お祭り
ハルさん視点です。
「ハルさん、一緒にお祭り行きませんか?」
今日も圭君のお家にお邪魔して、クッキーを作らせてもらっていたのですが、私の作ったクッキーを食べていた圭君は急にそう聞いて来ました。
「お祭り、ですか?」
「今度、近くの神社であるそうなんです。花火とかも見られるらしくて」
「あぁ、お祭りがあるのは知っていますよ。毎年見に行っていますからね」
見に行くとはいっても、遊びに行くというよりはパトロールに行っていたという感じですけどね。
ああいう人混みは、何が起こるか分かりません。
だから毎年、鳥に化けて上空から様子を見るようにはしています。
「え……あ、じゃあ僕とは行けないですよね。すみません、急に誘ってしまって……」
「いえっ! 一緒に行けないなんて事はないですよ! 毎年行ってはいますが、誰かと約束して行っていた訳でもありませんからね」
私が毎度行っていると言った事で、圭君は私が誰かと約束をしていると思ったみたいです。
一緒にいけないのだと考えて、少し残念そうにしています。
こんな風にお祭りに誘っていただけた事も初めてですし、私と行く事を望んでくれているというのは嬉しいです。
「えっと、一緒に行けそうですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
別に私は鳥に化けて行かなければいけないという訳でもないので、全然圭君と一緒に行けます。
いつも鳥に化けて行っていたのも、上空の方が視野が広く見渡せるかと思っていただけの事ですからね。
普通に人間の姿で行くのも、いつもと違う視点で気付ける事があるかもしれません。
「ありがとうございます、楽しみです」
圭君は優しく笑ってくれました。
やっぱり1人で行くより、誰かと一緒の方が楽しいですよね!
「圭君は、あのお祭りに行った事はないんですか?」
「僕、こっちの高校に入るために田舎から出てきたんですけど、あまり親しい友人とかも出来なくて……もうこっちに来てから結構経つのに、地域行事とかに参加した事がないんです。だからお祭りにも行ったことがなくて……」
「花火も見た事はないですか?」
「地元の花火大会でなら、見た事がありますよ。そんなに大きくはないですけど」
「私、花火の絶景スポットを知っているので、一緒に行きましょうね」
「ありがとうございます」
これはお世話になっている圭君への恩返しをするチャンスですね。
絶対に綺麗な花火を見てもらいましょう。
お祭りを一緒に行く約束をして、お暇させていただきます。
それからもお昼ご飯をいただいた上に、クッキー作りを教えてもらうというありがたい日々を繰り返して、ついにお祭り当日になりました。
人間の姿で行くんですし、髪色は変えた方がいいですよね。
一応私、警察に探されていますから。
私の髪がピンク色なのは、染めている訳ではなく地毛です。
この世界には地毛がピンクの髪の人はいませんので、このままではかなり目立ってしまいます。
ですが私の場合、髪色は簡単に変える事ができます。
単にいつもの力で化ければいいだけですから。
今回は"黒髪の女性"にしておきましょう。
圭君とは神社の少し前の道で合流してから、一緒にお祭りへ行く約束をしています。
私のような誰なのかが説明出来ない存在が、圭君の家から出て来るというのは、誰かに見られていた時に困りますからね。
私が約束の場所に着くと、圭君はもう来ていました。
少し早く来たつもりでしたが、お待たせしてしまったようです。
「お待たせしました、圭君」
「ハルさん……黒いですね?」
「はい。やっぱり髪色は変えないと目立つので……」
「印象が違って驚きましたが、ハルさんは黒髪も似合いますね」
「ありがとうございます」
無事圭君と合流できましたし、お祭りに出発です。
神社の方へ向かって階段を登って行き、沢山の屋台が並ぶ道に出てきました。
美味しそうな匂いがたくさん漂っていますね。
「こんばんは、瑞樹さん」
「あぁ、石黒さん。こんばんは」
「彼女さんとデートですか? お邪魔してしまいましたね」
屋台の方へ行こうとした矢先、後ろから圭君が声をかけられました。
振り返ると見覚えのあるような、無いような男の人です。
圭君のお知り合いのようですが……?
「いえ、彼女という訳ではなくて……」
「彼女ではないのですか? では、どういうご関係で?」
「関係? そうですね……大切な友人です」
「なるほど……あまりお邪魔しても悪いので、もう行きますね。また何かあったらいつでも連絡を下さい」
「はい、ありがとうございます」
なんでしょうか?
今の圭君を探っているような感じは?
やけに私の事も気にしているみたいでしたし……
「あの人、誰ですか? 何か見覚えがある気がするのですが……」
「石黒さんっていう刑事さんですよ。前に家に訪ねて来た人です」
「あ~、あの時の……何か、以前と雰囲気が少し違いましたね?」
「そうですか?」
雰囲気と言っても、私は話した事はなく、ドアスコープから見ただけでけどね。
あの時は普通に仕事熱心な刑事さんだと思いましたが、さっきは少し怖い感じがしました。
まぁ、あまり変なことを言って圭君を困惑させる必要もありません。
私とはもう会うことも無いでしょうし、気にしないでおきます。
圭君の方を見ると、何かを考えている様子でした。
私が変な事を言ったせいで、圭君も悩ませてしまったようです。
「あの、ごめんなさい。気にしないで下さいね? それより圭君、屋台の方へ行きましょう!」
「そうですね」
楽しいお祭りと圭君への日頃のお礼はこれから始まるんです。
それに私も人の姿でこのお祭りに参加するのは初めてですからね。
どんな屋台があるのか、とても楽しみです!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




