迷子
圭君視点です。
一緒にお祭りに向かう為、ハルさんを待っていると……
「お待たせしました、圭君」
と、黒髪のハルさんが来てくれた。
髪が黒いだけで、顔や声はいつもと同じだったので、人違いとかは思わなかったけど、少し驚いた。
「ハルさん……黒いですね?」
「はい、すみません。やっぱり髪色は変えないと目立つので……」
「印象が違って驚きましたが、ハルさんは黒髪も似合いますね」
「ありがとうございます」
やっぱり警察とかを気にしているみたいだ。
今日も僕が無理に誘ってしまったけど、本当は仕事だったんじゃないか?
無理して来てもらったんだし、たくさん楽しんでもらおうと思った。
神社の方に向かって行くと、屋台が見えてきた。
ハルさんは屋台とかで食べたことはあるんだろうか?
そもそもご飯自体をあまり食べない人なのに……
そんな事を考えていると、
「こんばんは、瑞樹さん」
と、後ろから声をかけられた。
振り返ると、石黒さんがいた。
「あぁ、石黒さん。こんばんは」
「彼女さんとデートですか? お邪魔してしまいましたね」
「いえ、彼女という訳ではないですし……」
「ほう? 彼女ではないのですか……では、どういうご関係で?」
僕とハルさんの関係?
この間ハルさんに言われた言葉が、何故か急に頭に思い浮かんだ。
「関係? そうですね……大切な友人です」
「なるほど……あまり邪魔しても悪いので、もう行きますね。また何かあったらいつでも連絡下さい」
「はい、ありがとうございます」
石黒さんはそれだけ言って去っていった。
多分用事があったとかではなく、ただ僕を見つけたから声をかけてくれただけみたいだ。
「今の、誰ですか? 何か見覚えはあるのですが……」
ハルさんが不思議そうな顔で、去っていく石黒さんを見ていた。
「石黒さんっていう刑事さんですよ。前に訪ねて来た時の……」
「あ~、あの時の……何か前と雰囲気違いますね」
「そうですか?」
雰囲気が違う……のか?
最初から、結構ぐいぐい質問してくるタイプの人だったけど?
その後のバイト中に来たときもあんな感じで、プライベートにもそこそこ踏み込んでくる人だったからな。
苦手な感じの人だし、僕の方からは話を広げないようにしていたから、雰囲気とか正直よく分からない……
「あの……ごめんなさい、気にしないで下さいね。それより圭君、屋台の方へ行きましょう!」
「そうですね」
ハルさんはもう気にしてないという感じで、屋台の方に向かって行った。
まぁ、ハルさんが気にしてないならいいか。
「わぁ~、人がこんなにたくさんの人が集まって……はぐれてしまうかもしれませんね」
「凄い人数ですね。あれ? でもハルさんは毎年来ていたんじゃないんですか?」
「いつもは鳥になって上空から見ていましたから。人として来るのは初めてですよ」
「そうなんですか」
僕達のまわりにも人はたくさんいるけど、ガヤガヤとうるさいので、誰も僕達の会話を気にしてはいない。
だからといって、こうも堂々と鳥になって上空から見ているとかいう発言をするのは、ちょっと危機管理意識が低いようにも思うけど。
「とりあえずはぐれないように、手を繋いでおきましょう! 失礼しますね」
そう言ってハルさんは僕の手を取った。
「あ、あの、ハルさん……」
今、僕とハルさんは手を繋いで歩いている。
なんだろう……
子供扱いされてる感じはないけど、恥ずかしい。
でもハルさんは全く気にしていないみたいで……
「圭君はどの屋台に行きたいですか?」
「えっと、そうですね……」
辺りの屋台を見渡してみる。
焼きそばは、あまりキャベツが入っていない感じだった。
あれなら僕が自分で焼きそばを作った方がいい。
チョコバナナとかも、作ろうと思えば作れるし……
何にしようかと悩みながら歩いていたら、
「あうっうっ、えっうっ……おっ、おかぁ、さん……うっうっ……」
と、泣き声が聞こえてきた。
「子どもの泣き声……ですね?」
「どこからですかね? 探しましょう」
ハルさんと2人で声のする方に行ってみる。
屋台の裏の、人があまり通らないところで蹲り、泣いている女の子を見つけた。
「どうかしましたか? 大丈夫ですか?」
「うっうっうえぇ……うっ、あっ、のね……おっ、おかーさんっ……いなくなって……うっ……」
「大丈夫ですよ。お母さんは私が見つけて来ますから、安心して下さい」
ハルさんはそう言って女の子を抱き締めて、頭を撫でて落ち着かせている。
こういう事に慣れている感じだ。
「お名前言えますか?」
「まっ、まな!」
「まなちゃんのお母さんの特徴とか分かりますか?」
「えっ、とっとく……ちょ?」
見たところ3歳くらいの女の子は、名前はまなというみたいだ。
特徴に悩んでいるのは、特徴という言葉の意味が分からないからなんだろう。
「今日のお母さんは、何色の服を着ていますか?」
「しろっ! あのね、おとーさんがまなのといっしょにえらんでくれたの……まなもおかーさんもきれいだねーって」
「それは素敵ですね。まなちゃんの今日の浴衣、とても可愛いくて似合ってますよ」
「えへへっ! ありがとう、おねーちゃん!」
もうまなちゃんは完全に泣き止んでいて、笑っている。
「まなちゃんの浴衣は、ピンク色に赤色や白色の大きなお花が入っていて、とっても可愛いですね。お母さんのは、白色に何色のお花が入っていましたか?」
「あのね、あおとかむらさきがいっぱい。でね、おはなもちっちゃいのがいっぱいなの」
しっかりとお母さんの特徴を聞きながら、同時にまなちゃんを喜ばせているハルさんは、本当に凄いと思う。
「なるほど~! じゃあ、お母さんは髪は長いですか? 短いですか?」
「ながいよ! まなもおんなじくらいあるの。よくまなと、おそろいのかみにするんだよ」
「今日もおそろいですか?」
「うんっ!」
今日のまなちゃんの髪型は、長い髪を綺麗に編み込んであって、可愛いかんざしが挿してある。
作るのは結構大変だと思うし、まなちゃんが凄くお母さんに愛されてるのが伝わってくる髪型だ。
きっと今頃、お母さんもまなちゃんを探して気が気じゃないだろうな……
「分かりました。じゃあ私がお母さんを探してくるので、まなちゃんはこのお兄ちゃんと一緒に待っていてくれますか?」
「うんっ!」
お母さん達がの心配をしていると、急にまなちゃんを任されてしまった。
僕で大丈夫だろうか?
でもハルさんは当然のように任せてくれたんだから、それは僕で大丈夫だと思ってくれたって事なんだから……って、そんな事よりも……
「圭君、お願いしますね」
「あ、ハルさん。ちょっと待ってください」
僕は急いで自分の携帯の電話番号を、紙に書いて渡した。
「とりあえずお母さんを見つけたら、1回連絡して下さい。お母さんが携帯を持っているといいんですけど」
「おかーさん、けーたいもってるよっ!」
「それなら大丈夫ですね」
ハルさんは携帯をもっていないので、お母さんの携帯で連絡してもらう。
まなちゃんもお母さんも、会える前に電話できたほうが安心できるだろうし、電話しながらこっちに来てもらえば分かりやすいだろう。
「圭君、ありがとうございます。では行ってきますね」
「はい、お願いします」
ハルさんは笑顔で手を振りながら、人の居なさそうな山の奥の方に走っていった。
多分、鳥か何かになって探すんだろうな。
「おにーちゃん……まな、おかーさんに会える?」
「大丈夫だよ。待ってる間暇だし、あそこで輪投げでもやろっか」
「いいのっ? やりたいっ!」
「じゃあ行こうか」
ハルさんがお母さんを見つけて来るまで、まなちゃんと屋台で遊んでいよう。
何だか久しぶりに、妹と遊んだ時の事を思い出した。
そういえば、こっちに来てから全然連絡もしてないな……
皆、元気にしているだろうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




