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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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239/331

予想通り

圭君視点です。

 僕が将来この瑞樹家を継ぐかどうかという話から、ハルさんの家族にまだ挨拶に行っていないという話になった。

 そしてその話で盛り上がる父さん達に対して、少し困ったような顔をしていたハルさん……

 やっぱり家族の話題には触れてほしくないんだろう。


 ハルさんは困っているのだからと、話題を変える事は簡単だ。

 でも僕は、この問題にちゃんと向き合わなければいけないと思う。

 だから……


「……ハルさん」

「はい? 圭君? どうしました?」

「実は、ずっと言い出せなかったんですけど……」

「なんでしょう?」

「僕、ハルさんのご両親に挨拶がしたいですっ!」

「両親に、挨拶……」

「はいっ!」


 遂に言った、言う事が出来た。

 でもそのせいでハルさんはかなり困っている……

 今の僕の発言のせいでこの話題からは逃げられなくなってしまったし、父さん達が楽しそうに盛り上がっているからと、気にしてくれているんだろう。


「あ、あの……圭君? 私に家族はいませんよ?」


 ハルさんは、凄く申し訳なさそうにそう言ってきた。

 そんな言われ方をされたら、家族は亡くなっているんだと誰もが思ってしまうだろう。

 そしてそのまま話題を変えてくれる……本来なら。


 相変わらずハルさんは話すのが上手いな。

 だけど、そうさせるつもりは僕にはない。


「違いますよね、ハルさん」

「はい?」

「いえ……ハルさんにとったらそれが真実ですか。ハルさんは嘘を言いませんもんね」

「け、圭君?」

「では、言い方を変えさせて下さい。ハルさんと血の繋がりのある方に、挨拶がしたいです。何処にお住まいなんですか?」


 ハルさんは綺麗な目を大きく開いて僕を見てくれている。

 僕がこんな逃げ場のない質問をしたから、驚いているんだろう。

 家族の話をしたくないハルさんにとって、今の僕は敵でしかないから……


「ごめんなさい。こんな事を言ったらハルさんが困るのは分かってたんです。でも、僕は知りたいです。ハルさんの大切な人達の事を!」


 ハルさんを苦しめたような、そんな酷い人達なんだったら、無理に話してほしいとは思わない。

 でも絶対に違う。

 ハルさんは間違いなく家族の事を大切に思っているし、ハルさんの家族の皆さんだって、ハルさんの事を大切に思っているに違いない!

 だからちゃんと教えてほしいんだ、ハルさんの大切な家族の事を!


「……引っ越し等をされていなければ、幼少期に私が育った家で今も暮らしていると思いますよ」

「そうなんですね……」


 僕の気持ちを察してくれたようで、ハルさんは答えてくれた。

 やっぱり思っていた通り、ハルさんにはちゃんと家族がいたんだ……


「ちょっと待ってハル姉! その人達は、ハル姉にとって家族じゃないの!?」

「私にはもう、あの方々の家族だと名乗る資格はありませんから……」

「ど、どうして?」

「あの方々には記憶が無いんですよ。私を産んだ記憶も、私を育てた記憶も。私という存在の記憶は何一つ、残っていないんです」

「記憶が、ない……?」

「えぇ、全て消してもらいましたから」


 そしてこれも予想通りだ。

 きっと何かすれ違いがあって、ちゃんと話し合いをしないままに記憶を消してしまったんだろう。

 あの時にハルさんが僕の話を録に聞いてくれなかった事から考えても、ハルさんが一方的に家族としての資格を失ったんだ。


「記憶を、消したって……」

「あっ! いきなり驚かせてしまって申し訳ありません。実は私、記憶とか消せる力も持っていまして……あまり信じてはもらえないかも知れませんが……」

「違うよハル姉っ! 私達は別に、ハル姉に記憶を消す力があるとか、そんな事に驚いている訳じゃないよ! 何で家族から自分の記憶を消したの? 何でそれで平気なの? そんなの……絶対おかしいよっ!」

「珠鈴、落ち着いて。ハルさんにも事情があるんだよ」

「お兄ちゃん……」


 珠鈴が必死に訴えてくれて、ハルさんはバツが悪そうに視線を逸らした。

 泣きそうになっていた珠鈴を僕が落ち着いて静止した事で、今の話を聞いても僕が全く狼狽えていない事には皆気づいたみたいだ。


「圭は知ってたんだな?」

「ハルさんに記憶を消す力がある事は知ってたよ。僕も前に消されてるからね」

「えっ?」

「勿論、記憶はちゃんと返してもらったよ。だから今、こうしてハルさんと一緒に居られるんだ」


 もしあの時、ハルさんと最後の約束すら出来なかったら?

 何の前触れもなく、いきなり記憶を消されていたら、僕はハルさんと再会した時にちゃんと思い出せただろうか?

 今もハルさんという存在を思い出す事も出来ずに過ごしていた可能性だってある。

 それは想像するだけでも恐ろしい事だ……


「……ハル姉は、何でお兄ちゃんから記憶を消したの?」

「ハルさんは優しいだろ? だから僕を危険な事に巻き込みたくなかったんだよ」

「危険な事……」

「ハルさん。ハルさんがご家族から自分の記憶を消したのも、そうなんじゃないですか? その人達を自分の事情に巻き込みたくなかったんですよね?」

「そうですね……」


 ハルさんはかなり暗い……

 何か思い出したくなかった事を、思い出してしまったんだろうな……


 こんな悲しそうなハルさんを見ていたくはない。

 でも、だからと言って今この話から逃げてはいけない。

 僕は、ハルさんにちゃんと家族との関係を取り戻してほしいんだから。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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