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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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思い付き

圭君視点です。

 天沢さん達は、僕の話を信じて受け入れてくれた。

 でもこれはまだスタートラインに立ったに過ぎない。

 問題はここからなんだから。


「そのハルの事、もっと詳しく教えてくれねぇか?」

「もちろんです! えっと、何から話せば……」

「好きなものとかでいいからさ」

「あぁ、そうだね。どんな些細な事でも構わないから」 

「はい。じゃ、じゃあ、ハルさんの好きな食べ物なんですが……」

「ロール、キャベツ……」

「あ、その通りです」


 緊張しつつも、ハルさんの好きな食べ物の話をしようとしていると、陽茉梨さんが震える声で呟くように言った。


「母さん? 何で?」

「分からないの……でも、急にそんな気がして……」

「好きな色は、コバルトブルー。違うかな?」

「いえ、合っています」

「そうか……」

「父さん……」


 陽茉梨さんの次は大地さんが……


「……なぁ、俺にも何か1問くれよ。父さん達だけ正解してて、ズルいだろ?」

「えっ?」


 いつの間にそんな問題形式に……?


「えっと、それなら誕生日とか……」

「「「3月27日……」」」


 大地さん、陽茉梨さん、涼真さん。

 3人の声が重なった。


「ふっ、なんで父さん達も答えてんだよ」

「ふふふっ、だって思い付いたんだもの……」

「そうだな……」

「急に思い浮かんだ月日が3人一緒って……なぁ? 正解だろ?」

「はいっ!」


 記憶が消されていようと関係ない。

 大切なハルさんの事を覚えていなくても、ハルさんの事を大切に思っているのは変わらないんだ。


「にしても癪だな……」

「しゃ、癪?」

「だってよぉ、圭。お前は記憶を消されても、ちゃんとハルの事を思い出したんだろ? それが愛の力なんだろうけどさ……」

「は、はい?」

「俺達だって、大事な家族なんだぜ? 相当に強い愛の力あるはずなのにさ、記憶を消されたままなんて……情けないだろ?」

「そうね……」

「そんだけ圭のハルへの愛が強いんだろうなって思ったら、ちょっと癪だったんだ」


 不貞腐れている様子の涼真さん。

 同意している陽茉梨さんも、大地さんも、どこか悲しそうで……

 これはしっかりと説明しないと!


「あっ、あの! そういう話でしたら、愛の力の差とかではなくて、記憶を消した人の力の差だと思いますよ!」

「力の差? ハルが消したんじゃないのか?」

「僕の記憶を消したのはハルさんです。だからハルさんも自分で気がつかないうちに力を制限してしまったんだろうって、ハルさんの友人が言っていました」

「ハルの友人?」

「はい。だから皆さんの記憶を消したのは、ハルさんではないと思います」

「ハルの他にも記憶を消せる人がいるのかい? その友人さんかな?」

「それは僕にも分かりません。でもハルさんはあの時、皆さんの記憶の事を"()()()()()()()()()"って言ったんですよ」


 あれは誰かに頼んで消してもらったという発言だ。

 それがミオさんかどうかは分からないけど、ハルさんに出来る事はミオさんにも出来るって言ってたし、ハルさん以外の人が皆さんから記憶を消している事は間違いないだろう。


「それに、ハルさんは力があまり多くはないらしいんです。僕の記憶を消した時も、2日寝込んだとか……」

「えっ!? 2日も寝込んだ?」

「ですから皆さんの記憶を消した時は、おそらく皆さんだけでなく、学校の友人達やご近所の知り合いとか……僕の時より沢山の人の記憶を消したはずです」

「なるほどね。確かに僕達から消した記憶というのは、圭君の時よりも膨大な量だったはずだ。力が少なく、圭君の時に2日も寝込んでしまうハルには不可能だね」


 生まれた時から、小学生までの年数。

 家族だけでなく、親戚、友人、ご近所さん……

 計り知れない量の記憶を消して、辻褄を合わせている事になる。

 ハルさん達の力というものがどういうものなのかは分からないけど、そんな凄い量の記憶消去をハルさん1人で行っている訳はない。

 だからこれも、ハルさんが皆さんの記憶を消した訳ではないという証明だ。


「それってつまり、俺達のハルへの愛が足りていないから思い出せない訳じゃないって事だよな?」

「はいっ! 記憶を消す事に対して何の躊躇いもないような、力に制限がない状態の方に記憶を消されてるというのに、ハルさんの好きな物とか、誕生日とかを皆さんは覚えていたんですからね。それは皆さんのハルさんへの思いが本当に強いからだと思いますよ!」

「そうか……ふっ、ありがとな!」

「ありがとうね、圭君」

「君のお蔭で、少し気が楽になったよ」


 僕のようにハルさんを思い出せなかったと、皆さんは悔やんでいたみたいだけど、それが愛の差なんかじゃないというのは分かってもらえたみたいだ。

 何より、皆さんはこれだけハルさんの事を大切に思っているんだから、思い出せない原因が愛が足りていないからなんていう理由な訳がない。


 どれだけ強い愛の力を以てしても、決して打ち破る事の出来ない力……

 これこそ、ミオさんが忠告してくれたような、ハルさん達が特別な存在であり、その特別な力の事を軽く考えてはいけないという事の実例なんだろうな。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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