信用
圭君視点です。
日も暮れて来た。
そろそろハルさんも帰って来るだろう。
結局何も出来なかったな……
ハルさんは僕が今日天沢さん家の様子を見に行ったと思っているだろうけど、実際に調べてくれたのはじいちゃんが依頼した人達だ。
嘘をつくわけにはいかないから、天沢さん達が皆無事に暮らしているという事を今日伝える事は出来ない。
ハルさんだって早く知りたいだろうから、申し訳なくは思うけど、僕が何も言わなければハルさんから聞いてくる事もないはずだ。
多分、様子は見に行ったんだろうけど、会えなかったんだと思ってくれるだろう。
事態が何も好転していない悔しさもあるし、ハルさんへの申し訳なさもある。
加えてハルさんに早く帰ってきて欲しいという思いと、ハルさんにどんな顔を見せればいいのかが分からないという不安も……
♪♪♪♪♪
ん? なんか鳴ってるな……あ、僕の携帯か。
僕の携帯に電話をかけてくる人なんて母さんくらいしかいないし、バイトはもうやめたんだから店長でもないはずだ。
あとは康司君とか稲村さんとか……迷惑電話とか? と、そんな事を考えながら画面を見た。
表示されていた番号……この番号はっ!
「は、はいっ!」
思わず叫ぶように電話に出てしまった。
焦ったとはいえ、流石に不審過ぎる……
でもまさか、既に着信拒否されたと思っていたのに、天沢さん達の方からかけ直していただけるなんて思っていなかったから……
「……ん? 男の子、かな? 女の子が出ると思っていたんだけど……?」
電話先の声は男性だった。
おそらく大地さんだろう。
さっきの電話の事を陽茉梨さんから聞いて、かけ直してくれたみたいだ。
あんなに不審な電話だったんだから、かけ直しなんてしなくてもいいのにしてくれた……
このチャンスを絶対に逃したくなんてないし、どうにかして僕が不審者ではないと信じてもらわないと!
「……あ、あのっ! っ、ふぅ……すみません。僕は瑞樹圭といいます。瑞樹野菜という会社をご存知ではありませんか? その会社の会長の孫にあたります」
「瑞樹野菜?」
「ご存知なければお調べいただければと……連絡してもらっても構いません。ですからその……」
「不審人物ではないと、そう言いたいんだね?」
「あ……は、はい!」
緊張して慌てて話してしまえば、ただ不審がられるだけだ。
だから出来るだけ落ち着いて、まずはこっちの素性を明かさせてもらった。
それでも明らかに不審なはずなのに、僕の事を気遣ってくれているような優しい声色……
「瑞樹野菜というのは聞いた事があるよ。とても美味しい野菜を作っている会社だね」
「あ、ありがとうございます」
「そこの御子息が何故、僕達と話したいのかな?」
「そ、それは……」
「あぁ、こちらから電話をかけておいて、何を話したいのかなんておかしな質問をしてしまったね。先程この番号からかかってきた電話では、女の子が僕達に話があると言っていたそうだから」
「……不審な電話をかけてしまい、申し訳ありませんでした。先程の電話をしたのは、僕の妹の珠鈴です」
「妹さんか……それで、僕達に話したい事の内容は?」
どうする……何をどう言うのが正確だ?
嘘をつけない以上、娘さんの話をしたいと言うしかない。
でもそんな事を言えば、また娘なんていないと言われて終わってしまうかもしれない。
……だけどこれは、天沢さん達も"娘"という存在に何か思うところがあったからかけてきてくれた電話のはずだ。
だったらやっぱり、正直に話すべきだと思うから。
「……天沢さんの、娘さんについての話を聞いて欲しいんです」
「娘、ねぇ……」
「おかしな事を言っているのは分かっています。それでも、どうしても聞いて欲しいんです!」
「……」
「そ、その……」
「分かったよ」
「……え?」
「話を聞いて欲しいんだろ? 聞かせてもらおうか」
「いいんですか! ありがとうございます」
「随分と、嬉しそうだね。それは今この電話では話せない事なのかな?」
「話せない事もないのですが、出来ればお会いして直接話した……」
話を聞いてもらえるとなって、少し興奮気味で電話をしていると、
「圭君ー? ただいまですー?」
と、ハルさんが帰ってきてしまった……
もちろん帰ってきてくれた事は嬉しいんだけど、今はタイミングが悪い……
「あ、お電話中だったんですね、ごめんなさい……」
ハルさんは僕が電話している事に気付いて、小声で謝りながら部屋から出ていった。
まさか僕の電話相手が、自分の家族だとは思ってもいないだろうな……
「す、すみません……今お話しする事が無理になりました。ですので、出来れば後日に……あ、ご都合のいい時を教えていただければ、こちらから向かわせていただきますので」
「……」
「あ、あの?」
「……」
「えっと……」
「今の声は……?」
電話越しにハルさんの声が聞こえたのか?
でも、それを今どう言えば……?
ハルさんも帰ってきているし、これ以上天沢さんと電話をしているのは……
「……いや、すまない」
「いえ……あの、出来るだけ早くお話したいんです。ご都合のいい時を……」
「僕だけでなく、陽茉梨も涼真もいた方がいいんだね?」
「はい、お願いします」
「それは誰だとは聞かないんだね、僕達の事をよく知っているんだろう」
「す、すみません……」
「いいさ、では明日……」
「えっ! 明日ですか?」
「あぁ、都合が悪かったかな? ならば明後日でも……」
「ち、違います。そんなに早くていいのかと、少し驚いただけですから」
まさか明日お会いしていただける事になるとは……
ハルさんが帰ってきた事で電話を早くきりたがっている事を察してくれたようで、その後は天沢さんのお宅の方へとお邪魔させてもらう時間を決めただけで、何も聞いて来られなかった。
「あ、お電話終わったんですね」
「はい。おかえりなさい、ハルさん」
「ふふっ、ただいまです」
「楽しかったですか?」
「はい!」
楽しそうに笑うハルさん。
この笑顔が天沢さん達にも向けられるようにする為に、明日は僕に出来る限りの事を頑張らないと!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




