髪の色
圭君視点です。
完全に解決したとは言えないけど、康司君の家庭問題は一旦落ち着いた。
これ以上僕達が介入するのはおかしいだろうし、あとは皆さんがちゃんと話し合うべきだと思う。
もちろん相談してもらえたら、それは力になれるように頑張るけど。
「ハ、ハル姉……」
「ん? あ、珠鈴ちゃん」
「やっぱりハル姉だーっ!」
とりあえず解決してよかったと思っていると、僕達の後ろには珠鈴が立っていて、ハルさんだと分かるやいなや掛けてきて抱きついた。
今の僕達は普段の僕達らしくない格好をしているから分かりにくかっただろうけど、ハルさんは髪色も目立つから、こうして見つけられたんだろう。
今日僕達が如月さんと買い物に行く事をずっと気にしてくれていたし、心配してきてくれたんだろうな。
「珠鈴ちゃんもお買い物ですか?」
「え、えっと……っていうか、なんて格好してるの? こっちのは誰かと思ったらお兄ちゃんだし」
「似合ってる?」
「んー? そこそこ」
「似合ってますよ」
「ありがとうございます」
「あ、ハル姉は似合ってるよ。やっぱりハル姉は何を着ても似合うね!」
「ふふっ、そうですか?」
珠鈴は僕とハルさんを見比べたりしながら笑ってくれたけど、すぐに表情が険しくなって、
「で、なんでその人達と一緒にいるの?」
と、康司君家族の事を睨んだ。
珠鈴からしたら康司君は、僕の事を悪く言う同級生でしかないだろうし、少し前にハルさんが康司君達を怒ったという時も一緒にいた。
だから康司君を完全に敵だと認識してしまっているんだろうな……
これは僕がちゃんと説明しないと。
「買い物してたらたまたま康司君達と会ってね、服のコーディネートをしてもらったんだ」
「……はぁ?」
「今まで珠鈴にも色々心配かけてきたと思うけど、そういう色々は解決したから。心配してくれてありがとうな」
僕がそう言うと、
「まぁ何かが解決したんだっていうのは分かるよ。あれだけ騒がしかったのが急に静かになったんだし、寧ろこれで何も解決してないとか言われる方が意味分かんないから」
と、バカにするように言われた。
「騒がしかった……そうですよね。このデパートで、他の皆さんの迷惑になっていましたよね」
「うん。かなり目立ってたからね。私が来てすぐに騒がしい派手な集団がいるっていうのは分かったけど、まさかお兄ちゃん達だなんて思わないじゃん? だから一通り探したんだけどいなかったし、騒がしかった人達がやっと静かになったと思ってよく見たらハル姉っぽいし……」
「それはなんか、ごめんな……」
確かに遠目で見てこの格好で騒いでる人達が僕達だとは思わないだろうし、珠鈴は結構探し回ってくれたんだろう。
「す、珠鈴お嬢さん……」
「ん?」
「その節は本当に申し訳ありませんでしたっ!」
「……えっ、えっと、何事?」
「康司さんはこの間の事を謝りたいんですよね?」
「……この人が?」
「あのな、珠鈴。珠鈴からしたら康司君はちょっと怖いお兄さんだっただろうけど、僕の大切な友達なんだよ」
「……お兄ちゃん、何言ってるの?」
「色々あって、友達になれたんだ。だから安心していいよって事」
「ふーん……」
今の簡易敵な説明ではあまり納得していないみたいだな。
まぁでもこれも、これ以上ここで話してデパートへの迷惑を増やす訳にはいかないから、帰って落ち着いてから話した方がよさそうだ。
「お店にも迷惑かけちゃったし、そろそろ帰ろっか」
「……あなたも一緒に来るんですか?」
「あっちと一緒に帰ると、会議に巻き込まれそうだからね!」
「そうですか……」
「じゃあねっ、康司! ちゃんと話なさいよ!」
「おう!」
「で、その後はその……待ってるから」
「お、おぉう……」
「行きましょ、ハルさん!」
「はい。では皆さん、失礼しますね」
「お世話になりました」
珠鈴が明らかに不機嫌なのを気遣ってか、如月さんが帰ると言い出してくれた。
そして康司君と少し話してから、ハルさんの手を引いて出口の方へと向かっていく。
そして康司君のお母さんはハルさんに深々と頭を下げていて、そんな様子を不思議に思いつつも、珠鈴がハルさんにくっつくように付いていった。
「じゃあ康司君、また……」
「あぁ、また聞いてくれよ」
「うん。僕でよければいつでも」
「ありがとな」
僕も康司君達と別れてハルさん達の後を追う。
また今度、康司君達の家族会議でどうなったのかを聞いてみよう。
興味があるかと言われると、そんなに興味がある訳じゃないんだけど、"聞いてくれ"と言ってもらえたし、興味があるとかないとかに関係なく、なんでも話し会えるのが友達だとおもうから。
「なかなか悪くないでしょー?」
「確かに悪くはないですけど、それはハル姉のポテンシャルが高いからであって……」
「確かに否定できないなぁ」
「そ、そんな事ないですよ。麗華さんのセンスは素晴らしいです」
「ありがとー」
先に行っていたハルさん達に追い付くと、思いの外珠鈴と如月さんは楽しそうに話していた。
もちろん会話の中心にハルさんがいるからだろうけど。
追いついたとはいえ、女子3人の楽しそうな会話の中に入る余地はない。
「にしてもハルさんの髪って綺麗だよねー。これ、どこのメーカー?」
「メーカー?」
「あ、もしかして美容師さん任せ?」
「えっと、あ! 髪の色の事ですか? これは生まれつきです」
「えっ! 生まれつきこのピンクなの!? そんな事ってあるの?」
「それは……」
これは困ったな……
確かに生まれつきピンクの髪色の人というのはいないだろうけど、ハルさんは嘘を付けない人だし……
だからといってここで僕が変に話を変えるというのは不自然だ。
どうしたら……と、狼狽えていると、
「外国の人とハーフとかだったらあり得るのかな? ハルさんってハーフ?」
「いえ……」
「じゃあ親御さんの髪色は? ピンク寄りとかだった?」
「お2人共黒でしたよ」
「それなら突然変異的な? あっ、先祖返りか!」
「ふふっ」
と、如月さんは自己完結してくれた。
それはとてもありがたいし、ハルさんも笑っているからよかったとは思うんだけど、今の発言……
「あ、ごめんねハルさん! ただ綺麗な色だって言いたかっただけだから」
「はい、ありがとうございます。麗華さんの髪もとても美しいですよ?」
「うん! 珠鈴ちゃんのもねー」
「どーも……」
3人に若干の温度差はありつつも、またファッションの話をしながら楽しそうに歩いている。
だから変に蒸し返す事も出来なくて……
でも、今確かにハルさんは、両親の髪の色は黒だったといった。
やっぱりハルさんには親がいるんだ!
何らかの理由でいなくなってしまっているだけで……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




