二層タルト
ハルさん視点です。
「ハル姉、タルト焼けたー?」
「はい! どうでしょうか?」
「いい感じだと思う!」
「これを重ねるんですよね」
「そうだよ!」
本日はなんと、圭君のお誕生日です。
ですので朝から珠鈴ちゃんと誕生日ケーキならぬ誕生日タルトを作っております。
タルトの構造は珠鈴ちゃんが考えたもので、大きなタルトの上に2回りほど小さめのタルトが乗る事になっています。
下のタルトにはダマンド、上のタルトには生チョコが入り、飾りのフルーツもたくさんですので、完成したらとても豪華なタルトになることは間違いありません!
「圭君も絶対喜んでくれますよね!」
「うん! なんてったって愛しのハル姉が作ってくれてるんだからね!」
「も、もう……恥ずかしい事を言わないで下さい……」
「あははー」
本当に珠鈴ちゃんはすぐに私をからかって来ますね。
愛しの、ですか……
「ハル姉?」
「あ、ごめんなさい。次は何をしましょうか?」
「何か悩み事? 話せない事じゃないなら話して」
「え、あー、その……」
「うん?」
「本当のほんっとうに、気のせいだとは思うんですが、圭君に避けられている気がして……」
「気のせいだね!」
珠鈴ちゃんは即答で返してくれました。
非常にありがたいです。
そうですよね、やっぱり気のせいですよね!
でももし私が何か、圭君の気分を害してしまう事をしていたのならと思うと……
「そんなに気になるなら、ハル姉の部屋を客間じゃなくて、お兄ちゃんの部屋にしようか? ベッドは少し狭くなるだろうけど、2人で寝れない程じゃないし」
「そ、それは……」
「でも、あまり遅くまでは盛り上がらないでね。隣の部屋、私だから」
「えっと、圭君の邪魔になってしまうのは嫌なので、同室はお断りしますが、私は元よりそんなにテレビ番組を見ませんし、圭君も今まで通りに朝から畑の方へ行くと思いますよ? 盛り上がりの心配はしなくても……」
「あー、うん。そっちじゃなくて、ね? 一緒のベッドだと緊張しちゃうから、寝られなくなっちゃうよねって話」
「それはそうですね」
確かに緊張で睡眠どころではないかもしれません。
私は寝なくともあまり問題はありませんが、圭君が眠れなくなってしまうのは大問題ですからね。
「……」
「珠鈴ちゃん?」
何故か珠鈴ちゃんにじっと見つめられているのですが、私は何か変な事を言ったのでしょうか?
やっぱり圭君も私が変だからこそ、距離をとりたいと考えて……?
「ねぇ、ハル姉達ってさ、あんまりイチャイチャしてないよね?」
「は、はい!?」
「仲良くないっていうのは違うし、ラブラブカップルだとは思うんだけど、その……物理的な接触とか少ないでしょ?」
「物理的な接触……」
「キスとかさ」
「……」
「お、お? その反応はなくもないって事なのかな? そっかそっか、私の下世話だったね。そういうのは2人だけの空間でやってもらえばいいから」
珠鈴ちゃんにビックリさせられた事で、顔が真っ赤になってしまいました。
でもキスですか……
思い返しても、あの時の1回しかないんですよね。
我ながら大胆な事をしたものですが……
「……あの、珠鈴ちゃん。実はその、キスとか……圭君からしてもらった事がなくて……」
「えっ……」
「もしかして圭君は、その……嫌いなのでしょうか?」
「そんな事ないよ。ただお兄ちゃんがヘタレなだけだよ」
「へ、ヘタレ?」
「全く……情けないね」
「そんな事は!」
「大丈夫! ハル姉は何にも悪くないからね! 私がそれとなく怒っておくから、ハル姉はドーンと構えておけばいいよ!」
「圭君に何を言うつもりですか?」
「ヘタレ兄貴! ってね」
「ヘタレ兄貴?」
「あ……」
「お、おかえり。ヘタレ兄貴」
話に盛り上がっていたので全く気づきませんでしたが、圭君が帰って来ていました。
圭君は珠鈴ちゃんの発言に首を傾げていますが、怒っている様子はありません。
やっぱり優しいですね!
「ただいま。それで、どうして僕がヘタレ兄貴なの?」
「それはヘタレだからだよ! 自分の胸に手を当てて聞いてごらんよ」
「あー、うん。確かに僕はかなりヘタレだとは思うんだけど……」
「そんな事はありません!」
「ハル姉がすぐにそうやって甘やかすからダメなんだよ」
「甘やかしているわけでは……それと、あの、圭君っ!」
「はい」
「お誕生日、おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
圭君は朝早くから畑の手伝いに行っていたので、まだお祝いが言えていませんでしたからね。
若干変なタイミングではありましたが、伝えられてよかったです。
「おめでとう、ヘタレお兄ちゃん」
「嬉しいような嬉しくないような祝われ方だね」
「今日からまた1つ大人になったんだから、もっとしっかりしてね! ヘタレお兄ちゃんのままじゃダメだよ」
「ありがとう、頑張るよ。悩んでるだけじゃ解決なんて出来ないもんな」
「うん!」
圭君は珠鈴ちゃんに笑いかけていますが、どことなく元気がないように見えます。
それに今の発言……
「圭君? 何か悩み事があるんですか?」
「あ、その……」
「私に出来る事があればなんでも!」
「凄く美味しそうタルトですね! 楽しみです!」
「え……そうですね」
「ちょっと道具をとりに来ただけなので、また行きますね」
「はい、いってらっしゃい……」
「いってきます」
圭君は少し慌ただしく出ていってしまいました……
「珠鈴ちゃん、やっぱり私……避けられてます?」
「照れてるだけじゃない?」
「そうでしょうか……?」
本当に圭君が照れているだけならいいのですが、私に何かを言いたいのではないかと思えて……
私と離れたいとか、そう思われていない事を祈るしかありませんね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




