召喚
圭君視点です。
皆さんが少しでもハルさんの事を思い出せたり、ハルさんがどうして出て行ってしまったのかが分かれば、ハルさんを説得する事も出来るかと思ったけど、そう上手くはいかなかった。
苦しんでまで無理に思い出そうとするのは間違っていると思うし、そんなやり方でハルさんを説得出来るとは思わない。
となるとやっぱりハルさんと正面切って話し合うしかないんだろうけど、ハルさんはかなりの頑固者だからな……
「あぁ、ありがとう。もう大丈夫、落ち着いたよ」
「そう?」
「ハルの名前の事について考えるのを止めたら、一気に楽になった。さっき好きな色を考えた時はこんなに苦しくはなかったんだから、ハルの名前というのはハルが出て行った切っ掛けと深い関わりがあるのかもしれないな」
「その可能性は高いよな?」
「そうですね。でも、僕もハルさんの力について詳しい訳じゃないので……すみません」
せめて記憶を消す力がどういうものなのかが分かっていれば、もう少し策を考えられたのに……
僕は本当に、ハルさんの仕事の事や力の事を知らな過ぎる……
「あっ!」
「おっ、今度はどうした?」
「あ、すみません。以前ハルさんの友人であるミオさんに、ハルさんには内緒でミオさんを召喚出来るというものをもらった事があって、えっと……これです!」
分からない事は詳しい人に聞けばいい。
元々ハルさんの事で悩んだ時に使っていいと言われていたし、今が使い時だと思う。
ハルさんに内緒でハルさんの事を探るというのが失礼なのは分かっているけど、これはいきなりからハルさんに聞く訳にはいかない事だから……
「ガラス玉みたいだな? これでそのミオって奴が来るのか? そいつは協力してくれる奴なのか?」
「直接的な協力はしてくれないと思います。でもミオさんは、僕に記憶が戻るようにと応援してくれた人なんです。だからきっと……」
「よし、じゃあ今すぐに呼ぼう!」
「そうだね。圭君、お願いするよ」
「はい」
確か、これを割って呼ぶようにって言っていた。
割るとなると室内よりは外の方が……いや、ミオさんが急に現れるのを見られる訳にはいかないし、やっぱり室内で割るしかないか……
「圭君?」
「あの、これを割らないといけないんですけど……」
「あぁ、じゃあ金槌を持ってくるね」
「お願いします」
「その間に圭君、これ着けて」
「え? はい、ありがとうございます」
大地さんが金槌と打ち台を持ってきてくれて、僕は陽茉梨さんが用意してくれた保護メガネと保護手袋を着けた。
小さなガラス玉を割るだけなのに、破片が飛び散ったら危ないからと……本当に優しい人達だ。
「こんな本格的な石割りセットがあるだなんて、大地さんは多趣味なんですね」
「いいえ、これは私の趣味道具の1つです。ジオード割りとかが好きでして……」
「綺麗に割れると嬉しいですよね!」
「まぁっ! 純連さんもジオード割りがお好きなのですか? 是非ともご一緒に」
「えぇ! お願いしますね!」
後ろで母さんが陽茉梨さんと意気投合しているのを感じながら、ミオさんからもらったガラス玉を打ち台に置き、金槌を振り下ろした。
ガンッ!
「あれ? 割れてない? 手応えはあったんですけど?」
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
「まだ割れてない……」
「てか、割れそうになくないか?」
「そうだね。傷も付いていないように見える」
「そういえば、無駄に力を込めて作ったとか言ってました。かなり硬いのかもしれません」
「それなら……焼いてみるかい?」
「そうね。オーブンで焼いてから、急に冷やすとかはどうかしら?」
「やってみます!」
今度はキッチンの方に移動させてもらった。
オーブンを最大値の220℃に設定させてもらい、ミオさんからもらった玉を入れる。
焼いている間にボールに氷水を準備させてもらって……
ピーッ! ピーッ!
「いきますね!」
「火傷に気を付けてね」
「はい」
ポチャン……
「……割れませんね」
「ひびが入る音もしなかったな。そもそも熱膨張とかしない物質なんだろうな」
「となると、他に割り方は……」
「ミオちゃんは特別な割り方があるような事は言ってなかったの?」
「うん、僕も割ることはないと思いながら受け取ったから……すみません、ちゃんと割り方を聞いておくべきでした」
「いや、圭君が悪い訳じゃないからね」
「そうだぞ」
そう言ってもらえるのはありがたいけど、このままじゃ打つ手なしだ。
でも、どうしようもなくピンチの時とかに割るようにって言ってたんだから、そんな複雑な割り方が必要な物だとは思えないんだけど?
かといって、この玉に割れる仕掛けがしてあるようにも見えないし……
「はぁ、割れて下さいよ……」
どうしたらいいのかと悩みながら、玉に対して呟くように言うと、
パキッ!
「えっ?」
「お呼びでしょーかー?」
と、目の前にミオさんが現れていた。
ガシャンッ! ドタッ!
「わっ、冷たっ! 何これ、氷水!?」
「あー! えっと、ごめんなさいっ!」
「全く、なんというところへの呼び出しですか……」
パチンッ!
ぐにゃっと歪んだキッチンから出て来たミオさんは、着地した場所にあった氷水の入ったボールを踏んでしまい、そのままボールと一緒に落ちた。
氷水が大量にかかってしまった事を申し訳なく思って謝ると、ミオさんは若干の悪態を吐きながら指を鳴らしていて、気が付いた時には氷水の入ったボールは元の位置に戻っていた。
ミオさんも濡れていない……
「な、なんだコレ……」
「ん? 初めましての方々がみえますね? どちら様ですか?」
「ハルさんのご家族の皆様です」
「……そうですか」
服をはらいながら立ち上がったミオさんは、辺りを見渡している。
現状の確認をしているんだろう。
ついさっきまで違う世界にいたんだろうし、急に呼び出してしまって申し訳なかったな。
でもそういう事が前提でくれた玉だったんだし……
「ミオさん? 急に氷水に呼び出してしまって本当にごめんなさい。でもこれ、割り方が分からなくて……」
「ん? 私、割り方を言いませんでした? それは割りたいと心から思いながら、割れろーっ! とか言ってもらえれば割れますよ」
「あ、そういう……」
僕が氷水に呼び出してしまった事の言い訳をしようとすると、ミオさんは何とも思っていないように割り方を話してくれた。
特に怒ったりはしていないみたいだ。
ドタバタとした召喚になってしまったけど、無事にミオさんに来てもらえて本当に良かった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




