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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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237/332

将来

圭君視点です。

「なぁ、圭。お前は何か、やりたい事が出来た訳じゃないんだよな?」

「え、うん」


僕が生物の勉強に力を入れ始めた理由をハルさんに話していると、父さんがそう聞いてきた。

いつも明るい父さんにしては珍しい、少し険しい顔で……


「そう、だよな……」

「父さん?」

「健介さんは圭君にお家を継いで欲しいんですか?」

「まぁなぁ……正直に言えばそうだ」

「そうだったの?」

「1回もそんな事言わなかったじゃん!」

「そりゃ純連が……」

「私は子供達に自分の好きな事をやっていて欲しいの!」


父さんと母さんが少し強い口調で話している。

いつも仲良く笑い合っているところしか見ていなかったから、こういう2人の姿は新鮮だ。


「それは俺もそうだが、珠鈴みたいにどうしてもやりたいという事がないのなら、そろそろ家の事をだな……」

「あなた!」

「……分かってるよ。悪いな、圭。やりたい事はまだまだこれから先に見つかるかもしれねぇし、気にしなくていいぞ」

「あ、うん……」


気にしなくていいとは言われたけど、流石に気になってしまう。

今まで全くそういう話はなかったのに、僕達が知らなかっただけで父さんと母さんはずっと話し合っていたって事なんだから。

それに……


「ねぇ、じいちゃんは何か言ってるの?」

「圭、気にしなくいいんだって」

「でもさ……」

「いつになったら圭は会社の経営を覚えるんだ? って、会う度に聞かれてるよ」

「やっぱり……」


じいちゃんは、僕が幼い頃から野菜についてたくさん教えてくれた。

忙しい人だからそんなによく会っていた訳ではないけど、会う度に野菜の話ばっかりするし、寧ろ野菜の話以外をしているところを見た事がないくらいだった。

あれはどう考えても、僕に家の事を継いで欲しかったからとしか思えない。

母さんはいつもじいちゃんは野菜が好きなだけよって言ってくれていたけど、母さんの考えが今のなんだったら、当然じいちゃんは……


「だがまぁ、最近はそうでもなかったけどな」

「ん? どうして?」

「ハルが来てくれたからだよ」

「私ですか?」

「あぁ、俺がハルは野菜好きだって言ったからな。連れて来た彼女が野菜好きな上に、家の農家の手伝いに積極的だったもんだから、完全に圭が瑞樹野菜を継ぐもんだと勘違いしてるんだ。否定するのも面倒になると思って否定してなかったしな……」

「あなた達が向こうに戻ったらちゃんと否定しておくから、安心していいのよ」

「継いで欲しいとは言ったが、だからといって無理強いをするつもりもないんだ。なにより圭はこれから大学で色んな事を学ぶんだからな。ハルの仕事の事だってあるし、こっちの事は気にしなくていいから、向こうで楽しく過ごしてくれ」


そう言われてもな……

それってじいちゃんを悲しませる事なんだろうし……


「でも、その……ハルさんは、僕がこの瑞樹家を継ぐと思っていたんですよね?」

「そうですね?」

「それって、仮に継いでいたとしても、僕と一緒にいてくれたって事ですよね?」

「もちろんですよ! 圭君がお家を継いでこっちでの生活をされるのであれば、私もこっちに来ますよ! あ、お邪魔でなければ!」

「全然邪魔なんかじゃないよ! でもハル姉? ハル姉って"世界の核"から離れない方がいいって、言ってなった?」

「それはそうですけど、そういう事になるのなら瞬間移動とかの力を覚えれば済む話ですし」

「ミオちゃんが使ってた?」

「そうですね!」


ハルさんを基準にして考えるっていうのは、動機としては不純なのかもしれない。

それでも……


「あのさ、父さん。まだはっきりそうだとは言えないんだけど、僕は多分……瑞樹野菜を継ぎたいと思ってると思うんだ」

「お? おう……」

「自分の事なのに、ちゃんと分かってなくてごめん……」

「それはいいが……」

「圭? 無理して言ってない?」

「無理はしてないよ。僕は単に、ハルさんが野菜好きな人だから、ハルさんにとって最高の野菜を作ってみたいって思ってるだけだから……」


家を継ぎたいと思った事なんて今までは全くと言っていいほどなかった。

というより、僕は周りに流されていただけで、自分の意思をはっきりと持っていなかったんだと思う。

でもハルさんと一緒にこうして実家に帰ってきて、家の事を手伝って、ハルさんが喜んでくれてっていうのを見ているうちに、実家が農家で本当に良かったと思うようになったんだ。


元々ハルさんを食事に誘ったのも、実家から野菜が届くということを理由にしていたし、これだけ親密な関係になれたのも結構キャベツのお蔭だと思う。

ハルさんが野菜好きの人じゃなかったら、もしかしたら今の関係はなかったのかもしれないし……

それを思うと、僕は瑞樹野菜にも本当に感謝してるんだ。

だからこそ、自分もしっかりと携わっていきたいと思う。


「そうか……ははっ! そうか、そうか」

「父さん?」

「懐かしいなぁ、純連」

「そうねぇ……」

「なになに? 何がー?」

「俺は家を継ぐ気なんて欠片もなくてな、親父と喧嘩しながらふらふらしてたんだ。だが純連と会って、純連が植物が好きって事を知ったから、家は農家だってアピールしまくったんだぞ」

「え?」

「でもね、植物の事に詳しいからってアピールしてきた癖に、全然詳しくなかったの」

「ふらふらしてただけだからな」

「じゃあ、そこから猛勉強?」

「そうだな」


そうだったんだ……

全然知らなかった。

父さんも大切な人の為に農家を継ぐ事を決めたんだ。

それは確かに、今の僕の現状とよく似ているかもしれないな。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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