壁
圭君視点です。
僕が康司君にも感謝をしていると言うと、ハルさんは若干不機嫌になってしまった。
僕の事を思ってくれているからこそだというのは分かっているけど、出来ればハルさんには康司君と和解して欲しい。
でも、いつも優しくて笑っているハルさんが、こうも怒っているというのも、新しいハルさんの一面を知れたようで嬉しく思える。
そういう意味でも康司君には感謝をしてるんだけど、それは今言うべき事ではないな。
「折角のイチゴパフェが溶けてしまいますよ?」
「それは、そうなのですが……私は圭君がこの人に感謝を伝える必要はないと思っています。確かに圭君が私と出会うためなのきっかけとなったかもしれませんが、それは結果論に過ぎないのですから」
確かにハルさんと出会えていなかったら、あの時の康司君達の会話に感謝する事なんてなかったと思う。
だから結果論に過ぎない事に感謝をしなくていいというハルさんの意見も分かるけど、それは康司君達があの話をする原因を無視している事になる。
昨日如月さんと話したからこそ分かった事でもあるけど、僕は彼等に自分が傷つけられたように思っていたけど、僕だって彼等を傷付けていた。
ハルさんのお蔭で、皆との間に壁を作っていたのが僕の方であると分かっていたのに、僕はこうして帰省してもなお、その壁を壊そうとはしていなかった。
その証拠が、如月さんの名前を知らなかった事だ。
母さんも珠鈴も、"如月麗華"という名を知っていた。
それに如月さんが来た時点で卒業アルバムを振り返る事くらいは出来ていたのに、僕はそれもしなかった。
そういう僕の行動は、彼等との間にある壁を強固にしているだけで、何も向き合おうとはしていない。
その事に昨日気付かせてもらえたからこそ、康司君の気持ちも少しは分かるようになったんだ。
だからそれを、ハルさんにも康司君にも聞いてもらわないといけない。
「康司君に感謝しているのは、それだけじゃないんです」
「はい?」
「僕が小学生の時、康司君は僕とたくさん遊んでくれました。何をして遊ぶかといつも気にかけてくれて、僕を楽しませようと色んな事をしてくれました」
「そ、それは……」
「うん、知ってる。親御さんに言われてたんだよね? 僕と仲良くしておくようにって」
「あ、あぁ……」
例え親から言われた事だったとしても、ああして康司君が誘ってくれたから、僕は小学生の時に遊んでいられたんだ。
誘ってくれていなかったらきっと、僕はずっと1人だった。
現に高校でだって、全然自分から声をかけるなんて事も出来なかったんだから。
僕が得意なのは、強固な壁を作る事だけだっただろうし……
でもそんな壁を作ってばかりの奴と話していて楽しい訳はない。
そう考えると、僕はずっと康司君を苦しめていたとも言える。
「だから康司君からしたら、親から言われて仕方なくしてた事だったんだろうし、それだけ頑張ったのにも関わらず、僕の反応がなかったら、それは凄く嫌な事だったと思うんだ」
「……低学年の時はそうでもなかった。瑞樹はいつも優しかったし。でも歳があがるにつれて、全然楽しくなくなった。だってお前、誰に対しても優しいだろ?」
「それの何がいけないんですか!」
「一番仲良くしたのはずっと俺だったんだ! なのに別に瑞樹は、俺だけを特別に仲のいい友達だとは思ってない! ……くそっ」
康司君は凄く苦しそうにそう言った。
やっぱり康司君をずっと苦しめていたのは僕の方だったんだ。
特別に仲のいい友達か……
「ごめん……僕、友達ってなんなのか、よく分からなくて……」
これは正直言って、今もよく分かっていない。
少なからず小学生の頃の僕は、康司君の事を友達だと思っていたと思う。
そう思っていたからこそ、中学で聞いたあの言葉が辛かったんだから……
「別にお前が謝んなくていい……俺だって親から言われたから特別に仲良くなろうとしてただけなんだ。友達だと思われないのも当然だし……」
「その……友達だと思ってたよ? だからその、違ったっていうのが分かって……なんなのかよく分かんなくなって……」
「だったらせめて、親に俺と仲がいいって事くらい言ってろよ……そうしてくれてたら、俺は毎日みたいに瑞樹と仲良くしてるかって聞かれなくて良かったはずなんだ……」
「それは……言い訳にしか聞こえないと思うけど、僕の親はあんまり家にいなかったんだよ。だからそんなに話す機会もなくて……いや、うん。やっぱり言い訳だ。ちゃんと親とも向き合ってたら、話す時間なんていくらでもあった……」
「そんなに自分を責めないで下さい。純蓮さんも健介さんもとても忙しい方ですし、圭君は幼い珠鈴ちゃんの面倒も見ていないといけなかったんですよね?」
「それは、そうですけど……」
ハルさんが凄い庇ってくれている。
それに当時の僕の事を考えてくれているようで、少し涙目だ。
「圭君があれだけ面倒見が良くて、料理にも慣れているのは、幼い頃から頑張っていたからこそです。だから圭君が謝る必要なんてないんです」
「ですが……」
「お、俺も、そう思うぞ……」
「康司君……?」
「でも、ガキの頃の俺には、そんな事は分からなかったんだ。親に言われるのはお前のせいだって思わないと、その……やっていけなくて……だから、謝るのは俺の方で……その、悪かった……」
ずっと僕から目を逸らすようにして喋っていた康司君は、僕の方をしっかりと見ながら謝ってきた……
これはもう、僕が変な壁さえ作ろうとしなければ、康司君と分かり合えるという事だと思ってよさそうだ。
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