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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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帰宅

圭君視点です。

「お初にお目にかかります。私が皆さんからハル姉さんの記憶を奪った張本人。メモリアです」


 そう自己紹介をしてくれたメモリアさんは、


「さて、早速お返ししていきましょうか!」


と、楽しそうに宣言した。

 ミオさんが仲間達にも頼っているという話をしていた時点で、ハルさんの会社の世界の人達は、ハルさんのご家族にハルさんの事を思い出して欲しいと思ってくれているのだという事は分かっていた。

 それでもこうして、その記憶を消したという張本人の方も協力したいと思ってくれているというのは、嬉しく思える。

 ただ、"奪った"という言い方からして、このメモリアさんは自分が悪いと思ってしまっているみたいだ。


「ま、待って下さい! そんな急に……」

「善は急げ、ですよ? ハル姉さん」

「だからといって……」

「ハル……君が僕達を心配してくれるのはありがたい。でも、僕達は早々に君の事を思い出したいんだ」

「そうだぞ、ハル。大体な、俺は怒ってるんだからな?」

「お、怒る……?」

「俺達は家族だろう! それなのに、全部1人で背負い込んで……」

「そ、それは……」

「あぁ、お前にも考えがあったんだろ? でもな、その考えを理解してやる為にも、俺達はまず記憶を返してもらわないといけない」

「えぇ、そうね……少し待っていてね」


 ハルさんにしがみつくように抱きしめていた陽茉梨さんも、ハルさんから離れていった。

 大地さん、陽茉梨さん、涼真さんの3人は、メモリアさんと向かい合っている。


「じゃあ記憶をお返ししますね!」

「よろしくお願いします」

「だっ、だめですっ!」

「ハル姉さん……」

「あなた達は、何も分かってない! いいですか? この記憶が戻ると、あなた達は苦しむ事になるんですっ! その苦しみは、治療する事の出来ない心の苦しみです! 一生治る事のない病気なんですよっ!」


 珍しく声を荒らげているハルさん。

 一応僕の言葉に納得してついて来てくれたとはいえ、ご家族の皆さんにあの記憶が戻る事を受け入れられないんだ。

 知らなかったら、僕もハルさんは心配症だと思うくらいだったかもしれない。

 でも僕は、あの恐ろしいに過去を聞いてしまったから……


「大地さん、陽茉梨さん、涼真さん……ハルさんの言う通りです」

「「「え?」」」

「僕はさっき、皆さんとハルさんの間に何があったのかを聞きました。そして、そんな記憶は忘れていた方がいいと思いました」

「け、圭君……?」

「皆さんが今取り戻そうとしている過去の記憶は、本当に恐ろしいものです。一生癒える事のない傷を負う事になりますよ」


 僕のこの言葉は、ハルさんが皆さんに記憶を戻さない方がいいと言うよりも重いはずだ。

 僕もからしたら数時間前だけど、皆さんからしたら本当についさっきまで、皆さんにハルさんの記憶が戻るべきだと僕は言っていたんだから。


「そうか、そんなに酷いのか……」

「そりゃあ気合を入れ直さないとな!」

「圭君、ありがとう」

「はい」

「……は?」


 ハルさんは現状があまり理解出来ていないみたいだな。

 僕はハルさんの言っている事は正しいと思っている。

 あんな記憶を取り戻せば、皆さんは苦しむだけなんだから、記憶を取り戻す必要はないという考えを肯定する。

 でも皆さんの、それでもハルさんの事を思い出したいという気持ちを尊重している。

 だからこそ、あの記憶を背負う事になってしまっても、皆さんなら立ち上がれると信じている。


「ハルさん、一緒に皆さんを応援しましょう?」

「な、何を言って……」

「そんなに怯えなくても大丈夫です。怖いことなんてないですよ」

「……」


 震えているハルさんを強く抱きしめる。


「皆さんは、急に恐怖のドン底に落とされる訳じゃありません。勇気を持って、恐怖と戦いに行くんです。だから、一緒に応援しましょう?」

「……」


 落ち着かせるように頭を撫でて、ハルさんの瞳から溢れる雫を、僕の服に吸収させる。


「大切な家族からの応援というのは、何よりも強い力になると思いますよ?」


 少しだけ僕とハルさんの間に隙間をつくり、美しい髪を辿りながら屈み、ハルさんの顔を覗き込んで声をかけると、


「……って、頑張って下さい……」


と、ハルさんは弱々しい声を発してくれた。

 いくら弱々しくとも、当然その声は皆さんに聞こえている。


「あぁ、頑張るよ!」

「可愛い娘からのお願いだからね!」

「恐怖に必ず打ち勝ってみせるから、もう少しだけ待っていてくれ」


 皆さんのそのハルさんに向けられた笑顔は、ハルさんの瞳にもしっかりと映ったはずだ。


「では、いきますね!」


 メモリアさんが両手を掲げると、その手の中に光が現れた。

 そしてその光はどんどんと大きくなっていき、大地さん達の前に移動していくと、一気に弾け飛んだ。

 そして……


「ん……あ、あぁ……」

「ハ、ハル……ハルカ?」

「はるかっ! 遙花なのね!」


 眩しさに閉じてしまっていた目を開けると、3人共目を見開いてハルさんを見ているのが分かった。


 これでこの天沢家に、天沢遙花さんがやっと帰って来る事が出来たんだ。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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