親
圭君視点です。
以前僕がハルさんに兄弟がいるのかを聞いた時、ハルさんは"私には家族とかはいません"と、悲しそうに言っていた。
あの時は、ハルさん達のような特別な力を持った人というのは、何か特別な産まれ方をしてくるとかで、家族という存在はいないのだと思った。
土地神様に質問した時も、ハルさんの事を人の子ではないとは言えないけれど、人の子と呼ぶことはないと仰られていたし、人として生きている、神様とはまた違った特別な存在なのかと思っていた。
ハルさんは動物に変身出来るという、特別な力を持っている。
そして世界の浄化なんていう仕事をしながら、世界の核の管理もしている。
食事をしなくてもいい体質で、疲れる事もない身体……
そういう事を考えると、僕達と同じように産まれてくる訳ではないように思えてしまう。
でもハルさんと同じような存在であるミオさんは、僕が不用意に家族に関する質問をしてしまったというのに、ハルさんのように悲しそうな顔をする事もなく、あっけらかんと"兄弟はいない"と言っていた。
はっきりと家族がいると言っていた訳ではなかったけど、あの時の言い方や雰囲気からして、家族がいるんじゃないかと思って、改めてハルさんの発言を考えたんだ。
ハルさんの発言を思い返してみると、確かハルさんは大学どころか高校も中学にも通ってはおらず、卒業したのは幼稚園位だと言っていたはずだ。
そしてこの発言には"小学校"というものが登場していない。
通っていないところに小学校が含まれていないのなら、小学校は通っていた事になる。
戸籍がないという理由で普通に家に住む事も出来ず、働く事も出来ないハルさんが、幼稚園を卒業出来ている上に、小学校にも通う事が出来ていたのなら、小学校の何年生かまでは戸籍があったという事になる。
つまり、それまではハルさんには家族がいたんだ。
でもこれはあくまでも僕の予想に過ぎない事だった。
決定的な発言があった訳じゃなかったから。
だけどさっきの、両親の髪の色は黒だったという発言……もう疑う余地はない。
ハルさんには間違いなく家族がいる。
いや、嘘をつかないハルさんがいないと言っているんだから、いたと表現するべきなのかもしれない。
亡くなられたのだったらそういうはずだし、今日の康司君達家族に対する様子からしても、どうもハルさんは家族と絶縁してしまったんじゃないかという感じがする……
家族との間で何かがあって、もう家族ではなくなった……
ハルさんみたいな誰にでも愛されるような人が、家族の方から勘当されるというのは考えにくい。
そして僕の記憶を消す際にハルさんが全く話を聞いてくれなくて、とても頑固だった事も含めて考えれば、これはどう考えてもハルさんの方から家族との関係を絶っている。
それも、自分と共にいると迷惑になるからとかで、家族から自分の記憶を消している可能性が高い……
ハルさんに家族がいるかもしれないと思った時点で、ずっと挨拶をしたいと思っていた。
ちゃんと会って話して、恋人として認めてもらいたいと……
だからハルさんにもう一度家族についてを聞こうとは思っていたんだけど、これはそう簡単な話ではなさそうだ。
ハルさんは今のままでいいと思っているんだろう。
だから会おうとしてはいない。
でも悲しそうに家族はいないと言っていたり、家族との関係が絶たれる事に対してあれだけ必死に止めていたんだから、心の底では家族に会いたがっているはずだ。
とはいえ下手に家族の事を聞く訳にはいかないし、会うようにとも言えない。
「圭くーん! どうしたんですかー?」
「あ、すみません。今行きます!」
考えながら歩いていた事で置いていかれていた僕を、楽しそうに笑って手を振りながら呼んでくれているハルさん……
家族の話をすれば、この笑顔は消えてしまうかもしれないけど、上手くいけばもっと心から笑ってもらえるはずだ。
「もう、お兄ちゃんどうしたの?」
「私にハルさんをくれるつもりなら、ありがたくもらって帰るよ?」
「そんなつもりはないから」
「それは残念。じゃあ、私はこっちだから。今日はありがとう、ハルさん。また一緒に遊んで下さいねー!」
「はい、お気をつけてー」
如月さんと別れ、3人で家に帰ってきた。
「ただいまー」
「ただいまですー」
「あらあら、お帰りなさい。その格好も可愛いわね!」
「ありがとうございます!」
当たり前のように僕の家で"ただいま"と言い、母さんと笑い合ってくれている。
こういう家族との会話も、本当はハルさんの家族とも行っているはずのものなんだ。
僕はなんとかして、ハルさんに家族との関係を取り戻して欲しい。
でも直接そう言ったところで、頑固なハルさんが納得する訳はないんだから、僕とハルさんの意見は対立している事になる。
康司君の弟君に、僕とハルさんが敵になることもあるという話はしたけど、こうも早く敵になってしまうだなんて……
本当に、どうしたらいいんだろうか……?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




