安心材料
圭君視点です。
ハルさんはこの空間に来てすぐに、今がどういう状況なのかを察してくれた。
あれだけ家族の話をしていたんだし、僕がこのミオさんが生み出した空間にいるという不自然さから、もう逃げ道はないのだと悟ったんだろう。
それでも話したくないようで、少し強い口調でミオさんを咎めてしまい、謝罪している。
そんなハルさんをも可愛いと思ってしまうんだから、僕も大概重症だ。
「ハル姉さん、大丈夫ですよ。ハル姉さんが闇堕ちしてしまった場合に助ける方法は、既に考えてありますから」
「いくら考えようと、そんな事……」
「出来ますよ、圭さんがいますから」
「え……圭君に何をさせるつもりなんですか?」
「何って、闇堕ちを止めてもらうだけですよ」
「私が闇堕ちをした時に圭君がその場にいたら、圭君が一番に殺されるんですよ!?」
なかなか話に入れずに2人の会話を聞いていると、ミオさんは僕に闇堕ちを止めてもらうと言い出した。
僕はミオさんが闇堕ちを防いでくれるものだと思っていたんだけど、僕でも役に立てる事があったんだな……と、思った矢先に、ハルさんは僕が殺されると言っていて……
ハルさんが闇堕ちするという話をしていたはずなのに、どうしてそこで僕が一番に殺されてしまうんだろうか?
そもそも、誰に……?
「あの、お話中ごめんなさい。どうしてハルさんが闇堕ちすると、僕が一番に殺される事になるんですか?」
「それは……闇堕ちという状態になってしまうと、闇の力を強める為により大きな絶望を求めます。だから、闇堕ちした存在が大切に思ってる人とか物とかを、一番最初に壊そうとするんです」
「あぁ、なるほど……つまりそれって、ハルさんが僕の事を凄く大切に思ってくれてるって事ですよね。ありがとうございます!」
「そっ、そうなんですけどっ! 今はそういう話をしているわけではなくてですねっ!」
「圭さんって、時々? いや、結構しょっちゅうズレてますよね」
「えっと、すみません……」
闇堕ちした人とは戦わないといけなくなるというのは分かっていた。
でも僕に戦闘能力はないし、もしハルさんが闇堕ちしてしまったのなら、それを助ける戦いに僕は参加出来ないものだとばかり思っていた。
だから僕が一番に殺されるという事の意味が分からなかったけど、そういう事なら納得だ。
それに、不謹慎なのは分かってるけど、僕が死ぬ事がハルさんの大きな絶望となるというのは嬉しい……
「ラブラブなところ申し訳ありませんが、話を戻させていただきますね」
「「……はい」」
「もしハル姉さんが本当に闇堕ちしてしまったのなら、その際は私が圭さんを守ります。既にお察しいただいているとは思いますが、私はずっとこの日の為に準備してきましたからね、他の皆にも協力は要請してあります」
「そう、でしょうね……」
もう自分がハルさんに家族との関係を取り戻して欲しいと願い続けていた事を隠す気はないようで、ミオさんは既に沢山の人に協力してもらえるようお願いしてあるのだと教えてくれた。
ハルさんが会社の世界で殺伐とした居心地の悪い空気の中、必死に働いているんじゃないかと心配していたけど、それだけハルさんの為を思って協力してくれる人がいるというのはとても心強い。
安心材料は多いに越した事はないから。
「……ミオは、闇堕ちした私を、本当に圭君が助けられると思っているんですか?」
「もちろんです! 助けられますよね? 圭さん」
「はい、絶対に助けますよ!」
ハルさんは不安そうに僕を見ている。
その不安を取り除いてあげる為には、僕まで不安そうな顔をしていてはいけない。
僕は闇堕ちの事にも全然詳しくないし、どれだけ恐ろしい状態なのかというのは、2人の会話から想像する事しか出来ない。
でも、その闇堕ちのプロフェッショナルであるというミオさんは、絶対的な信頼を僕に向けてくれている。
だったら僕はその期待に応えるまでだ。
「ハル姉さんも分かってるはずじゃないですか。私は0.000001%でも闇堕ちする可能性があるなら、そんなリスクをおかすような事はしません。ハル姉さんは絶対に闇堕ちしないと信じているのはもちろんですが、万が一闇堕ちした際には確実に止めれる算段がついたからこそ、この話をしているんです」
「ですが……」
「闇堕ちから自力帰還したという伝説持ちの私が、信用出来ませんか?」
「そんなことはないですよ……闇堕ちの件に対して、ミオがそこまで大丈夫だと言ってくれるのなら、私も大丈夫だとは思うんです……」
「それなのに、まだ何か心配が?」
「……怖いんです」
「あの方々に、再び拒絶されるのがですか?」
「はい。結局私は今までだって、怖くて逃げていただけなんですからね……」
再び拒絶される……?
それは、既に一度拒絶されているという事だ。
あの皆さんがハルさんを拒絶している?
そんな事はあり得ないと思う。
強力な記憶消去をされていてもなお、ハルさんの好きなものや誕生日を覚えていて、あれだけハルさんとの再会を望んでいる人達なんだから。
これは間違いなく、何かがすれ違ってしまっているんだ。
そのすれ違いが何なのかさえ分かれば、ハルさんがしている誤解も解けるはずだ。
そうしてハルさんにも、皆さんに記憶を取り戻してもらう事を素直に受け入れてもらわないと。
「ハルさん。ハルさんが家族に拒絶されて怖かった時の事、僕にも教えてもらえませんか?」
「……」
「先に約束します。僕は何を聞いても絶対にハルさんを拒絶したりはしません」
「……」
「だから、話して下さい。お願いします」
「……分かりました」
深いため息のような深呼吸をしたハルさんは、
「これは、ユズリハ様が亡くなられた時の話です……」
と、話し始めてくれた……
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