に、


「お父さん、おかえりなさい!」


と、無理をしてまで笑って迎えてくれた遙花。


「ただいま」


と言って、遙花の頭を撫でようと伸ばした手は、情けなくも震えてしまって……

 これまでずっと当たり前に出来ていた事が、こうも難しいだなんて……


 だが、そんな事で弱気になっていてはいけない。

 僕はもう闇に取り憑かれたりはしない! 絶対に!

 だから遙花に触れても、遙花を傷付けてしまう事なんてないんだ!


 何度もそう思い直して、遙花に触れようとした。

 けれど結局、遙花に触れる事は出来なくて……


「お父さん、お母さん、涼真兄さん。皆で一緒に公園に遊びに行きませんか?」

「遙花……」

「ダメ……ですかね?」

「い、いや! ダメなんて事はないよ! 行こう! 公園!」

「え、えぇ、そうね。行きましょうか」

「うん、行く……」


 僕はこんなにも情けないというのに、遙花は家族皆で公園へと遊びに行く事を提案してくれた。

 このままではいけないからと、変わるきっかけを作ってくれたんだ。


「久しぶりですね! 皆でのお出かけ!」

「そうね」

「あっちの花公園に行きましょう! 花壇のお花がとても美しく咲いていて、綺麗なんですよ!」


 遙花が何度も笑いかけてくれながら、4人で花公園へとやってきた。

 色とりどりの美しい花々が僕達を優しく迎えてくれている気がする。


「あ、お父さん! ここのベンチに座ってみて下さい!」

「え?」

「どうですか! 絶景ですよね!」

「あぁ、最高のお花見ポイントだね」

「お母さんも是非お父さんの隣に!」

「え、えぇ……」


 陽茉梨が僕の隣に座ってくれた。

 ずっと泣いていて、僕を怖がっていたとはいえ、ずっと僕と向き合おうとしてくれていたのは知っている。

 だからここは、勇気を出してくれたんだろう。


「陽茉梨、ありがとう」

「お礼を言われる事ではないわよ。それよりも、ごめんなさい……」

「陽茉梨が謝る必要なんて、何もないよ。ほら、こんなにも絶景なんだから、俯いていたら勿体ないよ」

「そうよね!」


 本当に久しぶりに陽茉梨の笑顔をみる事が出来た。

 そんな僕達の様子に遙花も嬉しそうだ。

 でも、どことなく悲しそうにも見えて……?


「遙花、俺はあっちの遊具で遊んでくるから」

「あっ……はい。涼真兄さん……」


 涼真は僕達の様子をよそ目に、遊具の方へと行ってしまった。

 やっぱりまだ、僕の事が許せないんだろう……


「お父さん、お母さん。私はちょっと向こうに行って来ますので、お2人はここでお花見していて下さいね!」

「あまり遠くには行かないようにね?」

「遙花、ありがとうね」

「はい!」


 涼真とはまだ和解出来ていないとはいえ、陽茉梨とはこうして笑い合えた。

 だから遙花も安心出来たようで、複雑そうに笑いながら花壇の奥へと駆けていった。


「陽茉梨、本当にごめんな? 僕が弱いばかりに……」

「私も弱いわ。だからあなたを避けてしまった……」

「僕だって、同じ状況だったら避けるよ。とても恐ろしい存在なんだから……」

「でも……」

「あぁ、分かる。一番恐ろしいのは、あの恐ろしい状況を遙花が全く恐れていなかった事だね」

「あの子には、あれが当たり前なのよね……」

「強く、ならないとな……」

「私も頑張ってみるわ」


ザッ……


「ん? 涼真……」


 ベンチに深く座り、少し俯きながら陽茉梨と話していると、目の前が急に影った。

 顔を上げると涼真が立っていて……


「父さん……ちゃんと馬の絵、描いてくれよ」

「あ、ああ! もちろんだ!」

「約束だかんな」

「そうだね、約束だ」


 涼真はそれだけ言うと、また遊具の方へと行ってしまった。

 それでも、ずっと僕を睨んでいた涼真が声をかけてくれた事は本当に嬉しくて……

 すぐに遙花にも話したかったんだが……遙花、どこまで行ったんだ?


「あなた?」

「遙花が見当たらない……」


 花壇の奥へ行っただけのはずだ。

 それなのに花公園を見渡してもどこにもいない。


「遙花? 遙花ー!」

「遙花、どこにいるのー?」

「ど、どうしたんだよ? 遙花は?」

「涼真、遙花がいないんだ……」


 まさか、また闇に襲われたり……


「すぐに探そう!」

「えぇ!」


 公園から出て、近くを走り回った。

 遙花どうか無事でいてくれ……

 遙花、遙花……はる……?

 なんだ? 今、随分と眩しかった気がしたが……


「「わわっ!」」


 陽茉梨の声か?


「おーい、どうかしたのかー? ん? 君は……」

「私が今、この子にぶつかってしまってね」

「それはそれは……」


 歩いていた道の先から、陽茉梨の声が聞こえた気がして向かうと、可愛らしい女の子が尻もちをついていた。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫です……」

「痛いところはないかい?」

「はい、ありません……」


 女の子に手を伸ばし、起こし上げてあげると、その子は不思議なものでも見るかのような目で僕をじっと見つめてきた。

 その愛らしい瞳は潤んでいるように見える。

 大丈夫とは言っているが、もしかしたらどこか怪我をして……?


「母さーん! 父さーん! ん? どうしたんだ君? 1人か? 兄ちゃんと一緒に遊ぶか?」


 涼真も丁度来てくれて、女の子に声をかけてくれたんだが、


「あの、大丈夫です。心配していただき、ありがとうございました。では、さようなら」


と、女の子は走って行ってしまった。

 その後ろ姿から、何故か目が離せなくて……


 桜のような美しいピンク色の髪の女の子……


 そういえば、今日は花公園の花壇が見頃だと思って3人で来たんだった。

 だがどうしてか、桜が足りないような気がするな。

 花公園には最初から、桜はなかったはずなのに……?

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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