ユズリハ様
大地さん視点です。
「ねぇ、今日幼稚園で言われたんだけどね?」
陽茉梨から、遙花の幼稚園での様子を聞いた。
どうも敬語のような言葉遣いで話すのは本当に癖になってしまっているそうで、先生方だけでなく、同年代のお友達に対してもそうなのだという。
先生は僕達が言葉遣いに厳しく育てている影響だと思ったようで、陽茉梨に少し強めのアドバイスをしてきたらしい。
一応誤解は解け、僕達が敬語で話すように指導している訳ではなく、遙花があの喋り方を気に入ってしまっているのだという事は納得してもらえたとの事だ。
だが、日が経つに連れて、この問題はどんどん悪化していってしまった。
遙花が敬語で喋るというのは、お友達からすると距離をとられているように思えてしまう。
だから皆、遙花からは離れていってしまったらしい。
もちろん遙花が嫌われたという事ではないそうだけど、皆もどう接していいのかが分からなかったんだろう。
そして何よりの問題は、遙花がその事を全く気にしていないという事だった。
「先生方も不思議に思われていたわ。妙に達観しているように見える時があるって」
「普通、お友達に避けられたら悲しいはずなんだけどな……」
「本当に仲のいいお友達が、別にいるから……よね?」
「そうなんだろうな……」
僕達は会った事がないが、遙花にはよく一緒に遊んでいる同い年の友達が3人いる。
その3人は3人共この世界には存在しておらず、遙花もこの世界から離れた時にしか会っていないはずだ。
それでも遙花と同じ境遇で、話も合うのだから、その子達と楽しく過ごせている以上は、幼稚園のお友達と無理に話を合わせて喋ろうとは思わないのだろう。
「最近、遙花が違う世界に出掛ける頻度も増えたわよね……」
「この間も、1時間程度出掛けていただけだと思っていたのに、10日間も過ごして来たと言っていたからね……」
「遙花は、寂しくないのかしら……?」
「お友達やユズリハ様が一緒におられるからなぁ……」
遙花が僕達の事を大切に思ってくれている事は分かっている。
それでも、遙花の中での僕達の存在が薄れていってしまっているように思えて……
遙花の事を少しでも分かってあげたくて時間の事を聞いているはずだったのに、遙花との距離がどんどん離れていってしまっているように感じてしまう……
「私達も、遙花と共に違う世界に行くことは出来ないのかしら?」
「それは流石に無理だろう? そんな無茶な事を言って、遙花が困ったらどうするんだ」
「そうだけど……」
「でもそうだね。何もしないより、少しは聞いてみる方がいいのかもしれない。ユズリハ様の事とか……」
僕達が遙花と共に違う世界へ行く事が出来れば、確かに遙花の事を分かってあげられるだろう。
でも、何の力も持たない僕達では、遙花の邪魔になってしまう事は間違いない。
だからそんな事を言って遙花を困らせたくはない。
とはいえ、何も知らないで過ごしていたくはなかった。
「なぁ遙花? ユズリハ様ってどんな方なんだい?」
「ユズリハさまは、とってもキレイで、つよくて、やさしいかたですよ!」
「遙花はユズリハ様の事が好きかい?」
「はいっ! だいすきです!」
「お父さん達もユズリハ様にお会いできないかな?」
「んー? こんど、きいてきますね」
そう言っていた遙花は、
「おとうさんとユズリハさまがあうの、むりでした。でも、おてがみをもらってきましたよ」
と、ユズリハのからの手紙をくれたんだ。
ハルのご家族様へ
この度はご挨拶がこのような形となり、大変申し訳ございません。
ハルの方からすでにお聞きになっているかとは存じますが、ハルには世界の浄化をしなければならないという、生まれながらの使命がございます。
その使命を背負わされてしまったのだと、ご家族の皆様が心配されるのも分かります。
ですがハルはとてもやる気に満ちており、この使命を全う出来ると私達は確信しておりますので、どうぞ皆様もハルを信じて見守ってあげて下さい。
特に今は、ハルが皆様方と過ごしている時間よりも、こちらで私と過ごしている時間が多くなってしまっております。
ご家族の皆様もそれが悩みの種となってしまっているのでしょう。
ですがこれから先、ハルが危険な目に会う事が増えていく事は間違いありません。
そして、その時私が必ず助けられるかといえば、そういうわけでもありません。
ですので今は、私に残された時間の限りを尽くし、ハル達がこれから先の未来を切り開いて行く術を身に付けてもらっているのです。
皆様の心中お察し致しますが、どうか現在の状況をご理解いただけると助かります。
ユズリハ様からの手紙は、読むとすぐに光って消えてしまった。
会えない事は残念ではあったけれど、とてもハルの事を大切に思ってくれているのだという事は分かったので、とりあえず安心出来たんだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




