敵味方
圭君視点です。
康司君のお母さんとの言い合いは、康司君が弟君と家出をするという話になりかけていた。
互いに勢いあまって言ってしまっただけだろうし、何の準備もなしにいきなりそんな事は出来ないんだから、今ここでそう言いあっていたとしても、まだ家とかで話合うチャンスはたくさんあっただろう。
今の康司君は、ちょっと言い過ぎって思えるくらいには、自分の意思をちゃんと伝えられているし、変に親御さんの言いなりになって苦しむ事もないと思う。
だからどうしてもこの場で解決しなくてもいいとは思うけど、このまま喧嘩別れになってしまうのは良くないと思う……
だからと言って僕に介入出来る問題でもないし……と、僕が狼狽えていたところで、ハルさんが止めてくれた。
そして康司君と弟君の方の事を怒り出したので、康司君のお母さんは訳が分からないという様子で固まっている。
今は互いに勢いだけで話してしまっているから、もっとちゃんと現実的な事も考えて欲しくて僕も少し言わせてもらったけど、そのせいで康司君は何も言えなくなってしまったみたいだ。
そんな僕とハルさんをに、
「な、なんなんだよ、お前等……お前等は誰の味方なんだよっ!」
と、弟君は睨みながら叫んできた。
弟君からしたら、兄である康司君は僕達の為を思ってお母さんと言い合いをしていた事になるし、元よりお母さんの事を好んでいなくて、敵のように感じていたんだったら、僕達の事は自分の味方だと思えていただろうからな。
でも、そもそも敵とか味方とか、そういう話じゃないと思う。
「誰の味方か、ですか? そう問われれば、私は私の味方だとしかお答え出来ませんよ?」
「は?」
「僕も僕の味方だね。だから、僕とハルさんが必ずしも味方同士になるとは限らない。ハルさんって結構頑固だし、僕の話を聞いてくれなかったりするからね。意見が対立している時は、敵だとも表現出来ると思うよ」
「それはその……ごめんなさいっ!」
「いいんです、解決しましたから。僕が言いたいのは、敵か味方かというのは、その時々の状況によって変わるという事……そして、敵だからといって、貶めなければいけない訳ではないという事……君にも分かるよね?」
「……」
僕はハルさんの味方でいたいと思っている。
でも、だからといってハルさんの意見全てを肯定出来る訳じゃない。
自分の事情に巻き込まない為にと、僕を頼ってくれない事。
僕の記憶を消して去っていこうとした事。
そういうハルさんの行動を否定したい僕は、ハルさんの味方ではないから。
相手の事を思っているからこそ敵対してしまう事もあるし、相手の為にと行動した事が迷惑になる場合もある。
だったらそれは結局のところ、自分の思いの為に行動しているという事だし、自分の味方であってハルさんの味方ではない。
ハルさんも同意見だからこそ、すぐに私は私の味方だと言ったんだろう。
「私は私が正しいと思う事に従っているまでですので、あなたの味方ではありません。ただ、今の状況でいうのであれば、家出という事には反対ですので、敵なのかもしれませんね」
「……なんで関係ない癖に、僕達の家出に反対するんだ」
「家出がとても寂しい事だと知っているからです。それもこんな絶縁してしまうような……家族とは、とても大切な繋がりですよ? それはこんなに簡単に断っていいものではありません」
……ん? なんだろう?
弟君を宥めるように話しているハルさんに、なんか違和感を感じる。
ミオさんに家族がいたみたいだったから、ハルさんにも家族の話を聞こうとは思っていたけど、今のこの感じからしても、ハルさんの言う"家族がいない"っていうのは、元々はいたけど今はいないってことなんじゃ……?
亡くなったのならそう言うだろうし、それこそ絶縁してしまったとか?
「……あんたは母さんの事を知らないから、そんな風にいうんだ!」
「確かにどんな方なのかは知りませんが、それはあなたもじゃないですか? お母様の事を敵だと決めつけて、お母様の優しさに気付けていない」
「優しさ……?」
「はい。ですからもう一度ちゃんと話合うべきです。さぁ、お母様も! 子供達と向き合わずに逃げてしまう前に、もう一度ちゃんと話をしましょう!」
「……」
「……」
「康司さん、私も圭君も、そして麗華さんも、あなたならちゃんと自分の意思を伝えられると信じていますよ。感情的にならず、落ち着いて、しっかりと思いを伝えてあげて下さい」
「……っす、ありがとうございます。ハルさん」
勢いからちょっと別れてしまいそうにはなっていたけど、今ので気持ちは切り替えれたみたいだ。
康司君のお母さんも弟君も、ハルさんの言葉で何か思う事はあったみたいだし、今度はしっかりと話合いが出来そうだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




