絶望的状況
ハルさん視点です。(回想)
ユズリハ様が亡くなられてしまったあの時……
私達は最初、泣くことしか出来なくて、誰もすぐには行動できませんでした。
「うっうぅ……うぁ、うっ……」
「ユ、ユズリ、ハ様……ユズリハさまぁっ!」
「なんでぇっ!? どうしてっ!?」
「嫌……こんなの……」
そんな、私達が現実を受け入れられずに狼狽えていた時、
「ユズリハ様ー! ご報告致しますっ! この世界のバランスが崩れ、闇が大量発生しております。すぐにバランス維持と発生した闇の浄化、そして歪みの修正を……って、は? え、ユズリハ様?」
「ご、ご報告致しますー! 結界が無くなった事で空間が……ユズリハ様……」
「封印がー! 1の封印が破られましたー! このままでは2の封印も……嘘だろ……」
と、沢山の異常報告が来たんです。
その異常報告に来た方々は皆、ユズリハ様に解決してもらえる事を当然として報告に来ていました。
だからユズリハ様が亡くなった事実を知り、事態が解決できないのだと分かると、皆ただ絶望していくだけで……
「そ、そんなっ!」
「ユズリハ様が?」
「もう、終わりだ……」
私はそんな絶望していく方々を見て、ユズリハ様の言葉を思い出しました。
「どんな絶望的状況でも絶対に心で負けてはダメですよ。そういう時こそ笑顔で乗り越えましょうね」
ユズリハ様はいつも笑っておられました。
本当はとても苦しい事が沢山あったはずなのに、いつも私達に笑顔を向けて下さっていました。
そして、最期のあの時でさえも、私達を信じて優しく微笑まれたんです。
だったら私達は……
「……泣いている場合なんかじゃありませんっ!」
「ハル……?」
「私達は今、泣いている場合ではないと言っているんです! 私達が心で負けたらダメなんですよ!」
ユズリハ様……こういう時こそ笑顔ですよね?
「異常が発生しているのはどこですか? すぐに私の力で治します!」
「し、しかしハル様、あなた様はまだ幼く……」
「だったら、分担すればいいだけよ」
「そうだね」
「やる前から諦めてなんていられないでしょ」
「みんな!」
皆も涙を拭いて立ち上がってくれました。
「では、私は世界のバランス維持に向かいます」
「それなら闇の浄化は私がやるよ。一緒に歪みの修正も出来ると思う」
「結界は私が直すわ」
「じゃあ私は封印だね」
「お、お姉様方……私も、私にも何か出来る事はありませんか?」
「ミオ!」
「私達も……」
「うん……」
私達に続いてミオ達も立ち上がってくれました。
まだ幼いのに、全員涙を拭いてくれています。
皆、ユズリハ様の意思を受け継いでいますからね。
「た、大変ですー! 大量発生した闇がどんどん取り憑き、"闇憑き"が増えています! ユ、ユズリハ様……」
「ミオ。あなたが陣頭指揮を執り、皆で闇憑きを倒すんです。出来ますね?」
「はいっ! もちろんです!」
それから皆で力を合わせて、世界の異常箇所に対応して、なんとか崩壊することなく世界を維持する事ができました。
ですが、その時に私達は力を使い過ぎてしまったんです。
体を動かせるようになったのは、ユズリハ様が亡くなられてから、10日が過ぎた頃でした。
「私だけの力では、全ての力を使って漸く世界のバランスを維持出来る程度でした。情けない限りです……」
「私もこの世界の浄化と歪みの修正で手一杯。自分の世界の浄化も出来ないよ」
「そうね。あと100年くらい経ったら何とか出来そうだけれど」
「げほっ、ごほっ……わ、私はあと1000年は必要な、気がするよ……」
「ちょっと大丈夫? また血吐いてるじゃん」
「だぁ〜いじょぶ。問題ないよ〜ごほっ!」
今までユズリハ様がお1人でなされていた事を4人で引き継いだのですが、4人でやっとという感じで……
ユズリハ様の偉大さは分かってるつもりでしたが、本当に凄い方だったんだと身をもって実感しました。
ユズリハ様が急に亡くなられる事がなければ、しっかりと順序立てて仕事を受け継いでいくはずだったんですけどね……
そんな事を今更言っていても、もうどうしようもない事なのですが……
「お姉様方、ご機嫌いかがでしょうか?」
「あら、ミオ」
「大丈夫ですよ、心配してくれてありがとうございます」
「いえ……」
私達がベッドの上から動けないでいる間に、ミオ達がかなり頑張ってくれて、世界は元の体制を取り戻していきました。
力がほとんどなくなった事で自分の世界の維持すらも出来なくなった私達に代わって、ミオ達がバランスを維持してくれたり、ユズリハ様が眠られる為の儀式が行われたりして……
私が自分の世界に帰れるようになるまで、3ヶ月程かかってしまいました。
とはいえ、世界の時間調整はしていたので、自分の世界では3時間程しか経っていない事となっていましたけどね。
久しぶりに帰れるということもあって、きっと私は気が抜けていたんだと思います。
帰る前に、世界を確認しておけば気づく事ができたはずなのに……
あの時、私達の悲しみや絶望から生まれてしまった闇が、私の世界に侵入していた事に……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




