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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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落ち着いた絵

圭君視点です。

「僕は皆さんにハルさんの記憶を取り戻して欲しいと思っています」

「それは僕達もだよ。寧ろ僕達の方からお願いしたい。僕達がハルの記憶を取り戻すのに協力して欲しいと!」

「あぁ! よろしく頼む!」

「お願いします」

「僕に出来る限り、全力で協力させてもらいます。でも、先に話しておきますね。ハルさんはその事に反対しているんです……」

「だろうね……」

「だからお前は来たんだろ?」

「はい……」


 僕や皆さんの記憶を消している事実に加えて、今ここにハルさんが一緒にいない事。

 それを考えれば、ハルさんに黙って来ている事は容易に想像できる事だ。

 だから皆さんは分かっていたんだろうけど、それでも自分達に思い出して欲しくないとハルさんが思っている事実は、相当に悲しいだろうな……


「問題は、ハルがどうして俺等の記憶を消したのかだよな?」

「そうだね。圭君にこれだけ話しているのだから、特別な力を持った存在だからといって、家族と共に過ごせないなんて事はないはずだ」

「私達がハルちゃんに何かをしてしまったのかしら……?」

「僕の時と同様に、自分のせいで危険な事に巻き込んでしまったとかだと思いますけど……」

「でも俺等は家族なんだぜ? 危険に巻き込まれる覚悟くらい、とっくに出来てただろ?」


 僕の時だって、巻き込みたくないからと記憶を消しはしたけど、僕が思い出して告白したら、ちゃんと聞いてくれた。

 かなりの頑固者ではあるけど、全く話を聞いてくれない訳じゃないし、ハルさんだって僕と共にいたいと思ってくれたからこそ、考えを変えてくれたんだ。

 だったら皆さんから消した時だって、皆さんの覚悟とハルさんの皆さんへの思い次第で、記憶を消さないという選択だって出来たはずだ。

 それなのに消してるっていうのは……


「僕達と一緒にいるのが、嫌になってしまったんだろうか?」

「そんなことは!」

「あぁ、ありがとう圭君。分かってるよ……でも、何も思い出せないと、どうにも悪い方に考えてしまってね……」


 大地さんの発言を慌てて否定したけど、僕だって悪い方に考えてしまっていた。

 僕みたいに最初他人だったならまだしも、皆さんは家族だったんだ。

 それを思うと、僕の時以上の何かがあった事は間違いない。

 そしてその何かが分からないから、余計に嫌われてしまった可能性を考えてしまうんだろう。


 でも、ハルさんは絶対に皆さんを大切に思っている。

 それは間違いないんだから、一緒にいるのが嫌だと思っている訳はないんだ!

 それはちゃんと分かっていてもらいたい!


「あ、あの……」


 ハルさんが皆さんについて語っていた時の事を言いかけたけど、やめた……

 あの時ハルさんが皆さんに対して言っていたのは、思い出して欲しくないとか、自分に気がついてくれない悲しさで壊れそうだったとか、皆さんを余計に心配させてしまうことばかりだ。

 もちろん忘れられて悲しいというのは、皆さんの事を大切に思ってるからこその感情なんだろうけど、今の皆さんは多分、なんで思い出してあげられなかったんだろうって、自分をせめてしまうと思うし……


「圭君、すまないね。気を使わせてしまって……僕達は大丈夫だから」

「はい……」


 僕が言い淀んだのを察して、大地さんが優しく声をかけて下さった。

 僕の方が気を遣われてしまうなんて……


 でも、お陰で少し落ちつけたかな……ん? さっきから話す事に一杯一杯で気づいていなかったけど、この家の中にはあちこちに美しい絵が飾ってあるんだな。

 大地さんは美大の先生だし、多分大地さんの作品だろう。

 見ているだけでも心が澄んでいくような、落ち着く絵だ……あっ!


「あのっ! この絵って!」

「それは、僕が趣味で描いているものだけど、それがどうかしたのかい?」

「僕、前にハルさんの家にお邪魔した事があるんですっ!」

「お、おう……? 落ち着け」

「あ、すみません……」


 思わず大声を出してしまっていた。

 急に席を立って動いてしまったし、かなりの奇行だっただろうな。


「ふぅ……前に、ハルさんの家で似たような絵が飾ってあるのを見ました。もしかするとあれは、大地さんの作品なんじゃないかと」

「ど、どんな絵だったか覚えているかい?」

「桜の木と湖の絵です。特に水の澄んでいる感じが凄く綺麗で、この絵と似てました」

「桜か……確かに水の絵は僕のよく描く絵なんだけど、桜は1度も描いたことがないんだ」

「そうね。あなたの絵で、桜を見たことはないわ」

「似てるだけの違う人が描いた絵かもな」

「いえ、やっぱり大地さんの作品で間違いないです! これって、サインですよね?」

「あぁ」

「同じサインを見ました。その、筆記体とか読むのが苦手で、なんて書いてあるのかはちゃんと読めてなかったんですけど、このサインと形が同じなので間違いありません」

「はは、父さんは達筆だからなー」


 達筆な筆記体で、僕には"D"と"A"しか読み取れない。

 間違いなくあのハルさんの家の絵と同じサインだ。

 これは、Daichi Amasawaだったんだ。


「でもそうなると、僕が桜を描いたって事だよな?」

「そういえば父さん。なんで今まで桜を描かなかったんだ?」

「確かにそうね?」

「なんでだろうな? 何故か桜は描かないと決めていたんだ。だけど、その理由は覚えていないな。桜は大好きな花だというのに……」

「ハルさんと、何か約束したんじゃないですか? 桜はハルさんの為に描くとか?」

「そ、そうかも知れないな……」


 記憶を消されても、習慣は消えない。

 だったら絶対に守ると誓った約束だって、約束した記憶がなかろうと、体は守る為に動くのかもしれない。


「その父さんが描いた桜の絵を、ハルは部屋に飾っていたんだよな?」

「はい。勇気がもらえる絵で、いつも見てから出かけていると言っていました」

「それなら、ハルちゃんは私達の事を思い出したくないなんて事は、思っていないという事なのよね? そう信じていいのよね?」

「はいっ!」

「ありがとう圭君」


 もう共にいたくないと思う人達と繋がる絵を飾り、毎日見るなんて事はしないだろう。

 だから思い出して欲しくないというのがハルさんの本音なのだとしても、共に過ごしたいというのもハルさんの本音である事は間違いないんだ。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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