表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色のネコ  作者: 猫人鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

216/332

受け売り

圭君視点です。

 康司君からの相談を受けて僕が思った事は、嫌な事をどうして受け入れているんだろうという疑問だった。

 僕はハルさんに物事の受け入れが早いと言われているけど、受け入れられない事には抗議している。

 その結果で今の関係があると思ってる。


「つまり俺は、俺の思いをちゃんと麗華に伝えるべきだったってことだな……」


 僕の意見を聞いてそう言った康司君は笑っているけど、それはもう手遅れだとでもいうような、悲しい笑みに見える。

 伝えないといけなかったと分かったはずなのに、まだ伝えないでいるつもりみたいだ。

 でも僕も、自分の思いを伝える事の難しさは知っているからな……


「康司君は今、逃げてるんじゃない?」

「は?」

「今の関係が壊れるくらいなら、伝えなくてもいいって思ってるでしょ? 変化を恐れて、前に進もうとはせずに逃げたままでいる。でもそれは、今関係を壊す事に繋がっちゃうんだよ?」

「瑞樹……急に、何言って……?」

「僕も同じだったから……」


 康司君はあの時の僕と同じだ。

 変化を恐れて、前に進めていなかったあの時と。

 だったら先輩として、僕は康司君に伝えないといけないと思う。


「僕はハルさんに自分の思いを伝えるのが恐かった。ずっと友人として過ごしていたから、"好きだ"なんて伝えてしまったら、今までと同じ関係じゃいられなくなるって思えて……」

「それが、俺と一緒?」

「康司君もそうでしょ? 如月さんと変に揉めるくらいなら、変わらず友人のままでいいって、別れる事も受けれてる。自分の思いを伝えないままで……」

「そう、だな……」

「でもね、そうやって現状を保ちたいと思って進まずにいても、今の日々はいつか必ず壊れるんだよ。それは、自分が停滞を望んでいたとしても、周りの人達はそうじゃないから。一緒に停滞してくれるなんて事はなくて、皆が前向へと進んでいってしまう……」

「俺が、置いて行かれるのか……?」

「うん」


 凄く酷い事を言ってるのは分かってる。

 でも、未来がどうなるのかなんて分からない。

 これから先、如月さんに好きな人が出来たり、如月さんの事が好きで、前に進もうという勇気を持った人の行動によって、康司君は如月さんと友人ですらいられなくなってしまうかもしれない。

 だからちゃんと伝えるべきなんだ。

 あの時の土地神様も、こんな気持ちだったのかもしれないな。


「進んだ先に待っている何かを恐れて動かないんじゃなくて、それでも勇気を持って前に進んで行くことができる。これは、僕がハルさんとの関係に悩んでた時に言ってもらった言葉なんだ。だから受け売りなんだけどね」

「でも、それを聞いてお前は行動したんだろ?」

「うーん? すぐには無理だったよ。何かを得る事は、何かを失う事と同義だっていうのも言われてたから……」

「……なんか、お前の周り、凄いな」

「僕もそう思う。本当に僕は人に恵まれたよ」


 ハルさんや土地神様はもちろんだし、店長や稲村さん……

 家族だってそうだし、皆が僕のためになるように考えてくれている。

 僕が気付かなかっただけで、康司君だってそうだ。


「ちゃんと伝えるべきなんだろうな、今からでも……」

「その方がいいと思うよ。特に康司君は逃げてばっかりだし」

「逃げてばっかって、お前な……でもそうだからな……」

「如月さんの事もだけど、僕の事からも逃げてたでしょ?」

「あ? お前の事から逃げた? お前の事に関しては、都会に逃げたのはお前だけで……」

「僕から逃げたって意味じゃないよ。僕がおかしかったり、反応が楽しくなかったりしたのを、僕本人に言わなかったでしょ? 僕と仲良くなれなくなる事を恐がって」

「……」

「親御さんから仲良くしろって言われてたからって、嫌なら嫌って言うべきだったんだ。無理に仲良くしようとしたりしないで」

「お前からじゃなくて、親から逃げたって言いたいのか? 全く……あぁ、その通りだよっ!」


 怒らせちゃったかな?

 さっきの康司君のお母さんとの様子や、小学生の頃にずっと頑張って僕と関わろうとしていたっていうのは、親と向き合わなかった結果だろうから。

 でもこう言うって事は、親から逃げてる自覚はあるみたいだ。


「僕も親から逃げてたんだよ?」

「お前が?」

「うん。それもハルさんのお蔭で解決したけど」

「ふーん……」

「康司君も、一度ちゃんと親と向き合ってみたら? 怒られたり、喧嘩になっちゃうかもしれないけど、きっと分かり合えるよ。家族なんだもん」

「……へいへい、ご高説ありがとうございやした。じゃ、さっさと服を選ぶぞー。今ので時間が大分なくなった」

「はは、そうだねー」


 今の話で康司君が今後どうするのか、それは康司君自身が考える事だ。

 だから僕にはこれ以上どうする事も出来ないけど、上手くいけばいいと思う。


 とりあえず今は、ハルさんの隣で相応しいと周りの人にも思ってもらえるよう、康司君に協力してもらおう。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ