御神木
圭君視点です。
ハルさんに手を引かれるまま、どんどん山の奥に入っていく。
道なき道を結構進んでいる。
どこに向かっているんだろうか?
かなり進んだところでハルさんが立ち止まった。
凄く大きな木のあるところだった。
「えっと、ハルさん? ここですか?」
「はい! ここです。というか、この木の上ですね」
「凄い大きな木ですね」
「ここの御神木ですからね。今日のお祭りの神社で祀られている、土地神様の本体です。結界が張ってあるので普通の人は入って来れませんから、静かに落ち着いて花火を見れる絶景スポットですよ」
「……え? それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ」
ハルさんに案内されたのは御神木だった。
何か、普通の人は入ったらダメな所らしいのに、僕入ってるし。
ハルさんはこの木の上って言ったけど、こんな大きな木、さすがに登れない。
そもそも御神木って、登っちゃダメなんじゃないのか?
「それじゃあ、上に行きましょうか」
「えっと……ハルさん、どうやって登るんですか?」
「え? あぁ、私が飛びますよ。圭君は私の後ろにしがみついていてくれれば大丈夫です」
「後ろにしがみつく?」
「はい、私の後ろから首の方に手を出していただければ」
それって?
僕が後ろから、ハルさんを抱き締める感じになるんだけどな……
それに、飛ぶって……
「圭君?」
「あの、僕ごと一緒に飛ぶって事ですか?」
「そうですよ」
「僕、重いですよ」
「大丈夫ですよ。今の私、跳躍力高いですから」
そういう問題じゃないんだけど……
でも、ハルさんは気にしてないみたいだ。
折角絶景スポットに案内してくれてるのに、断るのも申し訳ないから……
「えっと……じゃあ、掴まりますよ」
「はい」
僕はハルさんは後ろから抱き締めた。
緊張して、心臓がドキドキする……
そういえば、前も勢い余ってハルさんを抱き締めちゃったな。
あの時はあまり何も考えて無かったけど、思い返せば凄く恥ずかしい。
心臓がうるさい……
このままだと、ハルさんにも聞こえてしまうかもしれない。
できれば早く飛んでほしいけど、何故か動かないハルさん。
「ハルさん?」
「……えっ! あっ……ごめんなさい……じゃあ飛びますね。し、しっかり掴まってて下さいね」
そう言ってハルさんは、少し膝を曲げてから飛んだ。
何メートルくらい飛んだのかは分からないけど、気がついたら木の太い枝の上にいた。
「圭君、到着です」
「えっ……ありがとうございます」
本当に一瞬くらいでついてしまった。
僕はハルさんから離れた。
恥ずかしいから、早く飛んで欲しいとは思っていたけど、もう少し……
ドーン、ドドーン
花火の音がする。
振り返ってみると、凄い絶景だった。
この木自体も大きいけど、この木のある場所が元々山の上の方だったので、高いところから花火が見えて凄く綺麗だった。
「どうですか、圭君。絶景スポットでしょう?」
「はい、凄く綺麗ですね」
「圭君に喜んでもらえて良かったです」
「ありがとうございます」
ハルさんも楽しそうで良かった。
「あ、さっきのフィナンシェ食べましょうか」
「そうですね」
僕とハルさんは、枝に座って花火を見ながらフィナンシェを食べている。
紅茶とかあったらもっと優雅だっただろうな、とか思うくらいに贅沢気分だ。
屋台では何を買うか悩んでいたので、フィナンシェをくれた輪投げ屋のおじさんに本当に感謝した。
「美味しいですね、このフィナンシェ? 外はサクッとしてるのに中はしっとりとしていて」
「そうですね、今度作りましょうか」
「作れるんですか!?」
「さすがにこんなに美味しいのは作れませんが」
そもそも家にはフィナンシェ型がない。
似たようなものにはなってしまうかも知れないけど、一応は作れるはずだ。
「ハルさんもクッキーはもう十分に作れてますし、次はフィナンシェとか、こういうスポンジ系の焼き菓子も作ってみましょうか」
「圭君は何でも作れるんですね」
「何でもは無理ですが、僕は今まで勉強と料理くらいしかやることが無かったので。なので、今はハルさんと一緒に出来て楽しいです」
「ありがとうございます。私も楽しいですよ」
最近のハルさんは、自分流にアレンジしたクッキーとかもつくっていたし、料理に興味をもってくれているようで良かった。
僕の料理知識が、こんなに使えるとは思ってなかったな。
今はまだお菓子とかだけど、そのうち凝った料理とかにも興味を持ってくれるといいんだけど……
ドーン、ドーン
そんなことを考えている間も花火はずっと上がっている。
花火は色んな種類があった。
途中で色が変わるのもあれば、何かの形になってるものもあった。
「本当に綺麗ですね」
「そうですね」
地元で花火は見たことあったけど、そんなに大規模でもない。
それに比べると、鮮やかに色んな色が光って、形も面白いのがある。
何よりも、こんな絶景を見ているのに周りも騒がしくないし、大切な人と一緒に見れるのは本当に幸せだと思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




