卒業アルバム
圭君視点です。
「てか瑞樹、ほれ」
「ん?」
「プレゼントだよ。今日誕生日だろ?」
「ああ、うん」
「大したもんじゃねぇけど」
「ううん。嬉しいよ、ありがとう」
「おう」
どうして家の畑に康司君と如月さんが来ていたのかと思ったけど、僕に誕生日プレゼントを渡すために家へ向かう途中だったんだな。
というか……
「誕生日、覚えててくれたんだね」
「なっ! ちげーよ! たまたま、たまたまえっと、その……卒アル見てたんだよ!」
「卒業アルバムに誕生日なんて載ってたっけ?」
「え……」
「僕もこの間見たんだけど、多分載ってなかったよ?」
「残念だったね、康司」
「う、うるせぇ!」
やっぱり誕生日は覚えててくれたみたいだ。
如月さんも楽しそうに康司君をからかっている。
「だいたい、何でお前は自分の誕生日に畑で座り込んでんだよ」
「そうだね。聞きたい事があるなら聞きに行けばいいじゃん。折角の誕生日なんだし、ハルさんと一緒にいたいだろうと思って私もハルさんを誘わないであげてるんだよ?」
「それは気遣ってくれてありがとう。でも家にいる以上は家の手伝いもしないと」
「親御さんが手伝えって?」
「言われてないけど」
「じゃあ止めとけ。ハルさんだって寂しがってるだろ」
僕は寂しいけど、ハルさんも寂しがってくれてるのかな……?
でも、さっき変な態度をとってしまったし、今帰っても……
「ほら、何してるの? 行くよ」
「えっ……」
「聞きたい事があるんだろ? 聞きに行くぞ!」
「元彼の事じゃないなら、聞いたって大丈夫でしょ!」
康司君と如月さんはそうやって励ましてくれるけど、元彼の事以上に聞いてはいけない事だと思うから……
いや、元彼の事も気になるけど……
「とりあえず私が元彼の事気になるから、こそっと聞いてみるよ」
「初恋の人も聞いてくれよ」
「うん。で、出来るだけ明るい雰囲気にして、いい感じになったところで私達は帰るから、その時に瑞樹君の聞きたい事を聞くといいんじゃないかな」
「そうだな」
本当に聞くつもりみたいで、2人はどんどん家の方へ向かっていく。
でも、どのみち聞くつもりではいたんだから、こうしてきっかけを作ってもらえるのはありがたいな。
「ごめんくださーい!」
「はーい、ん? 麗華さんと康司さんと……圭君?」
「はは、ついさっきぶりですけど、ただいまです」
「自分の誕生日でまで仕事ばっかりしようとしてたんで、強引に連れて来ました」
「そうだったんですね」
玄関で出迎えてくれたハルさんは、さっきと同じエプロン姿だ。
些細な事ではあるけど、こういうエプロン姿みたいな家庭的な格好で、玄関で出迎えてもらえるというのは、なんか……凄く照れる。
「ハル姉? お客さん誰だっ……げっ!」
「珠鈴お嬢さん、『げっ!』は止めて下さいよ」
「何しに来たんですか? 帰って下さい」
「嫌われてる自覚もありますし、嫌われていて当然だとは思うんですけど、ちょっとだけお邪魔させて下さい」
「……」
「珠鈴、前にも話しただろ? 康司君とは友達になったんだから……」
「はいはい、分かってますよー。じゃあどうぞ、上がって寛いでいて下さい」
珠鈴はそう言いながら奥へと行ってしまった。
一応はちゃんと事情を話したけど、珠鈴はまだ康司君の事を許してはいないみたいだからな……
如月さんとはちょっと仲良くなれたみたいだけど……
これは僕がこの家から離れていた間の事も関係しているんだろうし、僕が知らない事でも珠鈴は怒ってくれていたはずだから、難しい問題だ。
それだけ僕の事を考えてくれているというのは嬉しく思うけど、出来ればもう少し仲良くなって欲しいと思う。
「なんか凄くいい匂いがするね。ケーキ焼いてたの?」
「タルトですよ!」
「へー、いいね。あ、じゃあ今はお邪魔しちゃったかな?」
「いえいえ、丁度完成したところでしたから。良かったらお2人も一緒に……」
「ハルさん、それはダメだよ! 流石に珠鈴ちゃんが噴火しちゃうから」
「ふ、噴火……」
「そうっすよ。俺達はちょっと遊んだらお暇するんで……」
「ゆっくりしていってもいいんだよ?」
僕がそう言うと、
「お前はバカか。何のために俺が珠鈴お嬢さんに嫌われながらも来たと思ってるんだ。聞くこと聞いたら即退散するに決まってるだろ」
と、僕の肩に手をかけながら、僕にだけ聞こえる小声で康司君は言ってきた。
「退散って……」
「……一応言っとくけど、俺まだあの人の事も怖いままなんだからな? お前は見てないだろうけど、マジで怖かったんだよ……」
「ハルさんが?」
「あぁ。加えて珠鈴お嬢さんもご立腹……これは退散しかねぇ……」
「逃亡は情けなくない?」
「だから今頑張って来てんだろ! 生意気言いやがって……」
「ははは……」
口調は怒ってるみたいだけど、康司君が怒っている訳じゃないのは分かる。
あと、本気で帰りたいんだって事も。
聞きたい事とかの悩みでさっきまで悶々としていたけど、こういう友人らしいような会話が出来た事を楽しく思えた。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




