質問コーナー
圭君視点です。
花火を見ていたら、急に声がした。
振り返ってみるとお爺さんがいて、ハルさんが"神様"と呼んだ。
とても気さくで話しやすく、優しい神様だった。
ハルさんと神様は昔からの知り合いみたいで、思い出話とかしている。
神様も"ハルちゃん達"と呼んでいたし、ハルさんは誰かとよくここに来ていたんだろう。
前に言っていた大切な友人達とだろうか?
「それにしても人は羨ましいな」
僕がそんなことを考えていると、神様が急に呟いた。
「何かありました?」
「あの屋台からの芳ばしいトウモロコシの香りが漂ってくるのじゃ……羨ましい限りじゃな」
「神様、相変わらずトウモロコシ大好きですね」
神様はトウモロコシが好きらしい。
ここから屋台は大分距離があるし、僕は特に何も匂わないけど、神様には芳ばしいトウモロコシの匂いがするようだ。
「あの、僕が買って来ましょうか?」
「私が買って来ますよ。圭君は花火を堪能していて下さいね」
「ありがとうございます」
ハルさんは結構な高さがあるこの枝から飛び降りて、焼きトウモロコシを買いに行った。
よく考えたら僕が買いに行っても、ここに帰って来られない。
帰ってきたとしても御神木、登れないからな。
ハルさんが行くのは当然だ。
「すまぬな、人の子。邪魔をしてしまったか?」
「いえ、そんなことはないです」
神様に謝られてしまった。
本当は僕が買いに行ければ、2人の邪魔にもならなくて丁度よかったのに。
むしろ申し訳ない……
神様と2人きりになってしまった。
僕は神様とは今日が初対面だし、思い出話もないので、何を話したらいいんだろう?
少し気まずい……
でも、神様と話ができる機会なんてそうそうないし、何か質問とかしてもいいかな?
「人の子、どうした? 大丈夫か? 何か悩みごとか?」
「あぁ、いえ……神様、質問とかしてもいいですか?」
「構わんぞ。神様の質問コーナーじゃな? 何じゃ? 申してみよ」
神様は以外とノリノリだ。
「うーん、そうですね……」
「何じゃ人の子。質問があったわけではないのか?」
「あの、じゃあ……神様は僕の事をずっと"人の子"って呼んでますが、人の子の事はみんな人の子って呼ぶんですか?」
「何じゃ? 圭君って呼んでほしいのか?」
「そういうわけではないんですが……」
何だろう?
自分から質問しておいてなんだけど、何でそんなこと聞いたんだろう?
何かモヤモヤする……
「別に圭君でもいいんじゃがな、儂はこれでも神様じゃからな。特定の人の子を特別扱いはできんのじゃ。名前くらいと思うかもしれんが、線引きは大切なことじゃからな」
確かにそうだ。
僕みたいな"ただの人間"が、神様と知り合いの時点でおかしいし……
ああ、分かった。
自分が何でそんなこと聞いたのか……
「いえ、すみません。別に僕が名前で呼んで欲しかった訳ではなくて、神様はハルさんをハルちゃんと名前で呼んでいらしたので……その、ハルさんは人の子ではないのですか?」
まるで人の子じゃないから名前で呼んでいるような……
ハルさんがただの人間じゃないから、呼んでも問題ないみたいな……
その変な違和感を解決したかったんだ。
「それは、難しい質問じゃな……儂等があの子等を人の子と呼ぶことはない。じゃが、それでも人の子ではないのかと問われれば、それを肯定することも出来ぬ……これで答えになるか?」
「ごめんなさい、言いにくいことでしたよね」
ハルさんは特別な存在なんだろう。
そもそも猫とか鳥とかになれるし、御神木の結界も通ることができる。
神様ともお友達みたいだ……
それでもきっと、人の子ではあるんだろうな。
「お前さんは、ハルちゃんと共にありたいと願うか?」
「そうですね。出来ることなら、一緒にいたいです」
「それは、とても難しいことじゃぞ」
「そう……みたいですね……」
僕はハルさんの事を何も知らない。
もちろん、動物になれる事や頭がいい事、料理はやらなかっただけで実際は上手な事……そして、とても優しい人だということは知っている。
でも、どうして動物になれるのか? 何で幼稚園しか卒業してないのか? ご飯を食べる必要が何故ないのか? なんの仕事をしているのか……何も知らない。
「あの……神様はハルさんがなんの仕事をしているのか、ご存知ですか?」
「ハルちゃんの仕事か……儂に言える事は、仕事を掛け持ちしとる事くらいかの」
「掛け持ちですか? 前にハルさんにどんな仕事をしているか聞いた時、バランスを保つ仕事だと言われたんですが……」
「ハルちゃんの1番の仕事はそれじゃな。じゃがそれは、力を送るだけじゃからな。家に居っても、なんなら動かんでも出来る仕事じゃ」
それなら、僕の家で足の怪我の療養していた時も、そのバランスを保つ仕事はしてたって事だ。
「他にも副業で、町のパトロールとかしてくれとるよ」
「副業で、パトロールですか……」
多分怪我をした原因の、警察に通報したりとか……最近僕の家に来る前に、鳥になって空を飛んでるのとかは、その副業のパトロールなんだろう。
今日の迷子の対応も慣れてたし、普段からああいう事をよくやっているんだろうな。
「儂等はあの子に本当に世話になっとるんじゃよ」
「そうなんですね」
「ただいまです! 買ってきましたよ、焼きトウモロコシ」
と、ハルさんが帰ってきた。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




