愛娘
大地さん視点です。
目の前で弾けた眩しい光。
その光を受けた事で、たくさんの思い出が甦って来た。
「ふふふっ、なんて可愛いらしいの」
「本当にな。この笑顔はまさに天使だ……」
「かわいい、いもーと」
「そうだな、涼真もお兄ちゃんになったんだぞ」
遙花は本当に可愛い子供だった。
もちろん親バカだったんだろうが、産まれた時から、この子は誰からも愛される事は間違いないと確信出来ていた。
そんな遙花の髪が、しっかりと生えて揃って来た頃、少し違和感を感じた。
それは、明らかに髪の色が薄かったからだ。
真っ白ではなかったが、全く黒くはない。
日に当たるとキラキラと輝いて綺麗ではあったが、全く黒くないというのはどういう事なのか……?
少し調べて、アルビノという存在を知った。
アルビノは、産まれた時から身体の色素が不足している状態で、毛髪や肌、瞳などに影響が現れるのだという。
遙花は髪は殆ど白に近いし、涼真と比べても遙花の方が色白だ。
加えて言えば瞳の色も茶色というよりは黄色に近いように思う。
自分達の祖先にそういった人の心当たりもないので、少し心配になって遙花を病院へと連れていった。
診断の結果は特に異常なし。
本当にどれだけ安堵した事か。
ただ遙花の容姿がどんなものでも僕達の遙花への愛は変わらないとはいえ、アルビノではないのに何故こうも色素が薄いのかはずっと疑問に思っていた。
そしてその疑問は、遙花が3歳になった時に解決した。
「おとーしゃん、おかーしゃん、りょーにー、おはなしがあるのぉ。みんなにはないしょね?」
そう言った遙花は、急に全身を光らせて、自身の姿を喋る猫へと変えた。
もちろん驚きはしたが、正直驚きよりも納得に近い心境だった。
遙花は幼いながらに物事の理解力が高く、とても落ち着いた子供で、何処か自分達とは違う存在のように思う事が度々あったから。
そういった特別な力は髪や瞳にも影響を出しているそうで、遙花の地毛はキラキラと光る淡いピンク色で、瞳は金色になるのだとか。
そして何よりも重要な事が、遙花にはやらなければならない使命があるという事だ。
何故遙花がそんな使命を背負わなくてはいけないのかと心苦しくも思ったが、遙花自身がそれを望んでいるのだと思うと、僕達には何の口出しも出来なかった。
それに、どうも遙花は別の世界とやらでユズリハ様という方からの教えを受けているらしく、そっちに友人も多数出来たのだと楽しそうに話してくれた。
友人達も遙花と同様に特別な力が使えるらしく、皆で仲良く遊んでいるのだと遙花が笑って話すので、何の力もない自分達が下手な事を言うわけにはいかないと思っていた。
「遙花ー?」
「おとぅさん、おかぁさん! あのねあのね、きょうはユズリハさまにじょーかおしえてもらったのー!」
「そう、良かったわね」
「うん! あとね、わたしがユズリハさまたちといるときね、ほんとうのなまえはいっちゃダメなんだって」
「本当の名前?」
「遙花って名乗ったらダメなのかい?」
「そー。だから、ハルってなまえにしたんだよ」
「ハル?」
「遙花から、"か"が消えただけだよ? それでいいの?」
「うんっ! おとぅさんがつけてくれたなまえ、すきだから! かえたくなかったのー!」
「そうかそうか」
偽名を名乗らないといけないような事を言っていたが、僕のつけた名前を気に入ってくれている。
それは本当に嬉しい事だった。
僕達が介入する事の許されない事情を持っているのだとしても、僕達との繋がりを遙花はとても大切にしてくれているのだと強く思えたから。
だが、遙花が5歳になった頃……
「ただいまですー」
「お帰りなさい」
「とちがみさまのところで、みんなであそんできました」
「土地神様?」
「そうです」
「ん? 遙花? お父さん達にまで敬語を使わなくてもいいんだよ?」
「んー? でもこっちのほうがはなしやすいですから」
「そう?」
土地神様という神様にもお会いしてきたようだし、そういった尊い存在と話して来たからなんだろうが、遙花の話し方は段々と敬語が多くなっていった。
完全な敬語という訳ではなくとも、どこか距離をとられているように思えて……
「私達の知らないところで、遙花はユズリハ様という方々に会っているのよね……」
「そうだな。以前時間の流れが違うような事も言っていたし、遙花にとっては僕達とよりもユズリハ様達と共にいる時間の方が長いのかもしれないな……」
数時間前にあどけない様子で出掛けて行った遙花が、随分と達観した様子で帰ってくる事もあった。
敬語で話す方が楽だと思うくらいに敬語を使っていたのだと思うと、本当にどれだけの時間、遙花は僕達と会っていないんだろうか?
「遙花。今度からでいいから、出掛けたら向こうでどれだけの時間を過ごしてきたのかを教えてくれるかな?」
「じかんを?」
「私達は遙花が感じている時間の違いを知っておきたいの」
「オレにもちゃんとおしえるんだぞ!」
「はいっ! わかりました!」
これで少しは遙花の事を分かってあげられる。
この時はそう思っていたんだけどな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




