受容
圭君視点です。
「その後は怪我の療養も兼ねて、ハルさんに僕の家で過ごしてもらう事になりました。僕の勉強を見てもらったり、相談に乗ってもらったりして、ハルさんが優しくて素敵な女性だという事が分かりました」
僕とハルさんの出会いの話を、ハルさんの家族である天沢さん達に聞いてもらっている。
いきなり猫が人になったなんていう話をしてしまったけど、天沢さん達は混乱しながらも真剣に聞いてくれている。
「数日経って、ハルさんの怪我が回復した事で、ハルさんが僕の家にいる理由はなくなりました。でも僕はハルさんに会いたかったので、無理を言って会いに来てもらえるようにしたんです。それからは1日に1回は必ず会うようになって、お菓子を作ったり、一緒にお祭りに行ったりして、とても楽しい時間を過ごしました」
……なんか、皆さんが真剣に聞いて下さっているというのに、惚気話をしてしまって申し訳ない気がする。
この話し方で本当によかったんだろうか?
でも、天沢さん達の表情は変わらず真剣で……
「そ、その……僕の家族関係に対するアドバイスとかもしてもらって、僕はハルさんの事をとても大切に思うようになりました。でも、なかなかその思いを告げる事は出来なかったんです。そしてその後、僕はとある事件に巻き込まれたんです」
「えっ? そうなの?」
「あ、ごめん母さん。言ってなかったね……」
「まぁ、今無事ならいいけど……話を止めてしまってごめんなさい」
「いえいえ」
どんな話をするのか、先に母さんに聞いてもらってから来ればよかった。
それならこの話し方でいいかどうかの感想も聞けていたのに。
緊張で思考回路が上手く回っていなかったから……
「えっと、その事件から助けてくれたのも、ハルさんだったんです。僕は助けてもらったお礼と共に、ずっと言えていなかった僕の気持ちをハルさんに伝えました」
「ふっ、そこでやっと言ったのか」
「はい……」
「告白って結構勇気いるもんな」
「そ、そうですね……」
ずっと怪訝な顔で僕の話を聞いていた涼真さんは、今ので少し笑ってくれた。
それになんか楽しそうに見える。
こういう反応をしてもらえると、この話し方でよかったのだという自信が持てるな。
でも天沢さん達にとってはここからが重要なんだから、楽しい思い出話をするんじゃなくて、しっかりと気を引き締めて話さないと。
「僕のその告白に、ハルさんは返事を返してはくれませんでした。それどころか、もう自分といるのは良くないからと、僕からハルさんと僕の思い出の記憶を消すなんて事を言い出したんです」
「なっ!」
「き、記憶を……消す?」
「はい」
「そんな事が……」
「ハルさんにはそういう特別な力があるんです」
「……」
猫が人になったという事を受け入れてもらっているんだ。
だったら記憶を消す力があるという事も、受け入れられるだろう。
そしてそれを受け入れたのなら、もう答えは見えてくるはずだ。
どうして僕が急に現れ、こんな話をしてくるのかという事も……
「そ、それでっ! どうしたんだよ! その後はどうなったんだ!?」
「色んな人の協力も得て、無事にハルさんの事を思い出しました。そして改めて告白と返事を……」
「そうか……」
「今僕は、ハルさんとお付き合いをさせてもらっています。だから当然、ハルさんの家族にも僕の事を認めて欲しくて……」
「ハルの、家族……」
「そ、それが……私達なの?」
「はい」
陽茉梨さんからの核心的な質問に対して、しっかりと肯定させてもらった。
凄く動揺されているのが分かるし、震えて泣いておられるけど、こんな反応をされるんだから、嘘の作り話だと思われている訳じゃないだろう。
「あの、こんな話をすぐに受け入れられない事は分かっています。それでも僕は……」
「いや、受け入れられるよ……」
「……え?」
「普通ならね、あり得ない話だし、受け入れられないだろうけれど、僕は……君が嘘をついているとは思わない。それに、自分自身が言ってきている気がするんだ。それが真実なのだと……」
「えぇ、えぇ! こ、こんなにもっ、涙が溢れて……くるんですものっ……」
「そうだな……昨日から落ち着かない感情も、今の話で全部繋がってくる……」
陽茉梨さんはもう大号泣だ。
そんな陽茉梨さんの肩を支える大地さんも泣いていて、泣くのを必死に堪えている様子の涼真さんも、皆が僕の話を受け入れてくれているのが分かる。
隣の母さんも貰い泣きをしていて……
でも、天沢さん達に受け入れ手もらえたからと言って、それで終わりじゃない。
寧ろ問題はここからなんだ。
どうにかして、あの頑固者のハルさんを説得しないといけないんだから!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




