本音
圭君視点です。
予想していた通り、ハルさんは家族から自分の記憶を消してしまっていた。
しかも僕の時と同様に、家族の皆さんを何か危険な事に巻き込んでしまったみたいだ。
それを自分のせいだとして、話し合う事もなしに記憶を消してしまったんだろう……
「……あ、あの……だから、えっと……あの方々は私とはもう無関係ですので、挨拶なんて必要ないですからね」
「ハルさん、本当にそれでいいんですか?」
「もっ、もちろんです!」
「本当はハルさんだって、ご家族に自分の事を思い出してほしいんじゃないんですか?」
「そんな事……」
「僕の時だって、僕がハルさんをちゃんと思い出せた事、あんなに喜んでくれたじゃないですか」
「それとこれとは違いますよ……」
ハルさんは少し同様して話していたけど、一度深呼吸をして自分を落ち着かせたみたいで、
「圭君、お気遣いありがとうございます。ですが私は本当にあの方々に自分を思い出して欲しいとは思っていません。この気持ちに嘘偽りはありませんよ」
と、悲しそうに笑いかけてきた。
嘘が大嫌いなハルさんの、嘘偽りない本音……
それが家族に自分を思い出して欲しくないだなんて……
「……ハルさんの事を思い出さない方が、その方々の幸せに繋がるんですか?」
「はい」
真っ直ぐに僕を見つめて肯定してくる……
絶対にそうだと決めつけてしまっている……
「そんな訳ないっ! ハル姉の家族は皆、ハル姉の事を思い出したいに決まってるっ!」
「思い出したいも何も、忘れている事にも気付かないんですよ。私が声をかけたとしても、赤の他人でしかないんです」
「声、かけたんですか?」
「え?」
「僕はハルさんに記憶を消されましたが、ハルさんにもう一度会えた事で記憶を取り戻しました。だからご家族もきっと……」
ハルさんと会えば、きっとハルさんの記憶を取り戻せる! そうなればハルさんの考えだって変わるはず! という、そんな僕の希望は、ハルさんの言葉によって打ち消された……
「声はかけましたよ。本当にちゃんと記憶が消えているかの確認をしなければいけませんでしたからね。もちろんしっかりと消えていましたが」
「そ、そんな……」
「そもそもですね、圭君の時が異例だったんですよ? 私のせいで圭君には変な習慣ばかりが身についてしまっていたから違和感を持てていただけで、本来は記憶を取り戻せるはずがないんですから」
そうだ、僕が思い出せた事がおかしかったんだった……
だから裁判なんてのも開かれたんだし……
「で、でも、次は思い出してもらえるかもしれないでしょ! 今ならまた違う反応があるかもなんだし、行ってみようよ!」
「す、珠鈴ちゃん? 私はその、思い出して欲しくはないんです……だから、会いたいとも思いませんし……」
「会いたくないって……そんな、酷い人達だったの?」
「そうではありませんっ!」
「だよね?」
ハルさんは思い出して欲しくないと言っているのに、僕と珠鈴が思い出させようとばかりしているから、ハルさんかなり困っている。
しかも会いたくないとまで……
でも大切な人達なのは間違いないんだ。
「ハルちゃん? どうして会いたくないのかは、聞いてもいいかしら?」
「……あの方々の記憶を消してから、確認として会いに行った時、私に気がついてくれない悲しさで自分が壊れそうだったんです……こっちから記憶を消しておいて、迷惑な話ですよね」
「そんな事はない。それで平気な訳がないのだから」
母さんと父さんも、ハルさんを責めないように優しく事情を聞いてくれている。
その雰囲気は今にも泣き出しそうな小さい子をあやしているようで……
でも今ハルさんが語ってくれている出来事が起きたのは、ハルさんがまだ小学生くらいだった頃の話のはずだ。
いくら自分から記憶を消したとはいえ、そんな幼い時に家族に忘れられたなんて、本当に辛すぎる……
そんなの、自分が壊れそうになって当たり前……ん? あぁ、そういう事か。
ハルさんは自分の闇堕ちを警戒しているから、家族に会いには行けないんだ。
「私がそういう事ばかりを気にしているというのは、世界の浄化の仕事等にも影響します……ですので私は、あの方々と関わる訳には……」
「ハルさん、そのお家の住所を教えて下さい」
「え?」
「ハルさんが関われないのは分かりました。でもハルさんだってその方々の事が心配なんですよね? だから僕が様子を見てきますよ」
「それは……でも、そんな迷惑を圭君にかける訳には……」
「僕、ハルさんの彼氏なんですよ? 迷惑だなんて思いません。もっと頼って欲しいくらいですから」
自分で言っていて結構恥ずかしいんだけど、今はそれを恥ずかしがっている場合じゃない。
まずは僕がハルさんのご家族と会わないと始まらない。
「……ありがとうございます。ではお願いしてもいいですか? もちろん今すぐじゃなくていいので、圭君のお時間のある時にでも様子を見てきて頂けると助かります……」
「はい、そうしますね」
ハルさんはご家族と幼少期に暮らしていたという家の住所を教えてくれた。
名字は天沢さんというらしい。
ハルさんは思い出してもらわない方がご家族の為だって思い込んじゃってる上に、闇堕ちを警戒しているせいでご家族に会う気もない。
でもハルさんに会う気がないのなら、ご家族の皆さんの方に会う気になってもらえばいい。
そして、思い出ださない方がいいなんていう間違った思い込みを皆で壊すんだ!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




