不器用
ハルさん視点です。
康司さんは圭君に対しての謝罪をしました。
これは口先だけの謝罪ではないようですし、私も良かったと思えます。
ただの嫌な事を言う人かと思っていたのですが、圭君とは幼少期から色々とあったみたいですし、康司さんも悩んでいたんですね……
「康司君……その、改めて僕の友達になってくれないかな?」
「はぁ?」
……いえ、前言撤回です。
やっぱり圭君に失礼な人でした。
そして圭君はこんな失礼さを許し、さらには友達になろうだなんて……優し過ぎます。
変に口出しをしない方がいいとは思いましたが、どうしましょうか。
この圭君の優しさは、圭君自身を苦しめる事に繋がってしまうのでは……?
「さっきも言ったけど、僕は友達っていうのがなんなのか、よく分かっていないんだ。それでも、向こうで僕を友達だっていってくれる人が出来たし、友達になる予定の人もいるんだ」
「友達になる予定の人?」
「まだ会った事はないんだけどね、会ったら絶対に僕から声をかけるって決めてる」
「お、おう?」
圭君が話しているのは、バイト先で知り合った稲村さんのことですね。
そして、その弟さんが同じ大学を目指しているとの事なので、その話をしているんでしょう。
ですが当然、康司さんは訳が分からず困っているみたいです。
「上手く言えないんだけど、自分からちゃんと行動して、友達を作っていけるような人になりたいんだ」
「……それは分かったけど、だからって俺に友達になれってのはおかしくないか? 俺は今までお前の事、散々言ってたんだぞ?」
「そーそー、康司と瑞樹君が今さら友達とか、流石にうけるって。ハルさんも嫌だよね?」
「嫌という事は……私は圭君が優し過ぎると思うだけです」
ちゃんと反省し、謝ったのであれば、それ以上に咎める必要はないと思います。
ですが、その謝罪を受け入れ許す事と、友達として受け入れる事には大きな違いがありますからね。
康司さんを許さないという事はありませんし、圭君が本当に康司さんと友達になりたいのであれば、私が嫌だというのも間違っていると思うので否定はしませんが、なんでしょうか?
素直には受け入れ難いです……
「散々言われる原因だったのは僕の方だし、寧ろそうして思っている事を素直に言ってもらえる方が、友達になれると思うんだ」
「……」
「確かにおかしいのかも知れないけど、僕は本当に康司君に感謝をしているし、ちゃんと向き合いたいって思ってる」
「……」
「だから、今は友達として認めてもらえなくても、いつかはちゃんと認めてもらえるように改善していくから……」
「……それは、お前も言うって事なのか?」
「へ?」
「だから、思っている事を素直に言うっていうのは、お前もちゃんと言ってくれるのかって聞いてんだよ!」
圭君が真面目に話しているのに対して、ぼそぼそと何かを喋ったかと思えば、今度は大きく荒らげて……
本当に失礼ですし、お店にも迷惑な人です。
ですが若干照れているようにも見えますし、発言の内容からしても、圭君の事を気遣っているのが分かりますね。
「うん、言うよ。今みたいに」
「でもどうせ、面白いかって聞いたら、どんな事でも面白いっていうんだろ? しかもその癖笑わないし、驚かせてもビックリもしない。嫌な事やってくれって頼んでも、嫌な顔1つせずにやるんだ」
「それは……」
「全然感情がねぇみたいにさ、お前はいつもそうだった……」
「……うん。それは変わらないかも知れない。でも、面白いと思っていたのは事実だし、多分康司君が頼んでた嫌な事っていうのも、僕には嫌な事じゃなかったんだと思うよ」
幼少期、康司さんは圭君に反応して欲しくて、本当にたくさんの事をしていたんですね。
楽しい事、驚く事、そして嫌な事も……
ですが圭君は受け入れが早すぎるところがありますし、表情もなかなか変化しませんからね。
だからこその笑った時の破壊力とかが凄いんですよね!
「……そう、だったんだろうな」
「え?」
「嫌な事だよ。お前は優し過ぎるから、俺達の思う嫌な事程度、なんとも思わない」
「う、うん?」
「でもこの間のは、本当に嫌だったんだろ?」
「この間?」
「だからあんな風に言い返してきたんだ……」
「あぁ、ハルさんの事だね」
「私ですか?」
急に私の話になりましたが、これは一体……?
「こいつ、あんたに捨てられたって俺達が言ったら、怒って言い返してきたんだ。自分と彼女は相思相愛だってな」
「あー、その事でしたか。昨日麗華さんも言ってましたね」
「私達からしたらかなりの衝撃発言だからね。発言の内容がっていうよりは、瑞樹君が言い返してきたって事がね。だから康司も混乱してて、私も気になった」
「正直意味分かんなくて、ずっとモヤモヤしてたんだけどさ、なんか解決したわ」
「何が?」
「俺が混乱してた理由。俺は多分さ、お前を怒らせれて嬉しかったんだと思う。そう思ったらモヤモヤも消えた」
「そっか……それはよかったよ」
ずっと嫌な事を言っていたのも、圭君に反応して欲しかったという思いがあったからなのかも知れませんね。
圭君にとんでもなく失礼な人だとばかり思っていましたが、どうやらとても不器用な人だったみたいです。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




