闇憑き
ハルさん視点です。(回想)
ユズリハ様の件が一段落して、これからの事を家族にどう説明しようかと考えながら自分の世界に帰ってきました。
深い悲しみや新たな重責……そういったものを1人で抱えるには、私はまだ幼すぎたんです。
だから早く家族に会いたかった。
相談したくて、抱きしめてほしくて……甘えたかったんです。
私にとっては3ヶ月もの間、家族に会えていませんでしたからね。
久しぶりに家族に会えるという喜びばかりを募らせた、あまりにも気の抜けた状態で帰って来てしまったんです。
それを言い訳にするつもりはありませんが、私は自分の世界に侵入した闇の存在に気付かないままに、自分の家に足を踏み入れてしまいました……
「ただいまですー」
「あら、お帰りなさい」
「やっと帰ってきたか。随分と長かったんじゃないか? こっちじゃ3時間くらいだったけど、何日くらい向こうにいたんだ?」
「3ヶ月くらいですよ、涼真兄さん」
「そんなにかっ!? そりゃあ寂しかったろ? 兄ちゃんとたくさん遊ぼうぜ!」
「はい、ありがとうございます!」
いつもと変わらず、お母さんと涼真兄さんが優しい笑顔で迎えてくれました。
すぐにお父さんにも会いたくて、リビングの方へと行ったのですが……
「お……お、おか……おかえり……」
「ただいま、です? お父さん?」
「あがっ……」
「うっ! おっ、おとーさっ……」
ふらっと変な動きをしたお父さんを不思議に思ったその瞬間、私は自分の体が浮いている事に気付きました。
首が苦しくて……お父さんが私の首を掴んで体ごと持ち上げ、私の首を絞めていたのだと気付くのにも、結構な時間を有してしまいました。
「あなたっ!? な、何をしているの!? い、いやっ! やめてぇぇえっ!」
「とーさんっ! 何やってんだよっ!」
薄れゆく意識の中で、お母さんと涼真兄さんの泣き叫ぶ声が聞こえて、目の前のお父さんが泣いている事にも気付きました。
お父さんは自らの意思でこんな事をしている訳じゃない。
だったらお父さんに何が起きたのか……?
そんなの、闇に取り憑かれた以外にありませんっ!
私は咄嗟にキツネに化け、体のサイズを変える事によってお父さんの手から抜け出しました。
そしてそのままお父さんの背後にまわり、ジャンプして体を捻りながら、自分の尻尾をお父さんの後頭部に当てました。
「うっ、うぁ……」
闇は、取り憑いた相手が意識を失えば、自動的に出てきます。
近くに他の取り憑きやすい対象がいれば、またその体に入ったりもするので、出てきた闇は早々に消し去らなければなりません。
ですが私の尻尾攻撃によって気絶したお父さんから出た闇は、そのまま外へと逃げて行ってしまったんです。
「あっ、逃がしませんよっ!」
当然私は闇を追いかけます。
新しい対象に取り憑かれては困りますし、お父さんの生命力を吸収して実体を持ってしまった闇が外で暴れれば、多くの目撃者を作ってしまう事になりますからね。
被害は最小限でおさえなけば、世界のバランスにも悪影響が……と、その時の私は、そんな事ばかり考えていました。
闇を追いかけなきゃいけないという事に頭がいっぱいいっぱいで、その無茶苦茶な状況に混乱する家族達に対して、何も言わずに飛び出してしまったんです。
もしあそこですぐに闇を追わず、お母さんや涼真兄さんに説明をして、お父さんの事を託していく事が出来ていたら……
いえ、仮にそれが出来ていたとしても、現状は変わらなかったと思います。
それに闇を野放しにする方が危険なのですから、私はこの時の選択を間違えたとは思っていません。
ただ他に最善の選択はあったのかもしれませんが……
「はぁっ!」
「ミオ!」
闇を追いかけて行った先で、ミオが闇を倒してくれました。
私はすばしっこい闇に翻弄されて、なかなか倒せずにいたので、本当に助かりました。
そして他の皆も集まってきてくれて……
「ハル!」
「ハルお姉様、ご無事で良かったです」
「皆……何故ここに?」
「あの時の闇がこの世界に逃げ込んでいる事が分かったから、急いで来たのよ」
「ごほっ……ハル、怪我はしてない?」
「私は大丈夫です。寧ろ、大丈夫ですか?」
「うん。私は問題ないよ〜」
改めて考えると、とても大きく強い闇でした。
皆も心配してきてくれる程に厄介な相手だったんです。
だからこそ、注意深く帰ってきていたら、絶対に気付けたはずなんです。
最初からお父さんに闇が取り憑いている事が分かっていれば、あんな不覚は取りませんでした。
お父さんが私の首を絞めるなんていう光景をお母さんと涼真兄さんに見せる事もなく、お父さんに娘を殺そうとした記憶を植え付けてしまう事もなかったんです。
今更そんな事を言っていても、もうどうしようもない事なんですけどね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




