家族の絵
大地さん視点です。
「おかえり、遙花。早速だがほら、誕生日プレゼントだよ。改めて、10歳のお誕生日おめでとう」
「わぁ! ありがとうございます!」
日のくれてきた頃、帰って来た遙花に約束していた誕生日プレゼントである絵を渡した。
真ん丸の瞳をキラキラと輝かせながら受け取ってくれた遙花は、満面の笑みを向けてくれている。
「凄いっ! 凄いですっ! 桜木と湖の絵ですね!」
「この絵のタイトルは"家族"だよ」
「家族ですか?」
「あぁ、僕達家族をイメージして描いたんだ。この桜の木はもちろん遙花。この絵の主役だね」
「という事は、桜の木が生えている地面。この大地がお父さんですね!」
「そうだよ。よく分かったね」
「お父さんの名前ですからね! あっ! 桜の木に降り注ぐこの温かい日差しはお母さんですね! 涼真兄さんは……?」
「涼真はこれだよ」
「これ? この湖ですか? それとも桜の花びらですか?」
「湖もだし、桜の花びらもそうだ」
「ん? 涼真兄さんが2つ?」
「涼真は、この桜を見守る湖であり、花びらの旅路を後押しする風でもある。どちらも涼やかだろう?」
「はいっ! お父さん、本当にありがとうございます!」
遙花という桜を支えていく僕達家族の絵。
自画自賛するのもなんだが、本当に素晴らしい絵が描けたと思っている。
遙花にも気に入ってもらえてよかった。
「じゃあ早速遙花の部屋に飾ろうか!」
「お願いしま……」
「遙花?」
「あの、やっぱりこっちでもいいですか?」
「こっち? リビングに飾りたいのかい?」
「はい。リビングは皆で過ごす事が一番多い、家族の部屋じゃないですか! 家族の絵を飾るのにピッタリな場所だと思うんです。それに、ここなら見ようと思っていなくても、絶対に自然と見ることになるんですよ!」
「確かにそうだね。それならすぐにリビングに飾るよ」
「お願いします!」
遙花はこの絵を誰もが一番見る場所に飾る事を望んでくれた。
この絵はやっと描くことが出来た理想の桜の絵だから、僕にとっても特別なものだ。
それがこうして常に見られるというのは、ありがたい事だ。
「あら、そこに飾る事にしたの?」
「いいな、うん! 凄くいい!」
「ですよね! お父さんの描いている絵はどれもすきですが、これが一番好きです! この桜も、あのお花見の時に見た本物の桜より綺麗ですし!」
「それは遙花の髪が綺麗だからだよ」
「私の髪ですか! えへへっ、ありがとうございます!」
「こちらこそだ」
遙花はこの絵をそこまで気に入ってくれたのか。
だったら……
「遙花、また遙花をモデルにした桜の絵を描いてもいいかな?」
「もちろんです!」
「ありがとう。これから先僕が描く桜の絵は、全て遙花にプレゼントするよ」
「いいんですか!?」
「あぁ。向日葵の絵を陽茉梨の為だけに描いているのと同じで、桜の絵は遙花の為だけに描くよ」
「わー!」
「良かったな、遙花! ところで父さん? 俺にはー?」
「ん? そうだな、涼真は何の絵が欲しいんだ?」
「うーん? 馬かな?」
「分かった。今度は涼真の為に馬の絵を描こう」
「やった!」
こうして家族が僕の絵を欲してくれている。
それは本当に幸せな事だ。
「さぁ、そろそろ夜ご飯を食べましょう! 今日は遙花の大好きなお野菜がたくさんだからね!」
「この前のお野菜、とても美味しかったです!」
「そうでしょ? とても美味しいお野菜を作ってくれているところから買って来たからね。今日もそうよ!」
「楽しみです!」
遙花は野菜が大好きだからな。
今日は遙花の誕生日だし、料理は野菜が多めになっている。
そしてデザートにはもちろんケーキも用意している。
これは間違いなく遙花も喜ぶはず……
「……あっ!」
「遙花?」
「あの、ちょっと呼ばれちゃいました……」
「え!? 呼ばれたって、今帰ってきたばかりじゃないか!」
「そうなんですけど、急用みたいで……」
これから楽しく遙花の誕生日を祝う食事を始めようという時に、遙花は呼ばれたと言い出した。
いくら今が忙しい時期なのだといっても、今の今まで出かけていたというのに、また出かけるだなんて……
それもこの遙花の誕生日に……
「行って来ますね」
「早く帰って来られそう?」
「はい! 調整してもらって、すぐに帰って来られるようにしますから!」
「すぐってどれくらいだ?」
「遅くても30分以内には!」
「そうか、それなら待ってるよ」
「行ってきます!」
「「「いってらっしゃい」」」
そう言って出かけて行った遙花は、15分後には帰って来てくれた。
僕達からしたらそう時間は経っていない事にはなるが、遙花は10日程の時間を過ごしてきたらしい。
それを15分にしたのだから、相当に無理をしたんだろう。
それに何より、遙花はかなり疲れて帰ってきた。
無理をして笑ってくれてはいたが、先の誕生日を楽しみたいという思いはその10日の間に薄れてしまっていただろう。
だからこそ、僕達との温度差もあって……
どうして遙花は、こんな使命を背負わされてしまったんだろうか?
どうして僕達は、遙花の役に立つことが出来ないんだろうか?
遙花を支えていく覚悟の表明として、この絵を描いたはずなのに……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




