ため息
圭君視点です。
「はぁ……」
まただ。
さっきから、もう何度目かも分からない程にため息を繰り返してしまっている。
さっきの僕の態度、どう考えても不審だった。
ハルさんもおかしいと思っただろうし、ハルさんを避けたと思われてしまったかもしれない。
弁明したいけど、どうしたらいいのかもよく分からないし……
ハルさんは僕に悩みがあるんじゃないかと心配してくれている。
事実その通りで、僕には悩みがあるんだけど、それをハルさんに打ち明けるのは難しい。
でも打ち明けない限りこの悩みが解決しない事も間違いない。
どうにか上手く聞けないと、ハルさんを困らせるだけで終わってしまうし……
「……き、み……、……ずきっ、瑞樹っ!」
「えっ!」
「やっと気付いたのかよ。さっきから声をかけてたのに」
「なになにー? こんなところで黄昏れながら悩んじゃって。ハルさんと喧嘩でもしたの?」
「康司君と、如月さん?」
呼ばれた気がして振り返ると、康司君と如月さんが立っていた。
仲良さそうに手を繋いでいるので、その様子を嬉しく思う。
康司君は如月さんにちゃんと告白をしたらしい。
そしてもう一度付き合う事になったんだと電話で聞いた。
なんていうのが正解なのかは分からなくて、"良かったね、おめでとう"って言ったんだけど、康司君には"相変わらず興味ねぇのな"と返されてしまった。
電話で相手の顔も見れなかったし、怒らせたしまったのかと思って謝ったけど、そういうのじゃないって言われて……
でも、こうして僕に声をかけてくれたんだから、あの時の電話は本当に怒ったとかではなかったんだろう。
「で、何悩んでるんだ?」
「ハルさんに……」
「おう?」
「嫌われた?」
「嫌われてないから!」
「分かってるって……」
「でも、ちょっと避けたみたいになっちゃって……」
「避けたって、お前が?」
「うん……」
「え、お前が?」
「そう」
「は? お前がハルさんを避けたのか?」
「だからそうだって」
僕が避けたみたいになったんだと言ってるのに、何回確認するんだと思って顔を上げると、康司君も如月さんもあり得ないものでも見たかのように目を見開いていた。
そんなに僕がハルさんを避けた事が意外だったんだろうか? ……いや、意外だな。
2人からしたら、僕は何にも関心を持たないようなロボットで、ハルさんと出会った事でそれが変わり、今はハルさんにくっついてばかりいる存在なんだから。
「なんでそんな事したんだよ」
「その……ちょっとハルさんに聞きたい事があったんだけど、聞きづらくて……どう聞いたらいいのか悩んでいるうちに……」
「それって、聞いたらハルさんを困らせる事なの?」
「多分」
「じゃあ最初から聞かなきゃいいじゃん」
「でも瑞樹は気になるんだろ? 聞きたくてしょうがないんだよな?」
「うん」
「なら、さっさと聞いちまえ」
「……」
「あの人の事だし、瑞樹からなら何を聞かれても大丈夫だろ」
「そんな事ないよ! 乙女には聞かれたくない事とかあるんだから!」
なんか、康司君と如月さんが言い合いみたいになってしまってる。
康司君は僕の気持ちを優先した意見を言ってくれていて、如月さんはハルさんを優先した意見を言ってるんだから、意見が食い違うのは仕方のない事なんだけど、僕のせいで2人が言い合うのは嫌だな。
「その、2人共ありがとう。でもこれはどうしても聞かないといけない事なんだ。だからハルさんがどれだけ聞かれたくないと思っていたとしても、必ず聞くよ。ただ、被害は最小限に抑えたい……」
「被害って、お前の心の被害だろ? 最小限は無理だろー」
「だから最初から聞かなきゃいいんだって。どうせ互いに傷付いて、もやもやする事になるんだから。今がいいなら過去は気にしない! それでよくない?」
「そういう訳にもいかないよ。大切な過去のはずだし……」
「大丈夫だ! どれだけ大切な過去でも、今はお前の方が大切だって!」
「そうそう。結局そう思って終わりになるだけなんだし、変にハルさんを困らせる事もないんだから、聞かなきゃいいんだよ」
「いや、聞かないままは気になるんだって」
なんか、励まされてるのかなんなのか、よく分からなくなっていたんだけど、
「もう……そんなに気になるもの? "元彼"の事が?」
「気になるよ! "初恋の人"なんて、嫉妬も尋常じゃない。せめて幼稚園の頃の先生とかであって欲しい」
という2人の意見を聞いて、2人が勘違いしている事が分かった。
「違う違う! 僕が聞きたいのはハルさんの元彼とか初恋の人とかの事じゃないから!」
「「えっ!? 違うの?」」
「違う……けど、それはそれで気になるなぁ……」
ハルさんに元彼?
ずっと1人でやってたみたいな事を言ってたから、この世界にはハルさんの元彼はいないだろう。
でも会社の世界の方はどうだ?
一緒に仕事をこなす仲のいい男性とか、いるに決まってるよな……
世界のために働く人なんて、皆格好いい人ばかりだろうし、初恋の人だって当然いるはずで……
「はぁ……、聞きたい事が増えちゃった……」
「「なんか、ごめん……」」
僕のさっきよりもさらに深くなったため息に対して、康司君と如月さんは声を揃えて謝ってきた。
別に2人が悪い訳ではないんだけど、このタイミングで新たな悩みは追加しないで欲しかったな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




