プロフェッショナル
圭君視点です。
ハルさんのご家族の皆さんに、ハルさんの事を思い出してもらいたい。
その協力をとミオさんにお願いしたけど、ミオさんは僕達が望んでいるような返答はしてくれなかった。
それどころか、僕達からハルさんの家族への疑問の記憶を消すと言うし、皆さんには大人しく記憶を消されたまま過ごすようになんて事を軽く笑って言う。
ただ、そんなミオさんの様子には違和感がある。
「あの、ミオさんはそれでいいと思っているんですか?」
「はい?」
「本当に、ハルさんがご家族の皆さんから忘れられたままでいる事を、正しいと思うんですか?」
「どうでしょうね? 私にはどちらが正しいかなんて分かりませんから」
「どういうことだ?」
「皆さんの為を思い、皆さんから自分の記憶を消したハル姉さんも正しいと思いますし、大切なハル姉さんを忘れていてほしくないと思うからこそ、皆さんに記憶を戻したいという圭さんも、正しいと思いますからね」
「だったら、俺達に協力してくれてもいいんじゃねぇのか?」
「残念ですが、そういうわけにはいきません。どちらが正しいかは分からなくても、どちらが闇堕ちする可能性が高いのかは分かりますからね」
皆さんにハルさんの事を思い出してもらう事によって、ハルさんが闇堕ちしてしまう……
その可能性が少しでもあるのなら、確かに皆さんに記憶を思い出してもらう事は避けるべきだと思う。
でも、その記憶というのがどんな事なのかも分からないのに、ただ危険な可能性があるからと言われるだけなのは納得できない。
「ミオさんは、ご存知なんですよね? ハルさんが皆さんから消した記憶の内容を」
「もちろんです。教えて欲しいんですか? 教えたら、納得して諦めてくれますか?」
「いえ、それを今ここでミオさんから聞いてしまうというのは、ハルさんに失礼だと思います。だからハルさんに直接聞きます」
「け、圭?」
「ハルが話してくれると思うのかい?」
「話してくれますよ。今のこの状況を話せば……」
今の状況……
それは、僕がハルさんの意思とは裏腹に、ご家族の皆さんと繋がりを持ったという事を話さなければいけないという事だ。
間違いなくハルさんは驚くだろうし、もしかしたら怒るかもしれない。
でも、強引に僕の記憶を消してきたりはしないだろう。
それは全く僕の為の行動ではないから。
となれば、今ミオさんに僕達の記憶を消されるのは困る。
「だからミオさん、少し待っていてもらえますか?」
「待つ?」
「僕がハルさんから皆さんの事を聞いて、その上でどうするべきなのかという意見を出すまで待って下さい」
「何故待つ必要が?」
「ミオさんが裁判官だとした場合、僕とハルさんは対立しています。でも僕はまだ現状が正確には分かっていないので、提示できるものが足りていないんですよ。判決を下すのなら、両者の意見を最後まで聞いてからにするべきじゃないですか」
「なるほど、一理ありますね」
以前ハルさんは、ミオさんは負けなしの弁護士さんだと例えていた。
だったら両者の意見がぶつかった場合には、その意見を平等に聞かなければいけない事は分かってくれているはずだ。
それに多分、ミオさんは……
「……待っていてくれるんですよね?」
「いいですよ。ですが、私もご一緒します」
「え?」
「ハル姉さんにあの日の事を話してもらうというのも、それはそれで危険ですからね。すぐに対応出来た方がいいです」
「お、おい! すぐに対応って、まさか……」
「あぁ、ご安心下さい。話してもらう程度の事でハル姉さんが闇堕ちする事はありません。それに、闇堕ちしたとしても、殺さないといけなくなるのは最悪の場合のみです。仮に闇落ちしても助かる可能性は十分にあります」
「そうか、よかった……」
ハルさんに話してもらう事が危険だと言われた上で、すぐに対応なんて言われたから、ハルさんが闇堕ちした場合の話かと思った……
涼真さんもかなり焦った様子でミオさんに詰め寄っていたけど、そうじゃないと分かって安心したみたいだ。
「闇堕ちの事を警戒して下さるのはいいですけど、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。何しろ闇堕ちのプロフェッショナルだと言っても過言ではないこの私がいるんですからね!」
「闇堕ちのプロフェッショナル?」
「今まで何人もの闇落ちした人を救ってきたんですか?」
「何人もっていう程は、誰も闇堕ちなんてしていませんよ。資料では何人か闇堕ちの前例がありますが、私の知り合いで言えば、私ともう1人くらいですね」
「……えっ、"私と"?」
今ミオさん、間違いなく"私と"って言ったよな?
「はい、私が闇堕ちしたことがありますね」
「……大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないように見えますか?」
「大丈夫そうに見えます」
「ま、そういう事です」
「どういう事だよっ!」
「その……ミオさんが闇堕ちした時は、どうやって治ったんですか?」
「荒療治ですね!」
「荒療治……」
ヘラヘラと笑って、軽い事かのように話してくれているミオさん……
でも闇堕ちしてしまうのは、マイナスの感情を自分では抑えきれなくなってしまった場合のはずだ。
それがどんな事だったのかは分からない。
でもミオさんが相当に色んな事を抱えて、それでもなお笑っている凄い人なんだという事はよく分かった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




