説明
圭君視点です。
ハルさん達のような、世界の為に仕事をしている人達だけがなる、"闇堕ち"という恐ろしい病気のようなもの……
それにミオさんはなった事があるとの事だ。
闇堕ちを荒療治で治したというのが心配ではあるけど、今のミオさんは特に何も問題なさそうに見える。
実態のよく分からない恐ろしい病気だと思っていたけど、ちゃんと助かる可能性もあるんだ。
「一応言っておきますが、私が闇堕ちした際に使った手は、ハル姉さんが闇堕ちした場合には使えません」
「え?」
「だから私が闇堕ちから助かっているからと、ハル姉さんの闇堕ちも絶対に助けられるとは思わないで下さいね?」
「さっきは闇堕ちの心配をするなと言っておいて、今度は警戒しろってか?」
「私が言っているのは、ハル姉さんならよっぽど闇堕ちはしないから安心していいという事です。闇堕ちそのものの事を舐めていいとは言ってません」
「別に舐めてはいねぇけど……」
闇堕ちを軽く考えるつもりはなかった。
それでもミオさんが闇堕ちから助かっているという事実は、僕達を安心させてくれた。
だけどそれは、闇堕ちを軽んじている事になるんだ。
ミオさんはハルさんが闇堕ちする事はないから安心していいと言ってくれているだけで、闇堕ちになった場合に安心していいとは言っていない。
もしハルさんが闇堕ちになんてなってしまったら、助けられないかもしれないんだ。
「しかもあのハル姉さんですからね。あんなに膨大な力の持ち主が闇堕ちなんてしたら、それはもう誰にも止められない大パニックですよ……確実に助けられないと思ってもらった方がいいですね」
「……くそっ、なんで安心させてから落とすんだよっ!」
「そうね、逆がよかったわ」
「だから君は、少しでも闇堕ちの可能性がある事に味方をしてはくれないんだね」
「ご理解頂けたようで何よりです」
最初こそミオさんを嫌悪していた様子だった皆さんが、ミオさんと打ち解けていっている。
それはいい事だと思うんだけど、今のミオさんの発言が気になった。
「あ、あの? 今ミオさん、ハルさんの事を膨大な力の持ち主って言いましたよね? ハルさんって、力が少ないんじゃなかったんですか?」
「はい?」
「ハルさんは昔に膨大な力を使ってしまった結果、今は殆ど力が残っていないのだと聞きました。だからハルさんはあまり会社での仕事が出来なくて、ミオさん達に頼り切りになってしまっていると……」
「あぁ、そんな事まで聞いていたんですね」
「ミオさんは力がとても強くて、営業成績No.1で、いつもたくさんの事を頑張ってくれている凄い人だって……」
「営業成績はよく分かりませんが、確かに私は最強であり、No.1ですね」
「それなら、ハルの闇堕ちだって止められるんじゃないのか?」
「はあぁぁー」
物凄く面倒くさそうにため息を吐いたミオさんは、
「順を追って説明しますね」
と、少し呆れたように片手で頭を抑えながら言ってくれた。
どうやら僕はミオさんが説明するつもりのなかった事まで説明しなければいけない状況にしてしまったみたいだ。
でも、これで僕の予想はほぼ間違いないのだという期待も出来る。
「まず、今圭さんの言った昔に膨大な力を使ってしまったという事についてですが、それは過去形ではなくて、現在進行形です」
「ハルさんは今もなお、膨大な力を使い続けているという事ですか?」
「はい。ハル姉さんは、私達が全ての世界を管理している世界……えっと、ハル姉さんが働く会社のある世界と言えばいいですかね? そこのバランス維持というとても重要な役目を担っています」
「全ての世界の……」
「そうです。バランス維持は力を送るだけとはいえ、それだけ大きな世界のバランス維持となれば、そこには膨大な力を常に送り続けていないといけません」
ハルさんが言っていた、"力を送るだけの仕事"っていうのは、この事だったのか。
つまり、昔に大量に使ってしまってなくなったんじゃなくて、昔から今に至るまで、いつも大量の力を送り続けていたって事なんだ。
「そしてですね、もし仮にハル姉さんが闇堕ちなんてしようものなら、闇堕ちしたハル姉さんは当然世界のバランス維持なんて事をして下さいません!」
「それは、そうでしょうね……」
「となると、全世界の管理を行えなくなって、全世界の崩壊に繋がります!」
「それは……」
「だから早急に、ハル姉さんに変わってバランス維持を行う存在が必要となりますよね?」
「それが、お前なんだな?」
「そうです! いくら私がハル姉さんより強いとはいえ、急に膨大な力でのバランス調整も行わないといけなくなってしまえば、私に出来る事は精々闇堕ちしたハル姉さんが誰も傷付けてしまわないように戦う事だけですよ。闇堕ちから助けている余裕なんてありません!」
少し早口で捲し立てるような様子ではあったけど、ミオさんはどうしてハルさんが闇堕ちしたら大パニックになるのかを説明してくれた。
そして、ミオさんがこれだけの事をすんなり説明できるというこの事実はもう、ミオさんがハルさんの家族が記憶を取り戻した場合のシュミレーションを何度もしていた事の証明だ。
やっぱりミオさんは、ハルさんに家族との関係を取り戻して欲しいと思っているんだろう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




