謝罪
圭君視点です。
「まず麗華にちゃんと謝ってくれ」
「麗華ちゃんに? 私が謝るような事をしたかしら?」
「蔑ろにしただろ」
「してないわよ」
康司君はお母さんに謝って欲しいといい、まずは如月さんへの謝罪を求めたけど、康司君のお母さんは何でそんな事を言われるのかが分かっていないみたいだ。
あれだけ失礼な事を平然と言えていたんだし、本当に失礼だとは思っていなかったんだろう。
無自覚だからこそ、達が悪いとも言える……
「まず最初に、俺と麗華が話していたのを割って入ったよな? 何の断りもなしに、自分を優先した」
「それは、話の途中だとは思わなくて……」
「その後、俺に言ったよな? 優先順位を考えろって。それは、麗華の優先順位が低いって事になる」
「だって麗華ちゃんとはいつも会ってるじゃない? 何も今日会わなくたって……」
「だから、そうやって言い訳ばっかりするのをやめろって言ってんだ」
「……」
これだけ言われたら、自分のあの時の発言が如月さんに失礼だったと分かっても良さそうなのに、まだ分からないんだろうか?
いや、これは多分失礼だったのは分かってるけど、謝りたくはないという感じに思える。
もしかすると康司君のお母さんは、最初から如月さんの事が嫌いなのかも……?
「康司、もういいよ。おばさんは私に謝りたくなんてないんでしょ」
「あなた……」
「麗華……」
「私も別に、この人から心のない謝罪なんてされたくないし」
「……そもそもね、康司。あなたは私の事を見栄っ張りだと言うけれど、だったらこの子はどうなの? 見栄の塊じゃない! 康司の事を自分の彼氏にしたのだって愛していたからじゃないわ。康司を自分のアクセサリーのようにして……」
「あー、はいはい。そーですねー」
康司君のお母さんも如月さんの事を嫌いで、如月さんも康司君のお母さんが嫌いなのか。
それはきっと、似た者同士だったから……
同族嫌悪みたいなものだろう。
「それは……麗華が俺を好きかどうかとか、別にいいんだよ。俺は麗華を好きだから」
「こ、康司?」
「……え、ちょ、何急に?」
「例え麗華が俺をアクセサリーだとしか思ってなかったとしても、俺は麗華と付き合えて嬉しかった。だから麗華と付き合ってた事に関しては、俺にも得があったんだ。でも母さんが見栄のために俺を利用してるのには、俺に何の得もない」
「や、待って、ちょっと待ってよ! 話進めないで!」
「どうした麗華?」
「さっ、さらっと告られた気がするんだけど……」
「ああ」
確かに凄くさりげなく告白してた。
でもそれは多分如月さんも分かってた事だろうし、そんなに驚く事じゃないと思うんだけど、如月さんは顔がかなり赤くなってしまっている。
まぁでも僕も、改めてハルさんから好意を告げてもらったら照れるからな。
そうやって自分に置き換えて考えるとそういうものだとも思える……ん? って事は、如月さんも康司君の事を……?
「悪い、麗華。それは確かにちゃんと話したい事なんだけど、後で落ち着いてからしっかり聞いて欲しいんだ。だから今は聞かなかった事にしといてくれ」
「えー、分かった……」
「……あんがと」
そうだよな。
告白するんなら、出来る限り状況のいい時にしたいものだよな。
こんな勢いに任せて言ってしまったのをなかった事にしたい気持ちは凄くよく分かる。
僕もずっと言えずに悩んでいて、やっと言えた時は結構勢い任せだったし……
しかも聞いてもらえなくて……
「圭君?」
「あ、はい?」
「随分と暗い顔をされているように見えたのですが?」
「大丈夫です。ちょっとだけ、康司君達の今の状況に、僕達の状況を重ねていただけですから。似てますよね、少し……」
「えっ? そうですか?」
ハルさんにとったらあまり似てなかったみたいだ。
でも僕達の場合は親に反対されたとかで拗れたりしたことはないからな。
僕の両親は最初からハルさんの事が大好きだったし……
でも、ハルさんの両親はどうだろうか?
もし本当にハルさんには元々家族がいて、今は関係を絶ってしまったとかなんだったら、僕はハルさんに家族との関係を取り戻して欲しいと思う。
そしてその時に、僕がハルさんの家族に認めてもらえるのかという話しになって……
「とにかく、麗華と母さんは違うから。見栄を張ってるっていう点で一緒だったとしても、麗華はちゃんと自分でそれを分かってるし、自分が悪いって時には謝罪してる。だからこそ、こうして瑞樹と買い物にだって来れてるんだ」
「そうかもしれないけど……」
「かもしれないじゃなくて、そうなんだよ! だから母さんにも、麗華を見習ってちゃんと謝って欲しい」
僕がちょっと別事を考えていた間に、康司君達の話し合いがまた白熱してきていた。
康司君の強い気持ちを聞いた事で、康司君のお母さんは俯いている。
そして、そんな俯いた状態のまま、如月さんの顔を見ることもなしに、
「……麗華ちゃん、さっきは私が失礼だったわ。ごめんなさい」
と、謝罪の言葉を口にした。
でも、それを如月さんは謝罪だとは認めなかった。
「……そんな、無理に言わされた謝罪に興味ないから。別に謝ってほしくもないし」
「はぁ? あなたねぇ!」
「ほら、本当に悪いと思ってる人は、今のでそんなすぐに逆ギレしたりしないよ」
「それは……」
さっき康司君も言ってたけど、性格はそう簡単には変わらない。
だから本当に悪いと思って謝るという事は、おそらく今のこの人には無理だろう。
それでも、表面的としてだけでもこうして謝ってくれたんだ。
また揉めかけてしまっているようにも見えるけど、こうして少しずつでも如月さんとも和解していけるといいけどな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




