大変な事
圭君視点です。
「ありがとうございます、ミオさん。やっぱりミオさんは、今回もはじめから僕達に協力してくれるつもりだったんですね」
「はひ? どうしてそんな話になったのでしょうか?」
「さっきミオさんが僕達全員から記憶を消すって言った時、もし本当に消すつもりだったのなら、消すなんて事を宣言する事なく消していたはずですよね。わざわざ僕達に消す事を伝えたのは、本当は消すつもりなんてなかったからこそです」
「違いますよ〜。そんなのは、いきなり記憶を消されるのは嫌かな〜っていう、当然の配慮ですよ。ハル姉さんだって、先に消すと宣言してから消していましたよね? それと同じです」
「それだけじゃないですよ。今の闇堕ちとかの説明も、凄く丁寧に僕達の質問に答えてくれました。記憶を消す予定の相手に、そんな事をする必要はありません」
「それも、単に私がおしゃべりなだけです」
ミオさんに協力してもらえる事のお礼を言いたかったんだけど、ミオさんは最初から協力してくれるつもりだった事を認めてくれない。
相変わらずの軽い調子で僕の話を流してしまう。
ミオさんにも色んな事情があるんだろうし、僕達に協力する気満々である事が知られるのは困るという事なんだったら認めてくれなくてもいいけど、そうじゃないなら認めて欲しい。
ちゃんと感謝を伝えたいから。
「今頃気付いたのが情けなくも思うんですけど、あの時から既に、ですよね?」
「あの時?」
「はい、僕にその玉を下さった時の話です。ミオさんは僕がこういう行動を起こし、ミオさんに頼る事を予見していたんですよね? だから僕に自分は1人っ子だってわざと言って、ハルさんの家族に興味を持つようにした。そして、ハルさんに内緒で協力してくれる為に、その玉をくれたんです」
そもそも世界の管理等の仕事をしている忙しい人が、自分を急に呼べるなんていう代物を僕に渡す事が不自然過ぎる。
いつ使われるかどうかも分からないんだから、僕がその玉を持っている間は常に警戒をしていないといけない。
となれば、ミオさんには近日中に僕が玉を使う確証があったという事になるんだ。
それに今にして思えば、あの時に本当にハルさんに会いに来ていたのなら、もっと違う着地点があったはずだ。
瞬間移動なんてのも出来るんだし、普段通りにハルさんの家に転移して、そこから旅行先に来ていてもよかった。
それなのにそうしなかったのは、本当は僕に会いに来ていたからこそだ。
ハルさんが僕と離れている時で、僕に1番近い人目のないところを目的地としていたから、あんな急斜面になってしまったんだろう。
「それは圭さんの考え過ぎというものですよ」
「そうでしょうか? でもミオさん、今までずっと僕達の心を読んでいますよね?」
「おや、お気づきで?」
「僕達の意見も聞かずに記憶を消そうとしているのなら、僕達の心を読む必要はありません。それなのに心を読んでいたのは、あの時僕を見極めていたのと同様に、今回も見極めていたからなんじゃないですか? 皆さんが本当にハルさんの事を思い出しても大丈夫かどうかを」
「ふふっ、なかなか面白い発想力ですね。スカウトしたいくらいですよ」
スカウトか……
ハルさんと一緒に働けるのなら、そのスカウトを受けたいところではあるけど、きっとそんなに甘い場所じゃない。
それは分かってるつもりだ。
だからミオさんが僕達の協力を進んでするというのは難しい事なんだろうという予想はつくけど……
「認められない事情があるわけじゃないのなら、認めて下さい。ミオさんがとても優しい人だって事を」
「優しい人かどうかはさておき、ハル姉さんのご家族に記憶が戻ればいいなーと思っていた事は否定しませんよ」
これは、認めてくれたという事で良さそうだ。
これで皆さんのミオさんへの警戒もかなり薄まったはずだ。
「ったく、そういう事なら最初に言えよ」
「一応最初に言いましたよ? "大変な事をしてくれましたね"って」
「は?」
「皆様に記憶を取り戻して欲しいとは思っていましたが、それを私が皆様に説明するのは難しすぎます。何よりまず、信じてもらえるかも分かりませんからね。信じてもらってもいない状態で記憶を返したりすれば混乱させてしまいますし、本当に大変な事だったんです」
「そういう意味での大変な事をしてくれましたね、だったってか?」
「はい」
ミオさんみたいな優しい人が、誤解されたままなんていうのは嫌だった。
だから最初から協力するつもりだった事を認めて欲しかったんだけど、まさか最初に言ってくれていたとは思わなかったな。
「確かにいきなりあんたが現れて、こんな話を聞かされていたとしても、素直には信じなかったかもしれねぇな」
「えぇ。現に最初に瑞樹さんからお電話を頂いた時は、迷惑電話だと思ってしまったものね」
「君は、僕達の事まで案じてくれていたんだね。本当にありがとう」
「お礼は是非とも圭さんに。そして、私からも改めて言わせて下さい。圭さん、私達が大変だからとなかなか出来ずにいた事をして頂き、本当にありがとうございました。ま、解決はまだ先ですけどね」
「そうですね。でも、解決してみせますよ」
「そのいきです!」
深々と頭を下げ、丁寧にお礼を言ってくれたミオさんは、急に頭を上げていたずらっ子のように笑いながら言ってきた。
確かに解決はまだ先だ。
だけど解決させるという意気込みに変わりはない。
心強い味方であるミオさんがいてくれるんだし、きっと、いや絶対に大丈夫だ。
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