意思の疎通
ハルさん視点です。
圭君に私があの方達から記憶を消しているのだという事はバレてしまっていました。
そしてさらにそこから私の心境を察してくれた圭君は、あの方達の様子を見に行ってくれるとまで……
本当にどこまでも優しいですね。
とても長い間、あの方達の様子を見ていませんからね……
情けない話ではありますが、私を覚えていないあの方達ともう一度会って、自分が闇堕ちをしない自身がなかったんです……
だから健やかに過ごしておられるよう祈る事しか出来ませんでした。
一応圭君の都合のいい時で構わないとお伝えしたのですが、きっと優し過ぎる圭君は、明日にでも様子を見に行ってくれてしまうのでしょう。
ご迷惑ばかりおかけしてしまって申し訳ないです……
「お、ちょっと悪いな。仕事の連絡が入ったみたいだ」
「……うん」
健介さんが携帯を持って部屋から出ていかれました。
やっぱり瑞樹家は常にお忙しいのですね。
そんな忙しいところで、私の問題にまで悩ませてしまうなんて……
「ハルさん。僕達に申し訳ないとか、思わないで下さいね」
「そうだよ、ハル姉。迷惑なんて事は絶対にないんだから、どんな事でも相談してくれていいの!」
「うちが忙しいとか、そういう事も気遣わなくいいわ。私達はもう家族なのよ? 遠慮なんてしないで頂戴。もちろん私達が困ったらハルちゃんに助けてもらう事だってあるんだから」
「はい、ありがとうございます」
皆さんも本当にお優しいですね。
私のせいで変な空気感になってしまっていたというのに、こうして温かく支えて下さって……
「ほら、ハルちゃん。ロールキャベツも食べて。自信作なんだから」
「こっちのコールスローもね!」
「ちょっとスープも冷めちゃってるし、温め直すよ」
「そ、それなら私が……今日は圭君の誕生日なんですから!」
「お兄ちゃんの誕生日だからこそ、ハル姉はお兄ちゃんの横にいてあげて。それは私が温め直すから」
「は、はい……」
私が暗い顔をしてしまっていたのでしょう。
皆さんが励ましてくれているのがよく分かります。
折角の圭君のお誕生日なんですし、あの問題も圭君に様子を見てきてもらう事で解決したのですから、これ以上考える必要もありません。
あとは楽しく過ごそうと思います!
「おー、途中で抜けて悪かったな。もう仕事の連絡もないから安心してくれ」
「……ありがとう、父さん。じいちゃん達にもお礼を言っておいて」
「それは後で自分で言うんだな。たまには圭の声も聞きたいだろうからさ」
「うん。そうするよ」
お仕事の連絡を終えられたようで、健介さんも戻って来られました。
圭君に笑いかけておられて、圭君も頷き返しています。
お互いにすれ違ってしまっていた事を気にされていましたが、こういう2人の姿を見ると、意思の疎通がとれた仲良し親子としか思えませんね。
「それにしても今日の料理は格別だなぁ!」
「今日はこれからデザートもあるんだからね。ちゃんとお腹に隙間を作っておいてよ」
「デザートは別腹でしょ。ねぇ? お兄ちゃん!」
「そうだね」
そうして楽しい雰囲気に戻った圭君の誕生日祝いの食事はあっという間に食べ終わってしまい、珠鈴ちゃんと2人で作った2段タルトも大喜びで召し上がってもらいました!
本当に美味しく作れていましたし、流石は将来パティシエ志望の珠鈴ちゃんですね!
「さてさてー、ここでプレゼントタイムでーす! 私からははいっ、これ」
「これは……ペアのマグカップ?」
「え、珠鈴ちゃん……これって……」
「そうそう。ハル姉が可愛いって見てた奴!」
圭君の誕生日プレゼントは一緒に買いに行きましたが、結局珠鈴ちゃんが何を買ったのかは教えてもらっていなかったんですよね。
それがまさか、私が見ていたマグカップだったとは……
「向こうに戻ったら、2人で使ってね!」
「あぁ、ありがとう。珠鈴」
「うん!」
「私達からはこれよ」
「食器?」
「あぁ。珠鈴と発想が同じだったみたいだな」
「揃いの食器なの。圭はお皿に凄く拘ってるじゃない? だからね、こういうのも面白いと思って」
「ありがとう。父さん、母さん」
珠鈴ちゃんも健介さんも純連さんも、圭君だけでなく私の事も考えたプレゼントをして下さったんですね。
本当に嬉しいです!
私の食器となるものが増えるというのも、家族として認めてもらっているみたいです。
いえ、みたいなんて事を言っていてはいけませんね。
ここまでしていただけているんですから。
私はもう、皆さんと家族なんですね!
「では私からも圭君に……」
「はい、なんですか?」
「こちらの鞄です」
「鞄……あ、これ……猫の刺繍?」
「はい。圭君ほど上手くはありませんが、ちょっと頑張ってみました。えっと……その、出来るだけ常に身につけていだだける物にしたくて、一応大学生らしいものをと思ったのですが……どうですか? お好きなデザインでした?」
「ハルさんが選んでくれたものなら、どんな物でも好きなデザインになりますよ!」
「そ、それは……」
「しかも刺繍まで……本当にありがとうございます! 僕、この鞄で大学に通いますね! もちろんあのボールペンも使いますから」
圭君はとても嬉しそうに笑ってくれています。
鞄をプレゼントする事には"門出を祝う"という意味も含まれているそうですからね。
喜んで頂けてよかったです。
「ねぇ? あのボールペンって?」
「あぁ、ハルさんがクリスマスプレゼントでくれたものでね」
「いつも使ってる猫の奴?」
「うん」
「そっかそっか〜」
それからは圭君共々皆さんからからかわれる事となりましたが、とても賑やかに過ごす事が出来ました。
ちょっと厄介な話をしてしまったとはいえ、圭君の誕生日がこうして無事に楽しく過ごせて本当によかったです!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




