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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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記憶消去

ハルさん視点です。(回想)

「では、皆も家を出る事にするんですね」

「そのつもりだよ。私さえ離れていれば、闇憑きになるリスクは下がるし、ちゃんと浄化が出来るようになるまでは、山奥とかでひっそり暮らそうと思ってる。で、力が戻ったら家族のところに帰るつもり」

「私は殺しちゃう可能性がある以上、一箇所に留まって闇憑きを撃退する事は出来ないからね。旅をして、闇も分散させるつもりよ」

「それ、大丈夫なんですか? いくら分散させても、闇憑きは絶対に襲ってきてしまいますよね?」

「えぇ。でもその事に対しては、既に対策を考えてあるの。だから私は問題ないわ。それよりハル? あなたこそ出ていくなんて大丈夫なの? あなたの世界は、戸籍? とかいうものがあるのでしょう?」

「ありますね……だから、私の周りの皆の記憶を消すつもりです」

「き、記憶を消すって……」

「それは、何もそこまでしなくてもいいんじゃない?」

「ううん、しないとダメ。ハルの世界は、子供が1人で旅なんて出来ないだろうし……ごほっ! で、出ていくなら、確実に記憶は消さないと、大問題になるんだもんね……」

「それはそうね……」

「ハル、大丈夫?」

「……それで皆が幸せな日常に戻れるんですから、大丈夫ですよ」


 仲間の皆は、大切な人達に自分が忘れられてしまう事で、私が闇堕ちしてしまう可能性を懸念してくれていました。

 それでも、記憶を消さずに出ていくという選択肢は、私にはありませんでした。

 皆が心配してくれたように戸籍の問題もありましたが、何よりあの日の事を覚えていて欲しくはありませんでしたから。


 もちろんあの日の記憶だけを消して、皆のように浄化の力が戻るまで旅に出ると伝えて出ていくという選択肢も考えはしました。

 でも、お父さんのあの私に怯えている目を思い出すと、やはり私はもうあの家族を巻き込んではいけないと思ったんです。

 私は無関係でいるべきなのだと……


「流石ハルだね。となれは、誰に消してもらうかが問題になってくるけど」

「そうね。今の私達には、記憶を消せるだけの力はないものね」

「頼むとなるとやっぱりミオだけど、ミオは私の世界の浄化もしてくれてるし……げほっ」

「ミオは今、かなり沢山の仕事を請け負ってくれています。私達が不甲斐ない分、相当に頑張ってくれていますからね。これ以上の迷惑はかけたくないです」

「そうなると……メモリア?」

「まだ幼いでしょ?」

「前に、ごほっ……ユズリハ様がメモリアのこと褒めてたよー」

「ならやっぱりメモリアが最適ね」


 それからはトントン拍子に話が進んでいきました。

 メモリアも快く引き受けてくれたので、私の世界に一緒に来てもらって、記憶消去を始める事にしたんです。


「はじめますね」

「あっ! 待って下さい!」

「はい?」

「すみません、ちょっとだけ……」

「はい!」


 メモリアを待たせてまで私が取りに行ったのは絵です。

 お父さんが私の10歳の誕生日にとくれた、桜の木と湖の美しい絵……

 私の荷物等は先に移動させてあったのですが、この絵はリビングに飾ってあったので、移動させていなかったんです。

 でもやっぱり、持っていきたいですからね。


「わがままでごめんなさい。もう大丈夫ですよ」

「わかりましたー! じゃあきおくしょうきょ、いきますねー!」


 メモリアが記憶消去の力を発動してくれました。

 街を覆う程の大きな光が弾けて、皆から私の記憶が抜けていっているのが分かります。

 家族はもちろん、学校の友人、先生、近所の皆さん……

 これだけ広範囲に記憶消去を行えるとは、メモリアも成長しましたね。


「かんりょーです」

「ありがとうございます」

「かくにんに、いかれますか?」

「そうですね」


 今日は元々、公園で遊ぼうと私から誘っていました。

 お父さんは怯えながらではあっても私からの誘いに乗ってくれて、お母さんも無理に笑って着いてきてくれていました。

 涼真兄さんもお父さんを睨んではいましたが、一緒に来てくれて……

 だから3人共今は公園にいるはずです。


 駆け足で公園へと向かうと、


「「わわっ!」」


ドサッ……


「まぁ! ごめんなさいね? 大丈夫? 怪我は?」

「あ……大丈夫です」


曲がり角のところで、お母さんとぶつかってしまいました。

 そしてその後ろから、


「おーい、どうかしたのかー?」


と、お父さんが……


「ん? 君は……」

「私が今、この子にぶつかってしまってね」

「それはそれは……お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫です……」

「痛いところはないかい?」

「はい、ありません……」


 お父さんは屈んで私と目線を合わせて、起こし上げてくれました。

 あんなにも私を怖がって、私に触れる事も拒んでいたのに……


 でもなんでしょうね。

 それは私の望んだ嬉しい事のはずなのに……胸が、苦しい……?

 どうして、私を知らない子供のように扱うのでしょうか……?


「母さーん! 父さーん! ん? どうしたんだ君? 1人か? 兄ちゃんと一緒に遊ぶか?」


 涼真兄さん……

 もうお父さんを睨んだりしていない、いつも私を遊びに誘ってくれる時の、優しい笑顔……

 そうです……私はこの笑顔を守るためにこうしてもらったんですから!

 しっかりしないと!


「あの、大丈夫です。心配していただき、ありがとうございました。では、さようなら」


 私は走って3人の元から離れ、メモリアの所へ帰りました。


「おかえりなさいませ、ハルおねぇさま。メモリア、ちゃんとできていましたか?」

「はい。完璧でしたよ。上手くなりましたね」

「あ、あのハルお姉様?」

「あぁ、ミオも来てくれたんですね。大丈夫ですよ、心配してくれてありがとうございます。メモリアも本当にありがとう」

「わぁ! ハルおねぇさまにほめられたぁー!」


 さよなら、お父さん、お母さん、涼真兄さん。

 私の存在なんて忘れて、これからも笑顔で幸せに過ごして下さいね。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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