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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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暗闇

大地さん視点です。

 今日も遙花は出掛けて行った。

 あまり詳しい事を教えてはくれなかったが、今日はとても重要な日だそうだ。

 一応1時間程度で帰って来られるとの事だったが、長引く可能性もあるのだと言っていた。


 だから遅くなっているのは仕方がないと思う。

 とはいえ、それにしても遅い。

 もう3時間以上は経っているのに、遙花は帰って来ない……


「はぁ……」


 思わずため息が出てしまう。

 いつも僕はこうだ。

 ただこうして、遙花の帰りを待つ事しか出来ない。

 遙花の力になってあげる事も、何も出来ない。


 もう既に、遙花がこれまでに過ごしてきた時間は、僕達と過ごした時間よりも、他の世界で過ごした時間の方が圧倒的に長くなってしまっている。

 このまま遙花の中での僕達の存在は薄れていって……いやっ! 何を弱気になっているんだ!


 遙花は僕が付けた遙花という名を気に入ってくれている。

 だから他の世界での活動名だって、"ハル"にしたのだと言ってくれていた。

 僕達家族との繋がりを、とても大切にしてくれているんだ!


 でも、僕が一番拘って付けた名は、"花"の方なんだよな……

 花のように愛らしい子に似合う、花という字。

 遙花が活動名を名乗る上で、必要ないと判断した花という字。

 僕が付けた名前が好きで、変えたくなかったというのに捨てられた、花…………


 ……あぁ、なんだろうか? 急に頭が痛い……

 目眩がして、吐き気がする……

 呼吸がしにくくて……


「ただいまですー」


 ん? この声は遙花……

 どこにいるんだ? 視界が真っ暗で、何も見えない……

 おかえりって言いたいのに……

 大変だったなって頭を撫でて、抱きしめてあげたいのに、どうして僕はこんな暗闇の中にいるんだ?

 遙花におかえりって、お……おか、え……


「お……お、おか……おかえり……」

「ただいま、です? お父さん?」

「あがっ……」

「うっ! おっ、おとーさっ……」


 暗闇の中、急に眩しい光が差し込んできた。

 僕は夢中でその光を掴んだ。


 こんな暗闇の中にはいたくない!

 僕も光の中にいたいんだ!


「あなたっ!? な、何をしているの!? い、いやっ! やめてぇぇえっ!」

「とーさんっ! 何やってんだよっ!」


 ……こ、これは、陽茉梨と涼真の声……?

 僕に何をやめろといって…………あ。


ガッ!


「うっ、うぁ……」


 急に強い衝撃を感じた……

 そして次に目を開けた時、そこは暗闇ではなかった。


 普通に明るい僕達の家……

 何故自分がこんなリビングの床で倒れていたのかが分からないままに起き上がり、辺りを見渡すと、陽茉梨が座り込んで泣いていた。

 そんな陽茉梨を涼真が支えていて……


「陽茉梨……涼真……?」


 僕が2人の名を呼んだ時、2人がビクッと震えたのが分かった。

 まるで僕を怖がっているかのように……?

 だがそんなはずはない! 僕は怖がられるような事をしていないのだから……と思い、2人に近づこうと踏み出そうとした一歩は、


「来るなっ!」


という、涼真の強い拒絶によって止められた。

 しかも涼真は、僕の事を酷く睨んでいて……


 僕が2人に何かをしてしまったのか?

 だからこんなにも2人は苦しんでいる?

 僕は一体何を……?


「あ……あ、あぁ……」


 そうだ、僕は……

 僕は遙花の首を絞めたんだ……

 この手で……


「ただいまです。お父さん、体調はどうですか?」

「……は、はる……?」


 遙花が帰って来てくれた。

 それに、まるで僕に首を絞められた事実なんて存在していないかのように、僕の心配をしてくれている。


「生命力は食事や睡眠で回復します。今日はゆっくり休んで下さいね」

「あ、あぁ……」


 僕の生命力が低下したような事を言う遙花……

 確かに気だるさのようなものは感じるが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 もっと遙花の心配を……そう思っているのに、上手く言葉が紡げない……


「お母さんも涼真兄さんも、怖い思いをさせてしまってごめんなさい。ちゃんと倒して来たので、安心して下さいね」

「え、えぇ……」

「……そ、そうか……」


 遙花は一体、何を倒してきたというのだろうか?

 僕が遙花の首を絞めて殺そうとした事は事実なのに、その事を全く気にしていないようで……


 おそらく僕の体は遙花が倒してきたという何かによって操られていたんだろう。

 それは分かる、分かるんだが……


 僕のこの両の手にはしっかりと、遙花の首を絞めた感触が残っているんだ。

 僕は間違いなくこの手で遙花を殺そうとしていた。

 その事実を"操られていたから仕方ない"なんて短絡的に考える事は出来ない……出来る訳がない!


 なのに遙花は、


「もしかするとこれから先、こういう事は増えてしまうかもしれません。出来るだけご迷惑お掛けしないように気をつけますね」


なんて事を言って、悲しそうに笑うんだ……


 守りたいと、力になりたいと思っているのに、守れないどころか傷つけてしまう。

 さっきのような恐ろしい事を僕がまた起こしてしまうかもしれないというのに、それを自分が迷惑をかけている存在であるかのように話す遙花……


 僕は一体、これからどうしていけばいいのだろうか?

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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