個人情報
圭君視点です。
「久しぶりに声が聞けたと思ったら、まさかこんな事だとはな」
「ごめん……」
「怒っとらんわ。ただ、あまり無茶な事はするんじゃないぞ?」
「ありがとう、じいちゃん」
「落ち着いたら、ちゃんと紹介してくれよ」
「分かってるよ。じゃあまた」
電話越しとはいえ、じいちゃんと久しぶりに会話をした。
それも要件は瑞樹家にも野菜にも関係のない事で……でも、こういう事を頼れる人がいるというのはありがたい。
何より元気そうで安心した。
それはきっとじいちゃんもそうだろう。
昨日の夜ご飯の途中、父さんが仕事の連絡が入ったと言って席を立ったのは嘘だ。
嘘が嫌いなハルさんには本当に申し訳ないと思うけど、あれは連絡が来たから席を立った訳じゃなく、連絡をしたくて席を立ったんだ。
それも仕事の事じゃなく、私的な事を頼む為に。
僕は自分の家の事にも詳しくはないけど、瑞樹野菜というとそれなり大きい会社なんだ。
そしてじいちゃんはその会社のトップでもあり、相当に人脈も広い。
そんな人となれば、人を調査する事も容易い。
だから調べてもらった。
ハルさんが教えてくれた住所を頼りに、天沢さんというご家庭についてを。
今じいちゃんに教えてもらった情報によると、ハルさんが教えてくれた住所に住んでいるのは、今も天沢さんらしい。
引っ越し等もされてはいなくて、少なくとも20年は住んでいるみたいなので、ハルさんのご両親で間違いないだろう。
住んでいる人は3人。
美術大学で講師をされている天沢大地さん。
とても優しい先生で、生徒さん達からも好評の人格者だそうだ。
それから奥様の天沢陽茉梨さん。
専業主婦をされているそうだけど結構活発な性格のようで、習い事等に多く通っているらしいし、人当たりが良くて友人も多いんだとか。
そして息子さんの天沢涼真さん。
スポーツ万能で、今はジムトレーナーとして働いている。
格好いいと女性からもかなり人気みたいだけど、最愛の彼女さんがいるからと、男性の担当しかしていないらしい。
誰かが大病に罹ったという情報もないし、生活に困っているという事もない。
とても仲のいい家族として近所でも評判だとの事。
直接見た訳じゃないけど、ハルさんのご家族というのが納得の人達だと思う。
昨日の今日でこれだけ調べれているじいちゃんが本当に凄いと思うけど、その凄いじいちゃんの調査でも、この天沢さんの御宅に娘さんがいるという情報は一切なかった。
数年前までは娘さんもいたとか、女の子用の何かを買っていたとか、そういう話も何もない。
こうも綺麗に存在を消してしまう事が出来るなんて……
改めてハルさん達の力の恐ろしさを感じてしまう。
「圭、これからどうするつもり? 当然このままでいいなんて思っていないんでしょ?」
「お兄ちゃん、私も何でも協力するからね!」
「うん、ありがとう」
ハルさんは今日、父さんの手伝いで瑞樹野菜のハウス農場の方へと行っているからいない。
父さんが、帰りは夕方になってしまうけどどうかと誘った時に、二つ返事で行くと答えていたし、多分僕が今日天沢さん家に行くと思っているんだろう。
様子を確認する為に……
でも様子はもうじいちゃんが依頼した人達が確認してくれた。
様子どころか結構な個人情報までを……
だから僕は様子を確認しに行くつもりはないし、何なら最初からそれだけで終わらせるつもりなんてなかった。
何とかして天沢さん達と連絡をとって、ハルさんの事を話す、それが僕の目的だから。
「どうやって接触するのが一番なのか、さっきから考えてるんだけど……僕が涼真さんのジムに行って話すっていうのはどう思う?」
「無理でしょ。お兄ちゃんみたいななよなよした奴がジムとか……」
「だからこそっていうか……」
「それで身体つくりもしないで家族の話とかばかりをしたら、余計にやる気がないと思われるんじゃない?」
「確かに……」
「それなら私が陽茉梨さんに接触するわよ! 何か同じ習い事をして……」
「陽茉梨さんは沢山の習い事をしてるけど、1つが頻繁にあるわけじゃないし、仲良くなるまでに時間がかかると思う……」
「それはそうね……」
今から志望大学を大地さんの大学へと変更するなんていうのは不可能だし、何よりそういう自分の人生を巻き込むようなやり方はハルさんが嫌がるはずだ。
父さんやじいちゃんに頼んで瑞樹野菜から接触してもらうというのも考えはしたけど、沢山の人を巻き込んでしまったとハルさんが気にするだろうから……
「やっぱり、直接電話をするしかないかな……」
「それが一番早そうだね」
天沢さん家の電話番号もじいちゃんが調べてくれたから分かってる。
でも、知らない人からいきなりかかってきた電話なんて、相手にしてもらえるだろうか?
不審者だと思われてしまう事は間違いない……
不審者だと思われる事なく、僕の話を聞いてもらうには、どうしたらいいんだろうか……?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




