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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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アトリエ

大地さん視点です。

 遙花が小学生になった頃、違う世界へと遙花が出掛ける頻度が更に増えた。

 そして、小学校も休む事が多くなってしまった。


 元々遙花は、アルビノという弱い体質だとして周囲に話していた。

 その為学校の休みが多い事はそこまで気にされていなかったが、休まない日の遙花の事はかなり心配されていた。


 遙花自身にとっては、体の何処も弱い訳じゃない。

 だから平気で走り回ったりするし、大丈夫かと聞かれれば当然大丈夫だと答える。

 そして、そんな元気な姿を見せていた翌日に休んだりなんて事になるから、学校の先生方も謝罪に来られたりして……


 加えて言えば、遙花は自分が心配される事をあまり理解できていなかった。

 それは、自身に特別な力があり、相応に戦える程に強い存在となっていたからだ。

 僕達が遙花を守ると言った時も、


「私がお父さんを守りますよ! この間も強くなったってユズリハ様に褒めていただけたんですから!」


と、嬉しそうに笑っていた。

 それに似た発言を小学校でもしているようで、病弱なのは何なのだと疑問を持たれてばかりだった。


 とはいえ遙花にあまり元気に振る舞わないように、とは言えなかった。

 やはり僕達は遙花が元気に楽しく過ごしてくれる事が一番大切だったから。


 それに、遙花が違う世界に行く頻度が増えた理由は、今が丁度引き継ぎの時期だかららしい。

 ユズリハ様が退身される為の大きな引き継ぎだそうで、遙花達も大忙しなのだという。

 以前ユズリハ様からいただいた手紙に、自分の残された時間の限りを遙花達に尽くすというような事が書かれていたのも、その引き継ぎが関係していたんだろう。

 詳しい事は分からなかったが、その引き継ぎが完了すれば、違う世界へと行かなければならない事も減るとの事だったので、あと少しなのだと見守る事にしたんだ。


「あ、あの……お父さん?」

「遙花、どうした?」

「その、私……お父さんのアトリエが見たいですっ!」

「え、アトリエ?」


 遙花も出掛ける事のない休日、今日は遙花と沢山遊ぼうと思っていると、珍しく遙花がお願いをしてきてくれた。


「ごめんなさい、迷惑でしたか?」

「迷惑な訳がないだろう? 遙花が僕のアトリエに興味を持ってくれて嬉しいよ」

「本当ですか!? あのっ、あのですね! 本当はもっと前から見たいって思っていたんです! でも、お邪魔になっちゃうと思って言えなくて……ユズリハ様に言ったら、それはお父さんにお願いした方がお父さんが喜んでくれるって仰られて……だからっ! えっと、私も嬉しいです!」

「ははっ、そうかそうか。そうだよ、ユズリハ様の言う通り、お父さんもお母さんも遙花がお願いをしてくれるのが嬉しいんだよ」

「えぇ。だからこれからは、我慢せずに言って頂戴ね」

「わっ、父さんも母さんもズルいよ。遙花、兄ちゃんにだってもっとお願いしていいんだぞ?」

「はいっ! ありがとうございます!」


 遙花が僕の仕事場であるアトリエに興味を持ってくれている事が本当に嬉しかったし、ユズリハ様にも感謝した。

 だが、感謝と同時に嫉妬の念も持ってしまった。

 遙花は悩み事を僕達ではなくユズリハ様に相談するのだという事と、ユズリハ様からの助言を素直に聞くという事が……

 親の僕達よりもユズリハ様の方が遙花の親のようで……


「ここが僕のアトリエだよ。少し散らかっているから、気をつけてね」

「素敵な絵がいっぱいですっ!」

「ほら遙花、これは父さんの使ってる絵の具だぞ」

「わぁ!」

「で、こっちにあるのが、父さんのお気に入りのパレットでー」


 涼真は何度か来た事があったから、遙花に僕のアトリエの紹介をしてくれていた。

 子供達の和気藹々としたこの姿を見られる事は、何よりの幸せだ。


「ふふっ、やっぱり綺麗ね」

「ん?」

「ほら見て、遙花の髪。日の光を受けて、キラキラと輝いているの。あの美しさは絵で表現するのも大変なんじゃない?」

「そうだな」


 アトリエの窓から差し込む光に当てられて、遙花の髪は輝いていた。

 その輝きももちろん綺麗だが、僕は日に当てられていない時の遙花の髪も好きだ。


「本当に綺麗な髪だな、まるで桜みたいだよ」

「桜ですか?」

「あぁ、桜はね、僕の1番好きな花なんだ。見る人をあんなに笑顔にできる花は他にはないよ。桜を見るだけで僕も笑顔になれるんだ」


 桜のように淡く美しいピンク色。

 この美しさを表現出来たらと思うが、なかなか思うようにはいかない。


「窓の向こうに大きな木が見えるだろう? あれが桜の木だ」

「お花が咲いていませんよ?」

「時期が違うからね。でも春になったら、とても美しい花を咲かせてくれるんだ」

「ハルになったら? 私はもうハルですよ?」

「ははっ、そうだね」

「遙花、前に皆でお花見に行ったじゃない? あの時、沢山のピンク色が舞っていたでしょう?」

「はいっ! あ、皆も笑顔でした!」

「そうだろう? それが桜だ。桜はとても凄い花なんだよ」


 遙花はあまり季節の流れを気にしていない。

 それは、この世界以外の世界でも沢山の時間を過ごしているせいだろう。

 だからどの季節に何が起こるかをあまり分かっていないんだ。

 普段は達観しているように見えるが、こういった時折見せる幼さも本当に愛らしい。

 それでいて、遙花は誰よりも優しい子だ。


「今は咲いていないの、残念です……皆の笑顔が……」

「大丈夫だよ、確かに桜は皆を笑顔にする花だけど、桜だけが皆を笑顔に出来る訳じゃないんだから」

「じゃあ私の髪も桜なので、私を見て笑顔になって下さいね」

「そうだね。本当に、僕にとって最高の桜だよ」


 頭を撫でながら笑いかけると、嬉しそうに笑い返してくれた。

 世界の浄化をしなければならない使命があろうと、動物に変身できる特別な力があろうと関係ない。

 遙花は僕達の大切な娘だ。


 この幸せを守っていく為に、僕には何が出来るだろうか……?

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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